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大好きな砂丘をたくさんの方へ ー 砂丘YOGA代表 石谷依利子

何かを始めるとき、周りをどう巻き込んでいくか、難しさを感じる方は多いのではないでしょうか?

今回は、鳥取砂丘に魅せられ、砂丘で事業を行っている、石谷依利子さんにお話を伺いました。自分の大好きなものを楽しそうに語る石谷さんの姿には、周りの方に応援してもらうためのヒントが散りばめられていました。

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自分の人生を誰かのために役立てたい

一面に広がる鳥取砂丘の砂地と、胸がすくような広い空のもと「砂丘ヨガ」体験を提供する石谷さん。
砂丘で夕日を見ながら行う「サンセットヨガ」「星空ヨガ」など、砂丘の環境を満喫できるヨガや、SUP&サップヨガ体験プログラムの提供をはじめ、鳥取市内のスポーツジムにてインストラクターとして活動したり、NHK鳥取放送局のヨガ番組の監修・講師も務められている。

「もともと、砂丘はとても素敵な場所だと感じていました。」

東京がご出身の石谷さん。ご主人の両親が鳥取出身ということもあり、結婚前に一度だけ砂丘に足を運んでいた。そこで地方での暮らしや自然に魅力を感じ、移住を決意された。移住後、周りに砂丘の良さを語っていたものの、地元の方たちはさほど砂丘の良さを感じておらず、不思議だったという。

そんな石谷さんに転機が訪れたのは、2011年のはじめだった。

「東日本で震災が起こったり、命に関わる自分の健康上の不安だったり、、色々と時期が重なったんです。『自分は社会に貢献できていない』『何かできることはないだろうか』と改めて考えるきっかけになりました。」

「もともと、学童保育の指導員をしていて『自分の人生を誰かのために役立てたい』という気持ちはずっとあったんです。」


世の中の課題に持続的に取り組んでいくために、ビジネスの手法を活用したいと考えていた石谷さん。たまたま新聞の折り込みに『鳥取市創業塾』のチラシを見つけ、受講することを決意する。

「以前からドラッカーの本などを読んでいて『事業を行うなら自分の強みを活かすべきだな』と考えていました。なので、自分が大好きであり、差別化も図れそうな『砂丘』をテーマに事業を考えてみることにしたんです。その時はまだヨガをしようとは思っていませんでしたが。笑」

『砂丘』という尖ったテーマを選んだことは、のちに良い流れを引き寄せることになる。


「はじめは、砂丘でアート体験なんかが面白いかなと思い、提案していました。ちょうどそのタイミングに、砂丘で企画を行う方を対象とした補助金が出る話を聞き、チャレンジしたのがターニングポイントです。事業について考えながら砂丘を歩いているとき『砂丘で寝て自然を感じたい』と思ったんです。その時ぱっと、世界中の人が砂丘でヨガをしているイメージが浮かびました。このときはまだ『砂丘ヨガ』がメインコンテンツになるとは思ってなかったんですが、発想自体はそのときに生まれましたね。」

『アート』『エクササイズ』『こども』の3つの領域で取り組んでみることにしました。何をやるにしても初めてのことだったので、企画書の書き方ひとつから調べながら進めていきました。」

「『とにかくチャンスをください、やらせてください』と。熱意しかなかったです。もし企画が通らなかったら、自分の道は他にあるときっぱりあきらめようと。人生の賭けでした。」

運よく企画が通り、1年間いろいろやってみることで、良いことも大変なこともたくさん学んだという。

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ひとつひとつ積み上げていく

石谷さんのSNSなどを見ると、色々な方を巻き込みながら事業に取り組んでいる印象が強い。それを本人にぶつけてみると『基本は自分でやっていくことが多いですよ』と意外な答えが返ってきた。もちろん周りの方に助けてもらうこともあるが、自分ができることをコツコツとやっているのだそう。

「最初の頃はイベントプロデューサーのようなポジションでした。自分がヨガを教えるのではなく、ヨガの先生を招いて砂丘でレクチャーしてもらっていたんです。その他にも、企画をつくったり、実施に向けての調整をしたり。自分自身が責任をもって取り組む部分と、周りの人に頼った方が良い部分のバランスを考えていました。」

ヨガのレクチャーなど、プログラムの肝となる部分は徐々に自分でもできるようにしていき、webなど申込に関係するようなことなどは、専門家に頼るようにしていったそう。常に貪欲に学び続け『SNSでの情報発信』について教えてもらえば、ひとつひとつを丁寧に実行し、成果を出してきた。


「このプログラムは地域に自信をもたらせる」

最初は、地元である鳥取の方向けに砂丘ヨガを提供するようにしていた。地元の人に砂丘の良さを体感してもらうことが、まずは大事だと考えたからだった。

「砂丘ヨガを体験した方が、感動して涙を流されることがありました。そのとき、このプログラムは地域に自信をもたらせるものになると確信しました。」

鳥取県以外の方にとっても、砂丘でのヨガは非日常の体験であり、満足度が高かった。現在では、国内にとどまらず、海外のお客さんをもターゲットにした取り組みに進化させている。

鳥取に宿泊してもらうことが一番の経済効果につながると考え、夕日を見送る『サンセットヨガ』や、朝日を浴びる『モーニングヨガ』などの商品を開発した。朝と夜の時間を砂丘で過ごしてもらうということは、確実に鳥取市内に宿泊することになる。通過観光にならないことを意識した。

基本的な運営を1人で回せるのは、申込対応がスマホでできるなど、技術の進歩によるところも大きいという。鳥取であっても、ITの技術をうまく組み合わせることで、満足度の高いアクティビティをお客さまに提供できる。

