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金本監督のバスタオル

数年前にお付き合いしていた女性の話です。
付き合い始めて一ヶ月、日が沈むのが早くなった秋のころ、
初めて彼女の家に泊まることになりました。

当時まだ二人は大人の関係になっていなかったので、
私は勝手ながら「今日は決める」と一人意気込み、
ドキドキしながら彼女の住むマンションを訪れました。
エントランスに続くイチョウ並木がとても鮮やかで、
落ち葉がまるで黄色い絨毯のようでした。

彼女の家では手料理をごちそうになりましたが、
正直味なんて覚えていません。
お互いがこの後に訪れる時間に思いを馳せ、気もそぞろでした。

食後、二人で彼女の好きなアイドルのライブDVDを観たりして
楽しく、そして幸せな代えがたい時間を過ごしました。
夜も遅くなってきたので、私がどう切り出そうか迷っていると、
彼女が急に「先に、シャワー浴びてくるね」と言って
お風呂に行ってしまいました。
彼女がシャワーを浴びている10分間は永遠のように永く、
瞬きのように一瞬でした。

シャワーから上がった彼女は、
裸に黄色と黒の縞模様のバスタオルをまとっていました。
よく見ると、当時プロ野球の阪神タイガースで監督をしていた
金本さんの顔がプリントされていて、
顔の横に力強い筆のフォントで大きく「執念」
という文字が入っていました。

私は金本監督の顔で身体を拭く彼女の様子を見て、
(え……、なんで……、なんで金本?)とショックを受けましたが、
変な感じになってはいけないと思い、何も質問しませんでした。
私が使うように渡されたバスタオルは、シンプルなベージュのものでした。

そうして準備を済ませた二人は初めて事に及ぶのですが、
行為の最中も私は金本監督の顔ばかり頭に浮かびます。
顔の横の「執念」の文字も。途中で体勢を変えると、
照明を落とした暗い部屋の隅に置かれた姿見が視界に入りました。
姿見にはバスタオルがかけられていて、
姿見を見るたびに上下逆さまの金本監督と目が合ってしまい、
何度も吹き出しそうになるのを必死にこらえました。
まさしく「執念」です。

晴れて結ばれた二人でしたがその後、
数ヶ月して彼女とは些細なことがきっかけでお別れしました。
でも、これで良かったのかもしれません。
だって私は、読売ジャイアンツのファンなのですから。

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