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コミティア30参加情報&合同誌「少女文学 第二号」小野上明夜サンプル

「COMITIA130」参加情報

2019/11/24(日)開催のCOMITIA130に参加します。

東京ビッグサイト 西2
U60b「少女文学館 本館」、U60a「少女文学館 別館」

(合同サークル・合同会計です)

今回は個人の新刊はありませんが、合同誌「少女文学 第二号」に参加しております。以下は私の分のサンプルです。

※全体のサンプルについては↓の記事をご覧ください。

「青いルビーの騎士」

あらすじ

アディソン、クリストファー、ロザリンド。レデリック王国を支える三つ首に生まれた三人は仲の良い幼馴染み。しかし子供時代が終わっても、騎士になりたいと譲らない「おてんばアディソン」をクリスは心配しどおし。愚かな夢を捨てるよう、本人にも周囲にも言い聞かせるが、誰もが彼の思いどおりにならないのだった。

前回とは別の切り口でつらい話ですが、前回よりも「少女」の話だと思っています。扉絵の三人の笑顔を瞳に焼き付けてからご覧ください☆

※※※

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 おてんばアディソン、問題児ながら愛すべき幼馴染みに再会できる日を、クリストファーは本当に楽しみにしていたのだ。
「うわあああああああああ!!」
 静謐であるべき修道院の面会室に響き渡るクリストファーの大声。付き添いを務める中年の院長がかすかに眉をひそめたが、それどころではなかった。
「き、君、どうしたんだ、この髪は!?」
「だって今の私は修道女だよ? 髪が短いのは当然だろう」
 ベールを取り去り、窮屈なウィンプルを外して赤っぽい金髪を露わにしたアディソンは、さっぱりしたとばかりに頭を振った。その髪の長さは、うなじをかろうじて覆うほど。久しぶりに会うのだからと、先日散髪をしたクリストファーとほぼ同じだ。クリストファーも金髪であるため、並ぶとまるで兄弟である。
「あなたはただ、行儀見習いとしてラドス家よりお預かりしただけの方ですから。髪を切る必要はなかったのですけどね……」
 院長はこれみよがしに零すが、アディソンはどこ吹く風である。レデリック王国の三つ首が一つ、偉大なるラドス家の子女とは思えぬ奔放さは、修道院に二年放り込まれた程度では改善されなかったようだ。
「まあまあ、いいじゃないですか。このほうが髪を洗う水も節約できて、清貧であるべき修道女としては……おっと!」
 不意に一歩踏み出したアディソンの腕が、崩れ落ちかけた令嬢の華奢な体を抱き留める。もう一人の幼馴染みであるロザリンドが、アディソンの有様を見た瞬間に気を失ったのだ。アディソンと違って長く伸ばしている茶の巻き毛が可憐に宙を舞った。
「何かあれば、律儀にすぐ気絶、か。ローザも、より一層淑女らしくなったようだね」
 感心したような呆れたようなアディソンに続き、クリストファーも慌てて反対側から婚約者を支えた。気を失った人間は重い。アディソン任せにしておくのは彼女の負担が大きすぎるし危ない。
「君と違って、ローザは昔から繊細だからね。しばらくは目を覚まさないだろうから、馬車に運ぼう。アディソン、君の荷物はその次だ」
「問題ないさ。自分で持てる。修道女には大した私物はないからね。ローザだってこのまま私が運んでも問題ないが、ここは婚約者殿の顔を立てようか。それではシスター、みんな、ご機嫌よう!」
 ロザリンドをクリストファーに預け、アディソンは大きな鞄を持ち上げた。次いで振り返った彼女の挨拶を聞いて、扉の向こうで息を殺していた修道女たちが廊下から雪崩れ込んできた。
「ご機嫌よう、アディソン! 我が青春の君!!」
「悲しいわ。あなたがいなくなったら、誰が虫を外に逃がしてくれるの?」
「またいつでも、遊びにいらしてね!」
「私も家に戻ったら、会いに行きますから……!!」
 目を丸くしている尼僧そっちのけで、修道女たちは口々にアディソンとの別れを惜しんだ。生涯をここで暮らすことを余儀なくされた者も、アディソンのようにいずれは家に戻る者も区別なく、その表情は真剣そのものだ。涙ぐんでいる少女も多く、クリストファーは驚いてしまった。
「ああ、待っているよ。みんな、離れても私のことを忘れないで!!」
 芝居がかったしぐさでアディソンがそう応じた瞬間、修道女たちの興奮は最高潮に達した。キャーッと悲鳴とも雄叫びともつかない声が上がり、中にはちゃっかり院長も含まれている。クリストファーはすっかり圧倒されてしまった。
「大人気だね……」
 取りすがらんばかりの修道女たちの態度は、同じ境遇に耐えた友人との別れを惜しむというより、初恋の男と引き離されるに近い。颯爽とした美貌の持ち主であるアディソンは、確かに性別を超えた魅力の持ち主であるが、ここまで彼女たちの心を掴んでいるとは思わなかった。
「穏やかで優しい女性たちばかりだから、私のような個性が珍重されたという訳さ。ああ、でも、彼女たちには悪いが嬉しいよ。なにせあそこでは、遠乗り一つできやしなかったからな」
 修道院を離れ、用意されていた馬車に乗り込んだアディソンは、窓から入ってきた羽虫をぱしりと手の平で打ち落として笑った。
「来てくれてありがとう、愛しきクリス。帰ったら、君とあの草原に行けるのが楽しみだ!」


