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ポルシェに乗った地下芸人.19

 「熱湯ではなく熱した油に入る」「中世ヨーロッパの拷問器具を実際に試す」「雪の中に裸で埋められて眠くなるまで待って、一番面白い夢を見た人が優勝の大会」など、YU-TAはテレビでやりたい企画を僕に次々に話してくれた。

 もちろん、そのすべてに全力で相槌を打つ。批判的なことは一切言わない。言っても仕方ないし、実現する方法がもしかしたらあるかもしれないのだから。 

 話題はネタ作りのことになってきた。YU-TAがネタの作り方を話してくれた。

 「俺は、メモ帳持って散歩するんですよ。で、いろんなアイデアが浮かんだらどんどんメモしていって、家に帰ってそれをもとに小道具作ったりフリップ書いたりしてネタを組み立ててますね。」

 ほほう。それは意外だった。彼のような荒唐無稽なネタは、特殊な作り方をしているのかと思ったが、全然違った。町を歩き、頭に浮かんだことをメモをする。普通である。

 なぜブリーフでネタをやっているかも聞いてみた。

 「最初は服着てネタやってたんですよ。で、変態ジェントルマンっていうキャラを考えて、下半身がブリーフで上だけネクタイとジャケット来てるキャラなんですけど、それやったらわりとウケたんですよねえ。で、それ以降に普通に服着てネタやってると、今日は脱がないのかって聞かれるようになって、あんまりウケなくて。それで最近はずっとブリーフですねえ」

 これまた意外と普通の理由だった。あまりにブリーフのインパクトが強かったから、それに引きずられてるだけだった。しかしここからだYU-TAである。

 「汚れ芸人って、みんな芸歴重ねておじさんになってから裸になったりするじゃないですか。若手で汚れ芸人って少ないんでチャンスだと思うんですよ」

 これには僕も

 「それはすごい良い考えです。お笑いは分かりませんけど、ビジネスでは成功するパターンですよ。」と称賛した。

 赤いほっぺの素朴なブリーフ青年は、無意識にブルーオーシャンへ漕ぎ出していたのだ。ランチェスターもびっくりである。

 YU-TAはまんざらでもなさそうにはにかんで、僕の誉め言葉に耳を傾けている。かわいいやつめ。

 僕はネタ作りのアドバイスを求めた。

 「まあ、ジョニーさんはひとつでも爆笑を取ることが目標ですね。一か所でもお客さんがドッと笑うようなネタが作れたら、そのウケた部分を膨らませていけばいいんで」

 なんと明快なアドバイスなのだろう。この青年は只者ではない。そう僕は確信した。

 「YU-TAさん、さすがですよ。めちゃくちゃアドバイスが分かりやすいです。これからもアドバイスしてもらえますか?」

 と頼んでみた。YU-TAはまたもはにかみながら

 「じゃあ、俺の弟子になりますか?」

 と冗談っぽく言ってきたので

 「なります!!師匠、よろしくお願いします」

 と即答した。レスポンスは速攻で。確か欽ちゃんがそう言ってたと聞いた。

 こうして僕は、素性がいまいちよく分からないブリーフの青年の弟子となった。

 これは望外の展開になってきた。弟子という形をとれば、彼らにより近づく事ができる。すぐ近くで彼らの生態を観察する事ができるのだ。

 ジャーナリストとして、社会の枠外で蠢く彼らの生態をつぶさに観察して記録に残し、社会に発表するのだ。暗闇にスポットライトを当てる事こそジャーナリストの役割ではないか。真実を白日の元に晒すのだ。

 と、なぜか僕はジャーナリストとしての気概に満ち溢れてしまっていた。こうして、軽はずみな気持ちで出演したお笑いライブがきっかけとなりズブズブと沼にハマっていくのであった。

皆さまの支えがあってのわたくしでございます。ぜひとも積極果敢なサポートをよろしくお願いします。