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【SS】写真撮ってもいいですか?

 高校生の亮太は陸上部に在籍していた。その前は、バスケットボール部だったのに二年生になって部活を変えたのだ。理由? それは部員が多くてレギュラーになれないからだそうだ。
「だってさ、レギュラーになれなきゃ目立たないし意味ないじゃん。女子だって寄ってきてくれないし」

 亮太は、いつもそう言って注目されたがっていたのだ。まぁ、ルックスは悪い方ではない、ちょうどいい感じの長髪で小顔、目鼻立ちははっきりしていて身長は180cm、脚も長めだと本人は思っている。

 亮太は見た目よりも結構中身は軽い男だった。それで部員が少ない陸上部に移ったのだが、よく考えてみると足はそんなに早くないことを思い出した。しかし時すでに遅しだ。各地の高校が集まりインターハイに向けた予選が始まることになり、部員の少ない陸上部で亮太は出場選手として登録されてしまった。スパイクシューズも持っていなかったので先輩から借りる始末だった。

 大会の日。多くの高校生が集まっていた。いくつかの女子校からも取材に来ていてかなりの盛り上がりになっていた。女子高生の中の何人かから亮太は声をかけられた。

「すいません。写真を撮ってもいいですか?」
「えっ、あぁ、いいよ」

 亮太のルックスで女子高生が近づいてきてくれたのだ。亮太は陸上部に入って正解だったなと思っていた。やがて、亮太が出場する短距離の順番がやってきた。100m走である。亮太は8人の選手がいる中で中央に立っていた。通常、真ん中は申告タイムが早い選手が走るレーンだ。

 位置について、よーい、ドン。号砲が鳴った、一斉に走り出した。100mなので全員が最初から全力で疾走する。亮太はというと、何と、真ん中のレーンなのに一番後ろを走っている。ゴールした時は3mほどみんなから遅れてのゴールだった。

 亮太の耳に、女子高生の声が聞こえてきた。

「なーんだ、足遅いじゃん、彼。これじゃ記事にならないよ」

 亮太は陸上部に入ったことを思いっきり後悔していた。


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#小説 #ショートショート #陸上部 #創作

 

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