【withコロナ】ライブハウスの新しいビジネスの形について考えてみた

新型コロナウイルスによる営業自粛の影響を受け、飲食、小売をはじめ、多くの業界が未曾有の危機に直面している。
音楽業界もその例に漏れず、大多数のライブハウスは廃業手前の状況まで追い詰められている状況だ(一部は既に廃業に至ってしまったところもある)。その実態は多くのメディアが報じているので詳しくはそちらに譲りたいと思う。

今日書きたいのは、ライブハウスの新しいビジネスの形についてだ。収束が見えないこの状況下で求められるのは「変化への適応力」である。価値の本質を損なわずに、より強く魅力的なビジネスモデルにアップデートし、これから先も生き残っていくためにはどのような変化が必要か考察した。

多くの専門家の間では、ワクチンや治療薬の開発期間などを鑑みると、コロナの収束には早くても1年は要すると言われている。
そういった情報を知ってか知らずか、SNSを中心に「コロナが収束したら・・・」という言い回しをしている人を多く見かけるが、収束するのを待っていたら、経済や文化は完全に崩壊してしまうだろう。

我々は今、パラダイムシフトの瞬間に生きている。「コロナが終わったら(afterコロナ)」ではなく「コロナがある前提(withコロナ)」の世界で、どうやって経済を回して行くか、どうやって文化を育んで行くかを考えなくてはならない。

ではコロナのある前提の世界で、ライブハウスはどうやって経済活動を行なっていく必要があるだろうか。それにはまず、ライブハウスの価値とはそもそも何なのかについて書きたいと思う。

個人的な見解なので賛否両論あるだろうが、ライブハウスの本質的価値は二つあり、一つは「コミュニティ」であると考えている。自分自身、学生時代は週に4日間はライブハウスに入り浸っていた。そこには出演バンドとライブハウスのスタッフ、業界関係者、そしてファンのコミュニティがあった。ライブハウスごとに特色があり、アーティストもファンもそれぞれ常連がいる。いわばスナックと似たようなもので、名物店長がいる店にはファミリーのようなコミュニティが存在している。ライブハウスはただ単に「ライブをするための場所貸しをしている」のではない(一部を除いて)。バンド同士の横の繋がりがあり、店舗同士の繋がりもある。そして地元との繋がりがあり、下北沢をはじめ街の文化価値の一つになっている。この「人と人との繋がりを生む空間、体験の提供」こそがライブハウスの価値と言えよう。
もちろんライブハウスには、ホールには常設されていない照明や音響設備などがあるし、ライブをするにあたって出演者が運営スタッフを雇う必要もない。そういった機能面的な価値も確かに存在する。仮にホールでライブを開催する場合、照明設備や音響設備、当日の運営スタッフはすべて主催者側が手配しなくてはならなく、その総額は、例えば中野サンプラザ程度の規模にもなると数千万円を下らない。

ではその本質である「コミュニティ」の価値を残しながら「withコロナ」の世界でどのようなビジネスモデルが考えられるか。一つヒントがあるとすれば、オンラインのコミュニティビジネスである。
例えばSHOWROOMや17 Liveなどの配信プラットフォームでは、多くの「ライバー」と言われる配信者が個人でライブ配信を行い、「投げ銭」という形でファンから経済的支援を受けている。ライバーの中には歌や楽器を演奏することで投げ銭を得ている人もいれば、ある種のオンラインキャバクラ(ホスト)のような、ひたすらに話をしているだけのライバーもいる。いずれにせよ、そこにはコミュニティが存在しており、経済圏がある。
またInstagramでは、多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーが企業とのタイアップ広告で収入を得ていることは周知の事実である。

