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小劇場固有の楽しみ方

劇団のTwitterアカウントでアンケート機能を使用してどんな物販が良いかというのを試しにやってみた。あくまでも参考までになのだけれど、実際に製作する場合のロット数とか、そのロット数によっては製作できないとか、すぐに頭に思い浮かぶものって何かなぁとか、そんな風に参考にできればいいなぁと思っていた。想像以上にコメントが付いてアンケートそのものを楽しんでくださる方がいて、具体的にイメージできることは楽しいんだな、そういうことを逆にお客様に直接聞いちゃうなんてあんまりないんだなぁとわかった。一番投票が低い奴は小ロット製作して販売せずに出演者だけが持ってるアイテムにしちゃおうとか色々考えられる。

Twitterのアンケート機能は4択までしかないので色々悩んだのだけれど、1月の公演ということもあって唯一印刷系で「カレンダー」も選べるようにしておいた。印刷系は実現性が実は低かったりする。衣料系であればロゴ製作とデザインで済むけれど、印刷系はそこに写真撮影が入ってくるから衣装やロケ地の確保、カメラマンブッキングなどがどうしても必要になってしまう。だから本当は選択肢に入れるつもりもなかったのだけれど1つぐらいと思って最後に追加したのだった。面白かったのはついたコメントで卓上カレンダーを想定している方と壁掛けカレンダーを想定している方がいらっしゃったことだ。まるで大きさも使い方も違うのだけれど確かにどちらもカレンダーではある。恐らく壁かけだと思ってたお客様がチラシの写真のポスターのようにというコメントがあって、うちの当日パンフの表紙はチラシデザインですよ!という返信をしたら、なくならないうちに行きます!と返信があってハッとした。当日パンフという文化は小劇場特有の文化なのかもしれない。

当日パンフレット

映画でパンフレットと言えば販売されているパンフレット。物販ブースで毎回購入されている方もいらっしゃると思う。大きな劇場での商業演劇などでもパンフレットは主力商品の一つ。鑑賞後にも作品世界を楽しんでいただける重要なアイテムでもある。小劇場でも時々販売することがあるのだけれど中々難しいのが現状だったりする。映画であればすでに作品が完成しているから素材も多く用意する時間もあるけれど舞台の場合は小屋入りするまで舞台の写真を撮影できるわけじゃないからそもそも素材が圧倒的に足りないというのが大きな一因。しかも小劇場ともなると、ほとんどの物販や印刷物は劇団内部で製作されるから公演前は更に時間が限られてしまう。うちもパンフレット製作を過去にやったことがあるけれど全て外注で、とても人気で数多く売れたにもかかわらず外注した分だけ赤字を抱えてしまうという困った事態になった。限られた時間内で内部製作出来るか?と聞かれるとやっぱり製作は難しい。もちろん単価をあげるなんてことだけはしたくない。商業演劇のように数が多ければ別だけれど。

もう一つの理由が当日パンフレット。いわゆる「当パン」。
大きなメディアで宣伝されることが少ない小劇場の宣伝は長くチラシ配布がメインだった。映画館では待ち時間にラックから好きなチラシを持って帰ったりする置きチラシがメインだけれど、小劇場では入場時に渡されたり椅子の上に置いてある折り込みチラシがメインだったりする。そしてアナログだった時代は必ずアンケート用紙が入っていた。作品に対する参考意見と次回公演のご案内の郵送先を聞くためには必須だった。どの劇団にとっても顧客リストこそ宝だったからだ。それを二つ折りの紙でまとめておくのだけれど、その紙を当日パンフレットと呼ぶようになっていた。一体いつからあるのかもわからないけれど。

普通のコピー用紙にあらすじや作家のコメントやキャスト/スタッフの名前、簡単な情報を列記しているのが普通だろうか。直前に作るからコピーで作るのが一番多いのだと思う。ただ実は印刷とコピーでは印刷の方が今は圧倒的に安価になっているから、うちは稽古まっただ中の一週間前に準備して印刷入稿できるようにしている。スケジュールはタイトになるけれど、お客様が持ち帰ってくださる率が実はそれで倍以上に跳ね上がった。そのままそれは喜んで下さっているのだと思っているのだけれど。これにサインしてほしいなんて言われることも最近はあって、コレクターズアイテムの一つまで昇進してほしいなぁと思っていたりする。

小劇場という空間

興行では席の埋まり方の定番がある。例えば映画館であれば最後列真ん中から埋まっていくし、ライブハウスなどの音楽であれば最前列から埋まっていく。音のバランスは当然真ん中が一番良いはずなのだけれど、それ以上に演者との距離感を近くしたいという思いが強いということなのだと思う。ライブハウスの最前列ではアンプラグドでもない限りバンドの歌詞がまともに聴こえた事がないのに。
そんな中で小劇場の埋まり方って少し変わっているなぁと思う。全くその日によって違っていたりする。自由席でも指定席でもなんとなく決まっていない感じがある。

恐らく空間的にそういうことになっていく。全体が見える後ろが良い人もいるけれど、ダイナミックな前が良いという人もいる。或いは上手(カミテ)下手(シモテ)でまるで見え方が違うから二回試す方もいらっしゃる。実際、視点がカメラである映像とは違って、演劇の視点は座席で決まる。どこに座ったって役者やセットがかぶってあのシーンのあの役者の表情が見えなかったという事が起こりうるのが小劇場だったりする。それに花道芝居と言って観客導線で演じる演出なんかがあると花道そばで観たい!なんてことも起きたりする。もっというと自由席の小劇場では日によって椅子の並べ方レイアウトが多少変わる事さえある。初日に観劇して、後日別の席でもう一度観たいと当日券を求めてくださることもあるのが小劇場という空間。

