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法務を強くする契約検討過程

先日、下記のセミナーで登壇させて頂きました。
まず、貴重なお時間を割いて聴いて頂いた皆様、ありがとうございました🙇‍♂️

当日は、時間の限られた中での説明になりましたので、細かいところを端折ったお話になりましたが、その中で「契約の検討過程の価値」について少しだけ言及しました。
本noteは、その点の補足の意味も込めて書いています!

過去の検討過程がわからないという「あるある」

このnoteを書こうと思ったのは、法務は知識や知恵、更にその思考過程自体に価値がある職種であるにも拘らず、過去の契約の検討過程は、必ずしも十分に保管共有はされておらず当人のみに留まっていた(場合によっては当人すら覚えていない)ということがあります。

私も法務をしていた際には、(歴史ある企業だったこともあり)なぜこんな条件を盛り込んでいるのだろうか?と過去の検討過程を見返したい場面に何度も遭遇しました。しかし、いつも欲しい情報が得られたという訳ではありませんでした。

かつてのように殆どを紙でやり取りしていた時代ならともかく、時代は令和をむかえ、契約業務もいよいよペーパーレスになろうかという時代です。様々なプロダクトが登場し、これまで以上に少ない労力で過去の履歴を残しやすくなっている状況も相まって、契約の検討過程の価値を再認識するタイミングだと考えています。

検討過程がもたらす2つの価値

契約の検討過程は主に2つの価値の価値をもたらします。
一つは、その記録によって(締結済みか否かに関わらず)過去の交渉過程を無視した提案をして相手方との信頼関係を壊してしまうことを防ぐ、リスク低減の側面です。

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そしてもう一つは、より前向きに、その情報自体が共有されることで、法務組織を強くする側面です。特にこちらについて、もう少しだけ掘り下げてみます。

今、人間だからできること

最終版の契約書のドラフトに至るまでには、大小さまざまな意思決定をいくつも経ています。
言い換えると、この過程にはいかなる状況下で、どのような事実を考慮してどういった理由で結論を出したのかという非常に重要な情報が含まれています。

特に昨今、その重要性は相対的に高まっていると思います。
AIによる契約書レビューが普及し始めており、「教科書的なレビュー」はAIが代替可能になる未来が見えてきています。
他方で、巷間言われている通り、AIからアウトプットされる修正のサジェスチョンをそのまま受け容れるか否かを、一定の理由をもって判断をすることが人間に求められます。

この「一定の理由」には、自社・相手方の商品サービスの強みと弱み相手とのパワーバランス自社の経営状況、交渉全体から見たときの他の修正条項とのバランスの考慮など、現状では人間しか出来ない「総合的な考慮」が含まれています。法的知識を前提としつつ、こうしたバランスよい総合考慮ができることが、今まで以上に法務パーソンとしての価値を決める重要な要素になると考えています。

検討過程.001

経験を追体験できる可能性

ただ、上記のような「バランスよい総合考慮」は、経験によって培われる部分が大きいのも事実です。
以前、20年以上の法務キャリアをお持ちの先輩に、昔話としてこんなことを聞いたことがあります。

"自身が1年目だった時、事業部門への質問ひとつ取り上げても聞くことが鋭く、すごいなと思っていた2年目の先輩がいた。でも、その先輩も、3年目の先輩にボロボロに言われていた。そしてその3年目の先輩も、部長に検討の甘さを指摘されていた…"

リスクを見つけ出すための視点や勘所が、経験の量に大きく左右されるため、1年上の「すごい先輩」でも、更に1年上の先輩からするとまだまだ、という事例です。1年の違いが大きな経験の差を生むということに加え、その経験で培われる視点や勘所はその人のものでしかなかったということも示唆しています。特にキャリアの初期ではこうした傾向が顕著だと思われます。

ただ、これからは、こうした視点や勘所は、(勿論実際に体験した方が得られやすいのは間違いないですが)ある程度「知識化して追体験することもできると考えています。

そして、この経験の追体験を助けてくれるのが過去の検討過程の集積なのです。つまり、検討過程の管理が、メンバーの成長や法務組織の強さを決める一つのファクターになるはずだ、というのが私の持論です。

検討過程の管理方法

では、どうやって検討過程を管理すれば良いでしょうか?

ポイントは、①日常的に上長や事業部門に向けて何故この条項を変えるのか(場合によっては、なぜこの契約を締結する必要があるのか)を簡単にでも説明すること、及び②これを自分やチームのメンバーが見れる、探せるようにしておくことの2点に尽きます。

特に事業部門への説明ということであれば、一人法務の方も日常業務の中で自然と情報を残していけると思います。今一人法務であっても、永遠に一人法務のままとは限りません。近い将来にやってくる二人目の法務のために、今から情報を残しておくことも立派な業務と言えるのではないでしょうか。

まとめ

最後に、じゃあ具体的には何を使うんだ?ということですが、この点は踏み込みすぎると単なるセールス記事になってしまうので(笑)、これ以上は言及しません。
もちろんWordのコメントに残すこともできますし、メールやチャットツールにその検討過程を残すのも良いでしょう。加えて、現在では単なるコミュニケーションツール以上に検討過程の管理がしやすいソフトウェアが既にありますので、業務の環境として、検討過程を残しやすい御膳立てができている状況になってきています。

更に違う観点から言うならば、在宅ワークなど働き方の選択肢が増えて、かつてのようなOJT頼みの教育にも少し工夫が必要になっていくことが予想されます。これを見越されてか、私が業務上でお話をさせて頂いている企業では、ナレッジを蓄積していこうと既に積極的に取り組まれている法務チームも増えてきています。

こうした状況下では、過去の検討過程の集積が必ずチームに良い影響をもたらすはずですので、(スモールスタートであっても)是非皆様も契約の検討過程の集積に取り組まれてはいかがでしょうか?

画像提供:freepik


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