見出し画像

四つの穴

数年前に親知らずを抜いた時の話です。

夏休みが始まったばかりの暑い日でした。
奥歯のさらに奥の痛みに耐えかね、私はしぶしぶ歯医者を受診しました。
レントゲンを撮ったところ、私の親知らずは、
歯茎の中で横向きに生えているため普通に抜くことができず、
もっと大きな病院で手術が必要と診断されてしまいました。

紹介された大きな病院では、吉田羊さんによく似た先生に
「どうせなら一回の手術で全部取っちゃいましょう」とそそのかされ、
全身麻酔で手術を行うため、二泊三日の入院をすることになりました。

手術の直前、全身麻酔が初めてだった私は、
手術よりも麻酔そのものが恐くなってしまい、
吉田羊似の先生に「麻酔する時は教えて下さいね」と何度も懇願しました。
しばらくすると手術の準備ができたらしく、
先生は「はい、じゃあ麻酔入れますね〜」と言い、
点滴の管に麻酔を投入しました。
私は「え!もう入れたんですか?」と最後まで言うことができず、
私はこのとき宇宙を感じました。

目が覚めると無事に手術が終わっていました。
親知らずは全て取り除かれ、私の身体に残ったのは四つの穴だけでした。

二日後、退院前の問診で、術後の口の中の様子を確認したあと、
吉田羊似の先生が急に私に顔を近づけ、親指と人差指で
私の顎を軽く持ち、俗に言う顎クイの状態になりました。
私はとっさに「どうしよう、キスされちゃう!?」と思い、
ドキドキしながら覚悟を決め、そっと目を伏せました。
すると先生は、じっと私の方を見つめて優しくこう言いました。

「ここ、しびれてないですか?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?