手が届くほどの距離感で生で役者が演じるというのが最大の小劇場の魅力。そしてライブハウスなど小さな空間だけが持つ一体感。小劇場とは既に空間が大きな演出をしている。

終演後の挨拶

終演後にロビーなどでお客様と出演者が普通に挨拶をしている風景を小劇場ではよく見かける。大きな舞台などで関係者だけが楽屋に案内されて・・・というのとは少し違う風景。実は自分はあれが脚側としてあんまり得意ではなかった。特に知り合いの舞台を観に行った時、ちょっと声をかけていこうと思ったら話が拡がっちゃったりして、そうすると途端にその役者と話したい人が待ってるんじゃないかと心配になったり、或いは知り合い特権みたいな感じになっていないかと不安になるからだ。知り合いがいない舞台やインディーズムービーを観に行って、知り合いとばかり話す役者からなんだか無視されているような寂しい思いをしたこともあった。だから自分が出演するときはなるべく一人の人と長く話さず、なるべく自分からありがとうございましたと言うようにしている。特にはじめましてのお客様が遠慮してしまうような空気にはしたくないからだ。

小劇場の世界では終演後楽屋に戻って衣装を脱いでメイクを落としてからロビーで挨拶という暗黙のルールがあった。衣装を着ている姿は物語の中の登場人物でありそのイメージを損なうことはお客様にとって良いことではないと言うのがその理由だった。古い舞台俳優は今もこれを口にするのだけれど、実はうちの劇団は自分が入ってから衣装でのロビー挨拶にとっとと切り替えてしまった。理由は簡単でその頃デジカメが浸透し始めたからだ。写メールが出たばかりの頃だったけれど、当時は携帯でよりもデジカメが多かった。お客様は衣装を着た役者と一緒に写真を撮影できる。それは思い出になるし、楽しんでくださるなら暗黙のなんちゃらなんかどうでもいいだろう?と。始めた頃は演劇関係者に苦言を言われた役者もいたらしいけれど。今は他の劇団でも同じようなことをしているケースも多い。

映画の舞台挨拶後のロビーでのお見送りで面食らったのは時間の制限が曖昧だったことだ。次の上映作品が上映されている間、ロビーで自由にお客様と話が出来た。実は小劇場だとそういうわけにはいかない。劇場は箱としてお借りしているから当然契約上の退館時間が決まっているしそれを超えれば延長料金が発生する。舞台監督さんは最後に楽屋や電気のチェック後に出るから長引けば延々と待つことになってしまう。衣装で舞台挨拶をすれば着替えて荷物をまとめて出るまでの時間を考えておかなくちゃいけない。夜の公演だけでは無くて昼の公演でも夜の公演の準備がある。プリセットをしなくちゃいけない。時々昼の公演だからとサービス精神旺盛な役者がお客様とずっと話していて食事すら摂れなかったなんてイージーミスをする。生で人前に立つのだからコンディション調整は仕事のひとつなのだけれど、それで夜の公演に影響があればそれが一番お客様に失礼になったりもするのだ。そして中にはそんな最中も舞台上の掃除をしたり、客席を掃除したり、会計の確認をしている出演者たちもいたりする。

限られた短い時間だからこそ、貴重だし楽しいという側面もある。
特に他のお客様と話している間待っていて最後に話そうとされるお客様に時間です!と伝えるのは心が痛いのだけれど。そこまで含めて小劇場の楽しみ方なんじゃないかって思うしかない。

小劇場だけが持つ小世界

小劇場というのはビジネスでみれば小さすぎる世界。そしていつなくなってもおかしくない綱渡りで興行が行われている。そこにはそこにしかない魅力がある。演劇人は「アングラ」という言葉を使用する。アンダーグラウンド、いわゆる地下演劇という言葉だけれど、演劇人が使用する場合60年代から70年代に隆盛を極めた世代、唐十郎さん、寺山修二さん、鈴木忠治さん、太田省吾さんを思い浮かべている。けれど最近知ったのだけれど、演劇人ではない一般の皆様にとっては小劇場とはアングラ演劇なのだそうだ。小さな劇場でやっているもの、劇団による公演は全て地下演劇という認識。確かに無名な役者たちが汗だくになって作品に取り組んでいると言うのはなんだか地下のイメージかもしれない。サブカルと言われることはあってもアングラと言われるのはあまりなかったから新鮮だった。

小劇場に流れる空気は独特だ。狭い空間なのに信じられないほどの暗闇になる。暗転と呼ばれる演出された暗闇は徹底して光が漏れないようにチェックされている。その暗闇の中で役者たちは動き、立ち位置に移動したり、大道具を動かしたりしている。うっすらと足音と息遣いと気配だけがする。
お客様の笑い声が聞こえるほどのすぐそこに楽屋がある。実はお客様と同じ空気を同時に体感し続けている。舞台上に登場していない役者も常にそこにいる。そこに在る。
興奮してほんのり顔が紅潮するところまで見える。汗のしずくさえ。
小さな緊張感が手に取るように分かる。微かに震える声まで。
セリフの裏側にある心の動きがいつの間にか手に取るようにわかるようになっている。まるで小劇場はそれだけで一つの世界だ。小さな小さな世界

小劇場の魅力なんてこれでもまだまだ書ききれていない。
濃密な演劇体験をすれば頭ではなく体でわかることがある。
文章だけでは到底無理な話だ。

映画製作をして様々な映画館に足を運んで。ほんの一歩だけ離れた場所から客観的に観たからこそなんだかわかった。体温を感じる映画だと言ってもらえたからこそ気付けた。

この世界のあまりにも甘美な魅力に。

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。