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ポルシェに乗った地下芸人.21

 相方募集の掲示板を読んでいくなかで、ひとつに目が留まった。こんな事が書かれている。

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年齢26才男です。養成所出てからフリーで8年ほど活動しています。

年齢が近い方、性別は問いません。漫才とコント両方やりながら自分達に合ったスタイルを見つけられたらと思います。

ネタは自分でも書きますが一緒に作るスタイルでも大丈夫です。

好きな芸人さんはサンドウィッチマンさん、ナイツさん、東京03さん、関西だと天竺鼠さん、金属バットさんです。

何度かコンビを組みましたが、相方が本気じゃないので解散しています。

お笑いで食って行くために本気の方、ぜひ連絡ください。

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 ふむ。たしかに年齢が近い方が感覚も合うしやりやすいのは分かる。養成所に行ってフリーという事は、養成所を運営している芸能事務所にスカウトされなかったという事だろう。それでもめげずに活動を8年しているのは大したものだ。

 ん?8年??こいつは8年もどこの事務所にも入らず活動しているのか!?なぜなんだ。なぜフリーで活動するのだろうか。意味が分からない。

 私はお笑いの活動をし始めたわけだが、プロになりたいわけではない。本業はジャーナリストなのだ。あくまで潜入取材をしているのだから、芸能事務所に入るわけがない。入りたいとも思わない。まあ、取材的には入った方が良いのかもしれないが、現実的ではない。

 しかし、しかしである。この26才君はプロとして本気でやっていくつもりがあるらしい。いくらSNSで個人が世界に発信できる時代とはいえ、8年もフリーで活動とはどういう事なのだろうか。しかも、コントと漫才を両方やりたいらしい。

 よく分からないが、漫才とコントは両立できるものなのだろうか。テレビで見かける人気芸人はどちらもやってる気がするが、やっぱり面白いのはどちらかに偏ってる気がする。漫才をコント風にやったりその逆であったりするパターンもよく見る。

 きっと得意なパターンがそれぞれにあるのだろう。26才君は、両方やりながらそのパターンを見つけようとしている。

 何度か解散をしているが、解散理由は相方の本気度らしい。本気で目指しているのにコントか漫才か定まっておらず、相方を理由に解散しているというのは、いかがなものなのだろう。本人の人間性が全く読めてこない。

 そもそもが、好きな芸人が関東と関西で真逆すぎるだろうと思う。しかも漫才師とコント師が混在している。

 私の推察はこうだ。

 彼はお笑いに対してとても高い理想を持っている。そして、自分はその理想を実現できる能力があると信じている。しかし、相方のせいでその能力が十分に発揮できていないから解散した。理想を実現できる相方が欲しい。

 と思っているのだろう。だが現実的には彼にその能力が無いのだ。そんなもんはこの自己紹介の文章で分かるではないか。

 芸人とは表現者であり、己の人間性と話術で思想を表現し笑いを起こす。なのにこの26才君は何も表現できてないではないか。この文章を見て彼がどんな人間なのか伝わらない。いや、間抜けな人物像だけは浮かぶ。そして相方に求めるものも分からない。何をやりたいのか、何ができる相方が必要なのか。8年もやってそれが分からないような人なのだ。

 しかし、こうも思った。「これくらいバカだっていうのも才能だ。普通はこの程度の能力だと恥ずかしくて人前で自己の意見など述べられるはずもない。しかし彼はネットの掲示板とはいえこんな事を恥ずかしげも無く書いているではないか。とするなら、お笑い芸人としてはこのイタさも武器なのではないか。」

 面白そうなのでこの26才君に会いたくてなってきた。年齢条件は大きく異なるが、どうにかアポイントをとって話を聞きたい。

 とりあえず熱心かつ若干年齢をサバ読んだメールを送った。あとは返事を待つのみだ。

 誰かからのメールをこれほど楽しみに待つのは20才の頃やった出会い系サイト「あっちゃんラブラブお見合い」に登録して以来である。

 果たして返事は来るのだろうか。

 

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