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わたしは運が良い

お話を伺う中で何度も『私は本当に運が良い』とおっしゃる石谷さん。やろうとしていることと、時代の流れが上手くマッチすることが多かったそう。最近では、インバウンドツアーの目玉として鳥取が注目を集めていることだったり、少し前には、女性の起業や活躍だったり、移住だったり。砂丘ヨガを立ち上げてから、ポイントポイントで時代の流れに乗ることができているという。

「鳥取が比較的小さい県だということも、新しい取り組みを行う上で追い風になっていると感じています。以前、マスコミなどに活動を取り上げてもらったことにより、行政のトップの方と意見交換する機会を設けていただいたことがありました。小さな個人の大きな夢を掬い上げてもらえる可能性が、鳥取にはあるのかもしれないなと感じました。」


やりたいと思ったら伝える

2017年、石谷さんは『宇宙祭』という企画を実施した。

「夜の鳥取砂丘は宇宙を感じられる神秘的な空間なんです。」

「活動1年目から夜のプログラムを継続する中『新たな宇宙の時代、鳥取がパイオニアになる』と漠然と考えていたんです。環境省の調査で、鳥取の星空が星の見えやすさ日本一に輝いたことで、鳥取県の観光振興政策『星取県』の動きがはじまりました。鳥取県民の日と宇宙の日が同じ9/12というシンクロを発見したときは震えましたー!ここに繋がってたのかー!と。」

「そこから『宇宙をテーマにしたイベントをやりたい』となって。笑」

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思いついてから開催日まで3ヵ月もなかった。
「予算も繋がりもない状態で『やったら面白そう』という企画を、人を紹介してもらったり、協力してもらったりしながら、実行に移していきました。演者・出店者を口説いたり笑、力になってくださりそうな事業者さんに相談に行ったり、商工会議所青年部の方が協力してくれたり。神社に何度もお願いに行って、当日は祭りごととして太鼓の演奏を奉納してもらったりもしました。」

「当日は、専門家による天体観察や、音楽イベントなど、とても盛り上がりました。また、鳥取県にゆかりのある、宇宙に関連する事業者の方にご協力いただき、会場にメインオブジェとなる巨大モアイ像を設置いただきました。」

「チケットは鳥取市内にある書店の『ブックセンターコスモ』さんで売っていただきました。コスモと言えば宇宙ですからね。笑」

企画のアイデアもさることながら、楽しそうに話す石谷さんの姿に、周りの方は巻き込まれていくのだろうと感じた。

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8年間、走り続けて見えたもの

1人の主婦が『砂丘でヨガ』の光景をイメージした日から、8年。
国内だけでなく海外のお客さまを取り込んだり、旅行会社と提携したプログラムを実施したりなど、砂丘ヨガの可能性は大きく拡がっている。雪の降る冬の季節はアクティビティの実施が難しいので、ジムでのインストラクターの仕事などを組み合わせ、持続可能な形を追い求めてきた。最近は『現状をもう少し俯瞰して見ても良いのでは』と考えているそうだ。

「8年間、がむしゃらに走ってきたからこそ、見えるようになったことがたくさんあります。今後もがむしゃらに走り続けることが、自分が追い求めていた『砂丘の素晴らしさを届ける』ことに繋がっていくのか、改めて考えてみたいなと思っています。」

まずは、自分や家族が余裕をもって日々を暮らすこと。そこから生まれる気持ちのゆとりが、お客さまに提供する空間の質を高めるのではないか。ちゃんと続けていけるのではないか。
そんな視点にたどり着いた。


『誰かのため』と『自分のため』のバランスは難しい。誰もやってこなかったことにチャレンジするとき、いやが応にも、周りの声や期待は集まる。もちろん、背中を押してくれる声や動きによって乗り越えられたこともあるだろう。しかし、自分の走り続けられるベースについて考えることは、地域をおもしろがるプレイヤーにとって大切なことだ。

「辞めたいとかそういう話ではないです。笑 砂丘は私の軸であり、大事な部分なので。『砂丘の良さ』『プログラムの可能性』『これまで体感したこと』『見えてきた本質的な部分』。それらを組み直すことで余白が生まれ、新しい可能性が見えてくるんじゃないかと思っています。」

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余白から生まれてくるもの

インタビューの最後に、今後やってみたいことを伺った。

「宇宙祭を通じて、世の中には色々な表現方法があることを知りました。みんながそれぞれの表現を披露できる場所があると良いなと感じましたね。ストリートで、アートとか音楽を表現できる仕組みができると面白いなと。」

「街中にそういう人たちが溢れたら楽しいと思いません?いまだったらYouTubeで発信もできるし。もちろん、砂丘でコラボもできますしね。」

「少し、現状のプログラムや提供方法の整理をしてみて余白ができたので、最近は考えるのが楽しいんです。砂丘ヨガを思いついて最初やっていたころも、こんな感じでした。余白から生まれた新しい動きを楽しんでいきたいなと思っています。」

「砂丘ヨガを体験しに来てもらえるのも嬉しいですし、こういった企画に少しでも興味を持ってもらえたら、一緒に考えて動いてみたいなと思っています。これからも、砂丘ヨガも含め、よろしくお願いいたします!」

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大好きなもの、情熱を傾けられるものに全力でぶつかっていく石谷さんの姿勢が、周りを巻き込み、大きな動きに繋がっていくのだと感じました。『人を巻き込む』ということの本質を、石谷さんの姿から垣間見たインタビューでした。

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