英国 TPP加入を正式申請へ 転機を迎える英国外交(思惟かねのWeekly News22 Vol.3)

この記事は、Youtubeで水曜日に放送している「思惟かねのWeekly News 22」第2回で放送した内容の記事です。

第2回のトピック
英国 TPP加入を正式申請へ 転機を迎える英国外交
ミャンマーで軍事クーデター 「不正選挙」訴え 再び遠のく民主化への道

ニュースの概要

さて、最初のニュースです。

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イギリス政府は1月31日、日本をはじめ11カ国が参加する経済連携協定であるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)について、2月1日に正式に加入に向けて申請することを発表しました。

経済連携協定であるTPPは、正式名称をCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)といい、日本を始めとしてカナダやオーストラリア、ベトナム、チリ、ニュージーランドなど太平洋沿岸地域の11カ国が参加する大規模な経済協定です。
10年近く続けられた交渉の中で、2017年には主要国であったアメリカがトランプ政権下でTPPからの脱退を発表するなど混乱も見られましたが、2018年末に無事発効にこぎつけた一大貿易協定でした。

今回、イギリスが加入することになれば、2018年の発効以来初めての新規に参加する国となり、このTPP加盟国の中で二番目の経済規模を持つ大国としてイギリスは大きな存在感を発揮することになります。
しかし疑問なのは、なぜ太平洋ではない欧州の国であるイギリスが突然このTPP加入を申し入れたのか?ということではないでしょうか。
実はその裏には、ここ数年で大きく変化したイギリスの外交姿勢がありました。

今日はTPPという貿易圏への参加を決めたイギリスについて、その外交方針の変化に注目して解説していきましょう。


Brexit:イギリスのEU離脱

さて、イギリスといえば、皆さんは近年大きなニュースとして「ブレクジット (Brexit)」が話題になっていたことをご存知でしょうか?

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ブレクジットとは、イギリスのEU(欧州連合)からの離脱にまつわる問題です(British Exit=Brexit)。2016年の国民投票の結果、大方の想像を裏切ってイギリスは1973年から40年あまり加盟してきたEUからの脱退を決定しました。
このことは、今回のTPP加入申請を語る上で避けては通れない、イギリス史に残る大事件でした。

EUは創設以来、ヨーロッパ全体国家統合すら見据えて経済・通貨・政治など様々な面での統合が進めてきた組織でしたが、そこからの離脱という決断は、当然数多くの課題や悪影響を生み出しました。

特にインパクトが大きいのは、イギリスが域内の関税が撤廃されたEUという関税同盟から離脱することで、欧州大陸とイギリスの経済的な結びつきが根本から揺らぐという問題でした。
こうしたいわゆる「強硬離脱」を避けるために、イギリスとEUの間で度重なる交渉が持たれましたが、イギリス国内での根強い離脱反対論もあって国内での政治的混乱が続いてました。
最終的にイギリスは下院の解散総選挙を経て、ボリス・ジョンソン首相率いる離脱推進派の保守党が歴史的大勝EUから強硬離脱するという選択を取りました。

2020年12月31日を持って1年間のEU離脱移行期間が終了し、イギリスはEUから完全に離脱しました。

その直前、12月24日にかろうじてEUとの間にFTAが結ばれ、30日に議会の承認を得たことで、イギリスとEU域内との関税撤廃はかろうじて維持されることになりましたが、通関手続き自体は復活するなど流通への影響は並々ならぬものがあり、現在も少なからず混乱が続いているそうです。


新たなイギリスのビジョン:Global Britain

さて、こうしたEU離脱に伴う経済的混乱を挽回すべく、イギリスは「Global Britain」という構想を掲げ、現在EU以外の国家とも経済的結びつきを精力的に強めています。

2020年9月にイギリスは日本との大規模な経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)である日英包括的経済連携協定を締結したのをはじめ、50以上の国や地域とEPAを結んでいます。

EUは関税同盟であり、加盟国が独自にEPAを結ぶことができませんでした。そのためイギリスは各国と一からEPAを結び直す必要があるのですね。イギリスのEPAラッシュにはそうした背景もあります。
そしてTPPもまた、こうしたEPAの一つです。冒頭に紹介したイギリスのTPP参加という話もまた、こうしたEU離脱の流れから出てきた話なのですね。

ところで、こうしたEPAというのは、そもそもどういうメリットがあるのでしょうか?