 クリストファー・ハイトール、ロザリンド・プラウス、そしてアディソン・ラドス。同じ年に生を受けた三人は、未来のレデリックを支える三つ首の一員として、幼い頃から交流があった。
 三つ首は持ち回りで王妃を輩出することで権力を分散させ、レデリックの秩序を保つ役目を担っている。その取り決めに従って、王子リカルドはクリストファーの妹であるエルザと婚約した。
 リカルドは五歳、エルザはまだ目も開かぬ赤ん坊であったが、貴族ならよくある話だ。破棄されることも多いのに、某家の子息との婚約を嫌がって修道院に放り込まれたアディソンのほうが珍しいのである。
「今回の王妃当番がハイトールで助かったよ。おかげで私が王妃にならずに済んだ」
「私も……正直な話、助かりました。リカルド殿下は少しばかり乱暴な方だと聞き及んでおります。クリスのような優しい人と婚約できて、よかった……」
 アディソンが笑うと、ロザリンドが控えめに同意する。
「なんだい、二人とも。僕の妹が貧乏くじを引いたとでも? そりゃ殿下は、男の僕から見ても恐ろしいところがあるけれど……」
 クリストファーが肩を竦めるふりをすることで終わる、いつものやり取り。同じ三つ首とはいえ、王妃を出した家がどうしても重視される傾向が強いため、他の二家のやっかみを買いやすい。二人の態度は逆にありがたかった。
 リカルドが苛烈な性格であることも残念ながら事実だ。その傾向はアディソンが修道院に入っている間に変わることはなく、伝え聞く限りむしろ悪化の一途を辿っている。伝聞に留まっているのは、王妃を輩出した代の三つ首は権力を偏重させぬよう、王宮での奉職を遠慮するからである。
「だが、リカルド殿下は武芸に秀でていると聞く。それはいいことだ、一度お手合わせ願いたい」
「アディソンらしいな」
 苦笑するクリストファーとアディソンは二年ぶりに馬を並べ、ハイトール家の領地内にある広々とした草原を駆けていた。抜けるような青空の下、どこまでも続く緑の果てを追うように走るのはいつだって気持ちがいい。ひづめが蹴散らした草の新鮮な匂いが心地よく鼻先をくすぐっている。
「でもね、アディソン。遠乗りはまだしも、それはさすがにやめておいたほうがいいんじゃないか。君は女性としては背が高いほうだし、骨格もしっかりしているが、武芸については正規の訓練を受けたことはないだろう?」
 奔放で男勝りなアディソン。彼女は今もピクニックの用意を広げて木陰で待っているロザリンドと違い、昔から体を動かすことが大好きだった。年の離れた兄たちはとっくに家を出ているせいもあって、一人娘に甘い両親をいいことに、貴婦人に求められるレベルを越えた馬術を身に着けたほどだ。
 しかし、武芸の訓練はさすがに止められた。馬術のほうも、娘らしさが勝る年頃になったからだろう。じりじりとクリストファーの馬が彼女を引き離しつつある。
「修道院ではずっと乗っていなかったんだ、仕方がないじゃないか! 女性用の乗馬服は洒落っ気ばかりにこだわって動きにくいし!! 父上も母上も、私が今さら淑女になるはずもないのに、無駄なことをしてくれたものだよ、まったく」
 クリストファーの胸中を読み取ったアディソンが文句を言い、愛馬の脇腹を強く締め付けて速度を上げた。ここで体力を消耗させるのは逆効果ではないか、とはクリストファーは言わず、正々堂々とアディソンを引き離してお茶の席で噛みつかれ、ロザリンドに取りなされたのだった。

※※※

実際の本文は↓のような感じです。

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サンプルはここまでです。当日はよろしくお願いします!

なお、扉絵は二パターン考えていただいたのですが、もう一案はこちらでした。

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迷った末に採用案にさせていただいたのですが、多分話の内容としてはこっちのほうが合ってるんだけど、あえて……みんなの笑顔というか……幸福な未来を見せておきたいなと思いまして……

通販については、合同誌は栗原ちひろさんの栗原移動遊園売店にて取り扱いが始まっています。

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小説家。「死神姫の再婚」でデビュー以降、主に少女向けエンタメ作品を執筆していますが、割となんでも読むしなんでも書きます。RPGが好き。お仕事の依頼などありましたらonogami★(★を@に変換してね)gmail.comにご連絡ください。