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橋の下の、暗がりから。

島田の夜。

帰路、灯りのない橋の下でうごめくなにかの気配に気づく。
川べりの真っ暗な草むらの中を這いずり回る三つのなにかが、ある。

人では、ない。
タヌキにしては、でかすぎる。
圧倒的な質量感と、特徴的な鼻息、、、フゴフゴ…?

田舎に住んで1年半。
とうとう、出くわしたのかもしれないな。と、思う。
橋の下にいる、あれ。
名前は知っているけど見たことのない、あれ。

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都会に住んでいた頃にはたまにニュースで見るくらいだったけれど、田舎に来たらイノシシの話題はずっと身近なものになった。
この1年半の間に聞いたイノシシにまつわるお話には、例えば以下のようなものがある。

・イノシシと面と向かって対峙してしまったら、もはや逃げる術はない
・畑の箱罠(鉄製のケージに餌をおいておびき寄せ、扉を落として閉じ込める罠)に、数百キロという化け物のような個体がかかった
・ある朝起きたら畑が掘り起こされてめちゃくちゃになっていた。きっとイノシシの仕業だ
・夜中に「ドーン!」という音とともに、巨木が揺れているのが見えた。きっとイノシシの仕業だ
・捕まえたイノシシを猟友会の人に撃ってもらった
・猟友会の人がライフルを撃つためには近隣の全戸に注意喚起をまわして、厳戒態勢を敷く必要がある
・撃ったイノシシを精肉所で肉にしてもらって食べた。脂の部分が特に美味
・野生のイノシシは病気を持っているので食べてはいけない
・裏の畑のおじさんがイノシシに出くわして、怖かったらしい
・川向こうの工場の社員がイノシシに出くわして、怖かったらしい
・保育園のそばにイノシシが出て、怖かったらしい
・となりの山で箱罠が壊されていた。妨害をしている動物愛護団体の人というのがいるらしい
・うちの山のどこかに、巨大な個体が住み着いているらしい
・となりの街から、一家で流れてきたイノシシの家族がいるらしい

…などなど。
枚挙にいとまがない。

嘘か本当か分からない話も多くて、なにがなんだか分からない。
でも確実に、イノシシという生き物には島田では特別な意味がある。
イノシシという存在そのものに、何かお祭りのような意味をみんなが感じているのだと思う。

実際に自分では出くわしたことがなかったので、「お祭りみたいな生き物だな」というようなことを思い、いつか出会える日を楽しみに感じてもいたように思う。

そんなイノシシ(と思われる存在)が、とうとう目の前に現れた。
暗くて姿は見えないが、草むらの中で何かを漁っているあのカタマリはイノシシ以外では説明がつかない。
三頭いるように見えるのは、家族なのだろうか。

そしてなによりもその物質感というか、質量感というか、存在感。
「闘ったら勝てない」ということを、肌で感じる。

怖い。
橋の下と上という離れた場所ではあるけれど、走って追いかけられたら逃げ切れる気がしない。

…というわけで、早々に逃げ出してきてしまった。
初めての遭遇だったけれど姿をとらえることはできず。
またいつか出会うこともあるかもしれない。

全く何も見えないけれど、いちおう撮ってみた写真を載せておくことにする。

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…と、いう文章をかつて書きました。

この文章を書いた時点で島田に移って2年近くが経っていましたが、なんとなくこの辺りが「田舎の小さな制作者」として生きていく覚悟が決まったタイミングだったような気がします。
そんなわけで、自分用のメモとしてここに載せています。



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都内の制作会社で働いていたけど、いろいろあって静岡県島田市に移りました。田舎と都会を行ったり来たりしながら、働いたり、暮らしたり、考えたりしています。https://kagikakko.net/
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