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EPA(経済連携協定)とは、関税の低減や撤廃、いわゆるFTAを基本として、場合によってビジネスでの長期滞在許可など人の移動の円滑化、例えば知的財産権などの法的なすり合わせ、政策面での協調など、多方面での協力を含むものです。
輸入品に掛けられる税金である関税や、例えば国によって法律がちがうなどの見えない壁を取り払い、国をまたいだ経済活動がやりやすくなるようにするのがその目的です。
例えば、外国でビジネスをしようとしても、日本から製品を輸出すると関税がかかってしまったり、あるいは製品の法的な規制…例えば車の環境規制が違うために日本と同じものが売れなかったりします。一方、EPAによりそうした壁が取り払われた国は、断然ビジネス的には有利なわけですね。
多くの企業が国際的に経済活動を行っている現代では、こうしたEPAの果たす役目は大きなものがあります。


EPAとTPPが持つ政治的な意味

さて、EPAは、時に裏の意味…政治的・外交的な意味合いを持ちます。いうなれば現代の同盟関係です。
経済的な結び付きを強めるのと同時に、政治的・外交的にも協調姿勢をとることで、様々な点でお互いがWin-Winになる関係を作る。こうした意味合いは、より高いレベルでのEPAや、多国間でのEPAにおいてより強くなります。

もっとも有名なものが、イギリスが離脱したEUです。EUはただ欧州諸国をひとまとめにした組織というだけではなく、あたかも一つの大国のように振る舞うことで存在感を発揮してきました。
北米自由貿易協定NAFTA、そして欧州連合EUに次ぐ世界第三の規模の協定であるTPPもまた、そういう政治的意味合いを持ちます。

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この図はTPPの加盟国を表したものですが、環太平洋パートナーシップ協定の名前のとおり、太平洋に面する国々が名を連ねていることが分かります。このTPPが持つ政治的な意味の一つが、近年過激な膨張を続ける中国に対する包囲網なのです。

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近年中国は、一帯一路というスローガンのもと、同じように広大な経済圏を建設しようとしています。これは中国内陸から中央アジアを通って欧州へ繋がる「シルクロード」と、太平洋からインド洋を通って欧州へと繋がる「21世紀海洋シルクロード」の2つから成っています。
それに関わる国々を巻き込んだ巨大な経済圏を建設し、中国がその盟主として現在の「世界のルール」に縛られない新たな秩序を作る…これが一帯一路の壮大な戦略です。
こうした中国の経済的な覇権主義に対する警戒感が、ひとつTPPの根底にあるのは間違いありません。太平洋の沿岸国がTPPという経済圏で団結することで、中国の海洋進出を防ごうという意図です。

それを踏まえると、今回のイギリスのTPP解明申請は、ただEU離脱後の経済的な協力の模索というだけでなく、実はイギリスの中国に対する外交姿勢の表れではないかと言えないでしょうか。
これが今日のニュースの核心です。


イギリスの対中外交の変化

少し考えすぎでは?と思われるかもしれません。が、実はそれを裏付けるニュースが同日に出ています。イギリスが「クアッド」への参加の意向を表明したというニュースです。

クアッドとは、日本、アメリカ、インド、オーストラリアという、民主主義を掲げる海洋国家である4カ国が協力し、先の一帯一路のもとに海洋進出を進める中国に対抗する枠組みのことです。
安倍元首相が掲げた「自由で開かれたインド太平洋戦略(通称FIOP)」と深く関係しており、現在の日本の外交・安全保障政策の柱となっています。イギリスがそこに加盟するということは、中国への対抗姿勢をはっきりと示すことに他なりません。

しかし、ここが国際情勢のとてもむずかしいところなのですが、実はイギリスはほんの数年前までは中国の一帯一路構想にも賛同し、蜜月関係を築いていました。
2014年に一帯一路構想と表裏一体である、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が中国により設立された時、イギリスはアメリカの同盟国の中で初めて参加の意向を示し、親中的な姿勢を見せています。
また同時期にイギリス国内の原子力発電所という大規模なインフラ整備に際して、中国の企業がこれを受注したことも、こうした英中の蜜月関係が現れたニュースでした。

