2019 J2 第15節 柏レイソル~現状と課題~

どうも、Zdenkoです。引っ越しのバタバタで、とうとう福岡戦直前の投稿になってしまいました。早速、本題へ。J2で最強の戦力を持つチームはどこか。残念ながらそれは大宮ではありません。柏です。これまでの戦績は6勝5分3敗の6位。14試合で11得点はリーグワーストタイ。失点は7と固いものの、得点が取れないのが悩みの種。が、各ポジションに超J2級の選手を抱え、監督はネルシーニョ。決して侮れない相手です。

ちなみに、今回の記事のメインは柏の攻撃と大宮の守備の部分です。

1.システム

両チーム3−4−3のミラーゲーム。大宮は前節からファンマを富山へ変更。この起用の意図は前線からプレスとライン間(MF-DFラインの間)で起点を作るという2点が要因だったと思います。
柏には各ポジションに強力な選手を配置しています。簡単に紹介を。
GK中村 言わずと知れた日本代表GK
RHV染谷 前向きの守備に優れたDF。ビルドアップにやや難あり?
CB上島 前向きの守備に優れ、フィードもこなせる万能型DF
LHV古賀 上島と同じような特徴を持ったDF
RWB小池 圧倒的なキック技術とパスを出すタイミングが絶妙な超J2級いやJリーグ級WB
LWB菊池 ドリブル突破が可能なサイドアタッカー
DHヒシャルジソン ボール奪取能力に優れたDH
DH小林 守備もできてパスも出せる万能DH
RSTクリスティアーノ 自陣から単独でペナ脇までボールを運べる強烈アタッカー
CFオルンガ DFラインとの駆け引きに優れた長身FW
LWB瀬川 パンチのあるシュート力、優れたスピードを持つアタッカー

試合終了後には下図のようなメンバーに。特筆すべきは山越の負傷によりRWBに入った吉永でしょう。対面した菊池にはほぼ完勝し、交代に追い込み、古賀からの縦パスをカットしてカウンターの起点になるなど守備で大きな仕事を果たしました。攻撃が難しい中での投入だったため流れの中での攻め上がりは見ることはできませんでしたが、ロングスローという武器を披露し、大宮サポを大いに期待させる活躍でした。


2.柏の守備と大宮の攻撃

2-1柏ブロック守備の基本形

次に柏の守備とそれに対する大宮の攻撃がどうだったかを見ていきましょう。下図が柏の守備の基本形。特徴は、前残りをするクリスティアーノとオルンガ、相手DHに厳しくマークにいく両DH。やや空きがちになるライン間はHV(大宮でいう河面、畑尾のポジション)とCBが気合でカバーといったところ。


2-2大宮のサイド攻撃

柏のブロック守備に対して大宮は主に右サイドからの崩しを狙います。下図は15分の場面。ハーフウェーラインを少し超えた右サイドでボールを受けた奥井は富山に縦パス、上島のマークを受けますが茨田へとボールをつなぎ、大山を経由してペナ脇に富山が侵入。クロスを大前に合わせるも、シュートは枠外でした。このシーンでポイントだったのは、富山の起点作りもそうですが、何より奥井のスペースを作る動きでしょう。おそらく奥井は単純に裏を狙うために走っていたのでしょうが、結果としてサイド奥にスペースを作ることになりました。こういったスペースメイキングと生まれたスペースの活用が敵陣で展開できるようになれば大宮の攻撃にも躍動感が出てくるのではないでしょうか。


2-3柏のプレスとライン間

柏は敵陣でも積極的にプレスをします。基本形は下図のような形。特徴として挙げられるのは前述したブロック守備の時と同様、両DHが相手DHを厳しく、深くまで付いていくためにどうしてもライン間が空きます。大宮としてはこのスペースを上手く使いたいところでした。


プレスを受けてのライン間利用は試合を通して上手くいきませんでした。下図は12分のシーン。ライン間を起点にしたいがために富山を投入したはずですが、トラップが悪く起点になれず。このシーン以外でも終始上手くライン間で受けることはできませんでした。


