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最高の美容師さん

こんにちは、毛糸でどうぶつを作っています、オムニベリー(omni-berry)と申します。

みなさん美容院はお好きですか? 私は…はい、正直とっても苦手です。
できることなら行きたくない。自分で頭をパカっと外して自分で切りたい。

そんな私が唯一、最高やん…と思った美容師さんのことを書きたいと思います。


それは、今から20数年前、20代の頃。
当時は今のようにインターネットが無かったので、美容院を見つけるには、雑誌の広告やフライヤーなどを頼りにするか、人づてに評判を聞くか、近所をたまたま通りがかって一か八か行ってみる、みたいな方法しかありませんでした。

東に良い美容院があれば行ってアヴァンギャルドな髪型にされ、西に良い美容院があれば行って紫色のスプレーをかけられ…
美容師さんが必ず聞く「この後、どこに行かれるんですか〜?」には、「あ、えーと…これからスーパーに寄って洗濯バサミを買って帰ります…」などと言いたくもない予定を言わされて心が死ぬという、まさしく美容院ジプシーライフを送っていました。

そんな時、当時住んでいたマンションから一駅のところに、窓に大きく「カット2,800円」と書かれた美容院を見つけました。
店構えはレモンイエローを基調にした明るくポップなテイストで、外から伺える店内の様子は清潔感があり、お洒落過ぎない入りやすい雰囲気でした。

5,000円くらいが相場なはずのカットが2,800円?!(当時は今みたいな格安カット専門店などはほぼありませんでした)

いや罠だ、絶対にヤバイ髪型にされるに違いない…と最初は敬遠していたものの、通りかかるたびに気になって仕方がなくなり、試しに一度行ってみることにしました。

担当してくれた女性は、年齢は若いんだけど少しチャキっとした、頼れるお姉さんという雰囲気。

私は「肩ぐらいの長さのショートで、クシャッと動きのある感じで….」と言いながら、家から持ってきた モデルさんが風に吹かれながら草原に立っている、見本にするには最高に分かりにくい写真を見せました。
加えて「てっぺんがぺちゃんこになりがち」というのと、「襟足が浮く」という悩みも告げました。

これまで、いろいろな美容院で同じようにクシャッと動きのある無造作な感じで…と注文をしても「これだとパーマをかけなくちゃダメだよ」と言われ、
てっぺんがぺちゃんこになる…と相談すると「フワッとなる 部分パーマかけるといいよ」と言われ、
襟足が浮く…と相談すると「じゃあマメに切りに来て」と言われるだけでした。


そのお姉さんは、
「はいはい、カチッとしない無造作な感じね。少しうねるクセがある髪質だから、パーマはかけなくても大丈夫ですよ。(パーマは)かけなくて済むならかけないほうがいいから。」
「てっぺんは反対側から髪を持ち上げながらドライヤーを当てれば簡単にボリュームが出ますよ。ワックスの付け方をあとで教えますね。」
「襟足は少し長めにしておくので、菱形のシルエットにして浮くのを最小限に抑えましょう。」

と、私のやりたい髪型が実現できる方法を、髪質や癖、顔や頭の形なども考慮した上で、スピーディーに話をしてくれました。


最近ではこれくらいのリクエストにサっと答えてくれる美容師さんはいるにはいるのかもしれませんが、20年数年前はなかなか巡り会えませんでした。

今で言う「ぬけ感」とか「こなれ感」とか当時はそんな言葉も無かったし、なんとか絞り出して「無造作に」というのが精一杯だったけど、その「無造作に」がまず伝わらなくて、店を出てすぐに道端で自分で頭をグシャグシャにして帰るとかが常でした。


そのお姉さんは、シャンプーのあと手際良くカットをしながら、根掘り葉掘りプライベートなことを聞くこともなく、私の話に心地よい相槌と心地よい話の膨らませ方をしてくれました。

かなり早いスピードでカットが終わり、シャンプーをして髪を乾かした後、ワックスの付け方を私に伝えながらお姉さんは「なるべくセットがいらないようにしておきました」と、私が髪型や化粧にそんなに日々 時間をかけない人間なのを知っているかのように言い、「次のカットまで期間が空いても大丈夫だと思いますよ!」と、私が美容院嫌いで実はあまり来たくないと思っていることまで見抜いているかのように、お姉さんは笑いながら言いました。

鏡を見ると、そこには思い描いた通りの髪型の私がいました。

20数年生きてきて初めて、美容院に来てよかったという気持ちになりました。
そして初めて、また来たいと思いました。

当時、周りにも良い美容院になかなか巡り会えてない友達がいたので、
「やっと運命の美容院を見つけたよ!そこで働くお姉さんがすごいんだよ!」と話すと、実際に足を運んだ友達はみんな「すごいすごい、めちゃくちゃ良い!」と大絶賛していました。


それから何度かお姉さんにカットをしてもらい、やっと美容院ジプシーを抜け出せたと安心していた矢先、いつものようにお姉さんの指名で予約をすると、
「あ〜申し訳ありません、彼女、引越しのためにお店を辞めまして……どうされますか?」と言われました。


「え……じゃあやめときます」とも言えず、とりあえず同じ店の別の美容師さんにカットをお願いしましたが、完全に「違う、そうじゃない…」の鈴木雅之時代に逆戻り。

その後、私も引越しを期にその美容院には行かなくなってしまいました。


あれから20数年、最近は2,000円弱のカット専門店で、頼んでもいないアシンメトリの髪型にされる日々を送っています。


追記:
この2,000円弱のカット専門店は「シャンプーもしないし、おしゃべりもしないし、予約もいらない。なのにそこそこ良い感じにカットしてくれる」という理想的なお店だったんだけど、最近そこそこ良い感じにカットしてくれなくなってきたので、また何年かぶりに美容院ジプシーが再開しそうです。


omni-berry
https://omni-berry.com

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