中国は、アメリカの主要な同盟国であり、政治的にも存在感のあるイギリスを取り込むことに、イギリスは中国と結びつくことによる経済的利益に魅力を感じていたのではないかと思われます。

またイギリスは2019年頃からアメリカが進め、各国に協調を求めていた5G通信インフラからの中国ファーウェイ社の排除について、2020年1月の時点では「部分的に導入を容認する」などしていました。

しかし2020年7月、イギリスは一転この決定を覆し、ファーウェイ社の5G設備を排除することを発表しました。

また2020年9月には、イギリスは潜在敵国としてロシアとともに中国を名指しし、イギリス海軍も最新鋭の空母であるクイーン・エリザベスをインド太平洋での日米合同軍事演習に参加させる見通しが伝えられるなど、中国に対する強硬姿勢がにわかに明らかになりつつあります。


この親中姿勢から一転、中国への対抗を示したイギリスの方針転換の裏には何があったのか?

おそらくその大きな要因が、中国の香港のデモに対する弾圧です。
2019年に香港の反中国デモが大きな話題となりました。一説には100万人以上が参加したと言われる大規模なデモに対し、中国政府は強硬姿勢で臨み、2020年6月には「香港国家安全維持法」を施行。最高で終身刑という非常に厳しい罰則により、事実上デモを不可能にしました。

これに対しイギリスは、1997年の香港返還に際し「英中共同声明」として、香港での集会結社の自由、表現の自由、報道の自由などを保証したことを裏切るものであると、アメリカ、オーストラリア、カナダとの4カ国による共同声明で強く反発しました。

実際、イギリスはこうしたことを受けて、香港市民へ特別ビザを発給することを今年1月31日に発表しました。イギリスの怒りが実感できるニュースです。

こうした香港デモに対する非民主的な弾圧が、中国という国家が近代民主主義的な価値観を共有する相手でないということを改めて浮き彫りにし、さらにその舞台がかつてイギリスの一部であった香港であったことが、イギリスの対中姿勢を大きく転換させたきっかけであった可能性は高いです。
加えて、現在世界を覆っている新型コロナウイルスのパンデミックが中国発であり、イギリスがこれによって甚大な被害を受けていることも、中国に対する強硬姿勢を国民感情として肯定しているといえるでしょう。


中国の覇権主義と強まる反発

このように、近年中国と経済的メリットにより政治的にも接近しながら、中国による覇権的外交に驚異を感じて、一転して反中国姿勢を取る国家が出つつあります。
TPP加盟国であるオーストラリアも、一時は経済的な結び付きを強めながらも、中国による強まる国内への明に暗にの政治的干渉に反発。これに対し中国が暗に経済的報復をするなどして関係は急激に悪化。昨年には中国がWTO協定に違反する禁輸措置を取るなどして、両国間の緊張は急激に高まりつつあります。

急速に膨張する中国の覇権外交は、戦後70年の間に積み上げられてきた自由主義的な価値観、公正なルールに基づいた競争という先進国間の共通認識への挑戦であることが、各国でも認知されつつ在るということです。
イギリスの急激な方針転換は、ある意味歴史の必然だったのかもしれません。

大陸国家であるEUの一員から離脱したことで、イギリスは貿易により繁栄する海洋国家へと立ち返ることになります。海という世界の道を通して、イギリスは再び日本を始めとしたTPP加盟国との政治的・経済的つながりを深めていくものと思われます。

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あるいは、こうしたイギリスの参加によってTPPの対中包囲網としての性格が強まれば、現在対中強硬外交の先方であるアメリカがTPPに復帰する可能性も出てくるでしょう。

イギリスのEU完全離脱とTPP加入。
それは世界が新たな時代の勢力図を形作る、ひとつの鏑矢になるかもしれません。


Virtual Broadcasting Center、VBCの思惟かねがお伝えしました。

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なお文中画像は全てWikipediaより引用・改変して利用しています。
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この他にも技術・政治・科学ニュースの解説や、VRやVTuberに関する考察記事を投稿していますので、お時間あればぜひごらんください。

また次の記事でお会いしましょう。
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今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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