2-4まとめ

ライン間が空きがちになる柏とそのスペースを上手く使えなかった大宮。主に右サイドからの攻めを見せますが、奥井が左に回ってからはいよいよ攻め手がなくなってしまいました。ライン間を使った攻撃が上手くいかないのも、後半からサイド攻撃すらできなくなったのも、相手のDFラインの裏を狙おうとする動きが乏しいためではないでしょうか。ライン間で上手くボールを受けても次の出しどころがなければ途端にDHとHVもしくはCBに挟まれてボールロストしてしまいます。高い位置をとって積極的に裏を狙っていた奥井に比べ、吉永は押し込まれた展開だったこともあって、なかなか高いポジションをとることができませんでした。こうなるとやはり右サイドから相手ゴールに攻めることも難しくなります。シャドーにスピードのある選手がいればいいのですが、そのような選手もいない現状、縦への推進力に関しては奥井などのWBに依存せざるを得ず、押し込まれる展開になるとWBの位置が低くなるためなかなか攻撃に移行できなくなります。


3.柏の攻撃と大宮の守備

3-1要点

ここからは非常に長くなりますので、はじめに要点を書いておきます。

①柏の本来の攻撃の狙い
・両WBが高い位置をとった3-2-5
・前線へロングボールや縦パスを入れる
・ボールを受けた前線は主にサイドから素早くゴールを目指す
②大宮の守備の狙い
・前線からプレス
・後ろの3枚は柏の前線をマンマーク(ライン間が広いのは承知の上)
・引いて守らないのは、柏の攻撃陣が強力なこと、大宮の攻撃に不安があること、柏のショートカウンター対策
・柏のWBをビルドアップのフォローに回らせることで、押し込まれることと、ショートカウンターの発動を防ぐ
・前で奪ってショートカウンターにつなげることで不足する攻撃面を補う
③大宮の守備に対する柏の攻撃
・WBがビルドアップのサポートに入り5-2-3
・ロングボール主体の攻め
・前線3選手へ頼った攻め
④柏のショートカウンター
・後半からラインを高くして、押し込む
・両DHがDHを厳しくみてパスコース制限
・HVやCBがインターセプト狙う
・奪ったら素早くゴール前にボールを送り込む


3-2柏の本来の攻撃の狙い

柏の本来やりたいであろう攻撃は下図のような陣形から前線へロングボールを入れた攻撃と思われます。これは水戸との試合の一場面なのですが3-2-5の形になっています。オルンガはDFラインと駆け引きしつつラインを下げ、クリスティアーノはサイドに流れいずれもがロングボールを引き出す役割。江坂は主にライン間での縦パスを受ける役割。WBは幅をとって、前線3枚と連携してサイド突破をします。簡単に言えば後ろの5枚でビルドアップ、それを前線の5枚が受けて攻めるという手法です。


3-3大宮の狙い(前線からのプレス)

このような攻撃手法を持った柏に対して大宮は引いて守ることはせず、前線からのプレスを選択します。本来、プレスは全体が連動し、コンパクトになって行うべきところ、この試合ではHV(山越、河面のポジション)とCBが柏の前線3選手をマンマーク気味に見て、両DHは高いポジションをとって相手DHを厳しくマークしています。この結果、ライン間が空きます。普段、ゾーンディフェンス(詳しくはちくきさんのブログを参照して下さい)での守備をみることになれている身としては、ライン間が広がっていることに困惑していましたが、より人に強くいくマンツーマンをベースに採用していることから、ライン間にスペースを与えても問題ないという整理をしたのかと思われます。

なぜ、引いて守ることを選択しなかったのかですが、ひとつに柏の選手の特性が上げられます。身長が高くターゲットマンになれるオルンガ、一対一では絶対的な強さを持つクリスティアーノ、ブロック外からでも決めきる力を持った瀬川、ドリブル突破ができる菊池、キック技術とパスを出すタイミングや判断に秀でた小池、これらの選手に押し込まれるとなるとなかなかに厳しいです。
次に言えるのは、大宮の攻撃面のクオリティ不足です。カウンターの場面、つまり自陣に引きこもった状態から相手のゴール前までボールを運ぶためには、縦への推進力、つまりは優れたスピードを持つ(フィジカル面だけでなく、その判断なども含め)選手が必要ですが、そういった選手が大宮にはいません。このため、ネガティブトランジション(攻撃→守備の切替)でプレスを受けた際に、ボールを奪取したエリアからは大山を軸としたパス回しでプレスを回避することはできても、そこから展開して作った起点からの出しどころがなくなるためにゴール前まで至ることはありません。また、前述したビルドアップでも上手くライン間を利用できていません。事実、この試合でPA内に侵入できたのはゴールシーンの他には片手で数える程度でした。この部分を補うために、前線でボールを奪取し素早く攻める、ショートカウンターを狙ったものと思われます。
三つ目に、これは多分に推測なのですが、後述する柏のショートカウンター対策があるかと思われます。簡単に言いますと、柏の両DHが相手DHを捕まえ、ボールの出しどころを制限し、HVとCBがインターセプト。ここから素早くゴール前にボールを送り込むのですが、柏のHVとCBは前向きの守備に優れており、万が一相手がDHを使ったとしても、両DHもがボール奪取能力に優れています。このショートカウンターを発動するためには両DHが前線の選手と近い位置取りをしなくてはなりません。大宮の前線からのプレスを受けた結果、DHはDFラインのビルドアップをサポートするために低い位置をとらざるを得なくなるため、ショートカウンターには至らないという発想です。

