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人質という生き方(2)

一度手を挙げてからというもの、Aはちょっとしたことで激昂するようになった。

殴ったり、蹴ったり、怒鳴ったり、物を壊して大きな音をたてたりして脅す。

その度にこれっぽっちも思っていない「ごめんなさい」を口にする。

殴りかかる手を止めたくて、目の前の恐怖から逃れたくて一時しのぎの「ごめんなさい」を連呼する。


今思うとAは発達障害か何かあるんじゃないのかと思う。

後にパニック障害や自律神経失調症になったりしていたので、それも関係していたかもしれない。

ただそれが原因にしても暴力を容認はできないけど。


精神科通院も"俺が心配じゃないのか"と強制的に付き合わされていました。

一度、こんなことがありました。

市内でも大きな総合病院の待合で清算や薬の処方を待ってる間にAがトイレに立った。

そのタイミングで清算に呼ばれ、私が代わりに支払い、薬も受け取り、Aを待つためにトイレ周辺まで戻った。

しかしAがタイミング悪く直前にトイレから出て、トイレ前に私がいないので受付周辺まで行き、入れ違いになっていた。

ものすごい人でごった返す総合病院。

入れ違ったままなかなか見つけられず。

(当時はポケベル全盛期くらいの時代なので携帯ナシ)

私はロビー・待合・トイレ周辺をウロウロ探していましたが、せっかちなAは駐車場まで探しに行っていました。彼を怒らすようなそんな勝手な行動するはずがないのに・・・

そして当然駐車場にもいなかったのでもう一度戻ってきたAとトイレ前でやっと会えました。


・・・いきなり殴られました。


"無駄に歩かせやがって!!!!!"


思わずその場から少し逃げ、人の多い中庭テラスにでました。

人目があればそこまで暴力は振るわないだろうという算段で。

普段激高しだすと手が付けられないので絶対逆らいませんが、人の目があるという算段があった心のゆるみからか、振り返った私は非難めいた眼をしてしまいました。「私だってウロウロと探していたのに」と。


"・・・・なんだその目は。気に入らんな!!!文句あるんか!?!?"


いつもにも増して激高したAは人がたくさんいるにもかかわらず私を殴り倒し、倒れた私の顔をスニーカーで蹴りつけました。


一瞬目の前がキラキラしました。

何が起こったかわからない・・・

そして意識がはっきりする間もなく、Aに引っ張り起こされました。


"何こんなとこで寝てるんだ、恥ずかしいだろうが!!"


と耳元で静かにすごまれ、フラフラになった私は駐車場まで小突かれながら進みました。

顔が濡れている感じがして触ってみると鼻血が出ていました。


殴られ蹴られはいつものこと過ぎて麻痺していました。

ただこの時何がショックだったか。

中庭テラスにいた人たちは誰も助けてはくれなかった事。

ヤベー奴だと思ったんでしょうが、別に武器を持っているわけでもない丸腰の男。数人で押さえつけれなくもないのに誰も声すらかけず、女性が顔面を蹴られ鼻血を出して倒れているのに助けも呼んでくれませんでした。

その時一番思いました。


誰も助けてくれない。もう逃げられないんだと。


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