では音楽業界がこういったプラットフォームを活用していないかと言えば全くそんなことはなく、すでにイベント自粛の流れから、多くのバンド、アーティストがライブ演奏の生配信をスタートさせている。YouTubeやInstagramなど、スマホ1台あれば手軽に動画配信できるプラットフォームは整っており、YouTubeのスーパーチャットを利用すれば、投げ銭も受け付けることができる。配信そのものを有料とする動きもある。
このようなプラットフォームを活用することで、場所の制約がなくなり全世界から視聴可能になることで、海外のファンがライブ配信に参加しているケースも実際に見受けられた。結果としてリアルの場でパフォーマンスをするよりも、より多くのファンにコンテンツを届け、結果としてマネタイズもできているというケースが事実として出てきている。
自分のバンドは海外にファンはいないだろうと思っているアーティストもいるかもしれないが、SpotifyやAppleMusicをはじめとする音楽ストリーミングサービスによって、いま日本の音楽は全世界で聴かれている。日本語で、かつ日本的なメロディを歌うアーティストが、だ。(世界に向けたマーケティングの必要性については、また別の機会に詳しく書きたいと思う)

さて、これらテクノロジーを活用することで、ファンへのリーチとマネタイズが可能なことはわかった。その上でもう一つのライブハウスの価値について書きたい。

ライブハウスのもう一つの価値は「レコメンド」にある。要するに、このライブハウスに行けば良いアーティスト、バンドに出会えるという価値である。
多くの老舗ライブハウスは出演時に審査制を取っている。ライブハウスとしては毎日のステージはいわば「ショーケース」であり、自分たちが良いと思えないもの、応援したいと思えないアーティストを出演させるわけにはいかない。これはライブハウスの色、ブランディングにも関わってくる最も重要な要素である。演奏力はもちろんのこと、人柄も含めて吟味し「コミュニティに迎え入れるかどうか」の判断をする。
言ってみれば、ライブハウスのレコメンドは、SpotifyやAppleMusicにおけるプレイリストに近い。テーマがあり、そのテーマにあった楽曲をキュレーターが編成する。そのプレイリストにはフォロワーがついており、常時その中身は更新され、そこから新人アーティストが発掘されている。これはもはやライブハウスと変わらない。オンラインのプラットフォーム上でやるか、オフラインの場でやるかの違いである。

ライブハウスの価値は「コミュニティ」と「レコメンド」であると書いた。ここから結論を書きたいが、ライブハウスは「メディア」になるべきだと考えている。「メディア」とは、価値観を共有するコミュニティがあり、ユニークな価値の創造ならびに発信をする媒体であると考える。そしてここまで書いてきた通り、ライブハウスはこれらをすべて兼ね備えている。店長をはじめ、ブッキング担当スタッフも自店のブランディングを意識した選定眼を持ち合わせており、(仮に暗黙知だったとしても)本質的なコミュニティ運営のノウハウもある。あとはその展開先をローカルに止まらせておくのではなく、テクノロジーの力で世界に向けて発信するのだ。Twitterで日々情報発信を行い、Instagramで自分たちの世界観を表現する。そしてSpotifyやYouTubeで世界に音楽を届け、ポッドキャストで自分たちの思想、想いを発信し、コミュニティのエンゲージメントを高める。繰り返しになるが、この未曾有の危機を乗り越え、新しい形で世の中に価値提供する力を、ライブハウスはすでに持っているのだ。あとはこれまでとは違った手段で、その価値を届けるだけである。

もちろん「リアル」の価値は、私自身も痛いほど理解している。生演奏のライブ配信を観るたびに、ライブハウスで、身体で、生で音楽を感じたいという気持ちで溢れる。なのでリアルの場は当然ながら必要だ。しかし、リアルの場「のみ」ではこのような危機が訪れたときに生き残れない。

"コロナ"は今後、パンデミックの代名詞となるだろう。数年後コロナが収束しても、また別のウイルスが人類に襲いかかるかもしれない。その時同じ苦しみを味わう必要はない。僕らはここで学び、生まれ変わるのだ。より業界の結束は強くなり、このような脅威を想定したビジネスモデルに生まれ変わる。そして、より良い音楽との出会いをファンに、世界に羽ばたくチャンスをアーティストに与えるのだ。だから今、どうしても乗り越えなければならない試練がある。補償を待っているのではなく、一人一人ができることをスピード感を持って実行しなくてはならない。声をあげる人、戦略を考え実行をリードする人、それに賛同する人、家で音楽を作り発信する人。一人一人ができることを積み重ねれば、きっとこの危機を乗り越えられるはずだ。

明けない夜はない。音楽は鳴り止まない。


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