前線からのプレスが一番連動していたのは10分のシーンです。まず、茨田がGKにアプローチ、ペナ脇でボールを受けた染谷に対して富山が中のコースを切るようにしてプレス。この動きに連動した大山と河面がクリスティアーノへの縦パスに反応し、更に富山がプレスバックすることでボールを奪取しています。そのあとのパスは奪われてしまいますが、ネガティブトランジションでも茨田や大山が素早くプレスしています。

この試合、ファンマではなく富山が起用されたのも、前述したライン間での起点づくりに加えて、こういった積極的なプレスをかけることが理由でしょう。
ただ、課題として言えるのは、ボールを奪った後の攻撃です。この瞬間についてはシーズンを通して、とにかく前へ、前への一点張りでどのようにPA内に侵入したいのかが、一向に見えてきません。この点は今後のシーズンを戦っていく中でも、重要な課題になるでしょう。

ちなみに41分にいいシーンがありました。大山がボールを奪って、富山にアーリークロスを合わせた場面です。こちらに関しては、シンプルな攻撃なので動画のみとします。


3-4プレスに対する柏の攻撃

前からプレスを受けた柏の前半の攻撃陣形がどうだったか。下図のような形になります。パッと見て分かるとおり3-4-3になっています。大宮が前からプレスにいける体制を常にとっておいたことで、WBがビルドアップのサポートに入らなくてはならなくなり、低い位置をとることになりました。形は変わってもやることは同じで、前線はDFラインと駆け引きしつつ、ロングボールを引き出す役割。瀬川に関しては裏抜けのフェイクを入れつつ、ライン間の落ちてきて、グラウンダーでの縦パスを受けていました。
しかし、ロングボールを主体に攻めることになれば、WBが低い位置にいますので、サポートが間に合わず、前線の3枚のみで攻撃をすることになります。スペースはある。しかし、連携するには距離が遠い。それに加えて、大宮が3選手に対してマンマークをしますので、キープも難しい。これによって、攻撃は速攻にならざるを得なくなり、攻めが単調になりました。


ただ、その中でも柏はチャンスを作ります。ゴールシーンもそうですが、それ以外に決定機だったのは13分のシーンでしょう。

オルンガがサイドに流れて小池のフィードを収め、ヒシャルジソンを経由して左へサイドチェンジ。これによって生まれた時間で小池がアタッキングサード手前まで押し上がり、再度ボールを受ける。河面が引っ張り出されて空いたペナ脇のスペースに中央からクリスティアーノが流れ、プルアウェイで畑尾の死角に入ったオルンガへクロス。最後のクロスさえ合っていれば、ほぼ間違いなくゴールだったでしょう。引いて守っていればペナ脇にフリーで侵入されることはなかったかもしれませんが、前線からプレスをかけることで、こういった厚く、迫力のある攻撃を防ぐ意図があったものと思われます。

3-5柏のショートカウンター

後半になってラインを高めにした柏。これにより敵陣での押し込む機会が増えます。これによって、両DHがDHを捕まえ大宮のパスコースを制限、縦パスを狙ったHVやCBがインターセプトを狙います。この試合で最も怖かったショートカウンターは65分のシーンでしょう。笠原のゴールキックを敵陣に放り込み、ラインを上げ、河面のクリアを再度前線へ、クロスが流れ、吉永が富山への縦パスを狙うも古賀がインターセプト、ボールを奪った勢いで菊池への縦パスに食いついた吉永の空けたスペースに流れ込み、クリスティアーノへクロス。


大宮が対応する時間を与えない素早いショートカウンターで、ゴール前に質の高いボールが入ってくることを想像したならば、ゾッとせずにはいられない鋭さをもった攻撃でした。このような攻撃がゴールにつながるようになれば、いよいよ手が付けられなくなるはずです。前述したように、柏のDHやHV、CBには前向きの守備が得意な選手が揃っています。奪ったあとのゴール前へのボール供給やバイタルエリアでの崩し、サイド突破のいずれかができるようになるのは、時間の問題かもしれません。

次は失点シーンです。これは上述した前線3枚による攻撃にショートカウンターが組み合わさった形から生まれました。攻撃は左サイドのハーフウェー付近、大宮のスローインを上島が奪って小池がオルンガへ縦パスを入れたところから始まります。スローインをしていたために高い位置をとった河面、そして攻撃に備えて同じく高い位置を取っていた奥井。このため、3対3の局面が生まれます。オルンガが前向きになると素早く瀬川が畑尾の背後をとってボールを受けオルンガへリターン、これが弾かれますが瀬川が粘りフォローに入っていた小林がセカンドを回収。素早くクリスティアーノにつなぎます。柏の前線が流動的に動いたがために山越の対応が遅れ、ボールはオルンガに入ってしまい、オルンガのシュートは笠原の手をすり抜けました。


このシーンは前線が次々と空いたスペースへ入り、大宮の守備陣を撹乱。これによって後ろ向きになったところをショートカウンターにつなげられています。大宮は7枚もがゴール前に戻っているのに対して、柏は4人だけです。このような攻撃に再現性がもたらされることになったら最早ホラーです。こうした攻撃設計を仕込めるネルシーニョはやはり只者ではありません。本来であれば、そのような柏のクオリティにも負けないチームを作って、次の試合では絶対勝つというのが理想ですし、そういった思いが大半を占める一方で、攻撃の形が完成する前に解任されてくれないかなと思ってしまう本心もあるのが、正直なところです。


4.総括

以上、長々と書いてきた記事も総括です。ここまで、お付き合いいただきありがとうございます。さて、タイトルにもしました大宮の「現状と課題」ですが、とりあえず列挙してみましょう。
①ゴール前までボールを運ぶパス回しができない
②カウンターが完結しない
一括りにしてしまえば、攻撃面に課題があります。今回の試合でもそれさえあれば、どれだけ守備の負担を減らせたでしょうか。高木監督のもと、守備に関してはJ2の中でも屈指の固さを誇ります。今後、積み重ねていくべきは攻撃の方でしょう。上記①については、前回の栃木戦のレビューにも書きましたが、なるべく高い位置で起点を作りWBがペナ脇に侵入することが必要です。柏戦に当てはめれば、DHの裏のライン間にスペースに起点を作り、ここからサイド裏やライン裏に入っていきたいところ、それができない。縦へ突破するのが難しいのであれば、ボール回しをして相手を押し込んでもいいのに、それもしない(できない?)。この点、大山がなんとかうまく絡んでくれると良いのですが・・・。
また、カウンターに関しては、これまた前述したとおり、どうやって相手のゴール前までボールを運びたいのかが未だに分かりません。縦へ一気に突破できるような選手(泉澤やマテウスのような選手)がいない以上、プレスを回避しつつ起点を作って前進、また起点を作って前進、ということを繰り返すことが妥当でしょう。現状のカウンターは縦に進むための手段がないにもかかわらず、縦へ急ぎすぎている傾向があります。ボールを奪うと頭がカッカしてしまうのでしょうか。今一度、冷静になってもらいたいものです。

5.宣伝

連動しているのは大宮のプレスだけではありません。今回の記事は大宮の戦術ブロガーとのやり取りのなかで発見した観点が多分に入っています。仕事もそうですが、やはり一人の力には限界があります。大宮サポに戦術に少しでも興味のある方が増え、皆で議論していくことで、大宮の将来にも少なからず影響が与えられるかもしれません。大宮戦術談義会では、戦術に関心のある方、戦術ブログを始めたい方を募集しています。みんなで観戦したり、飲み会をしたり、会議室を借りて話し合ったりしていますので参加してみたいという方は私に限らず下記のメンバーまで気軽にお声がけください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?