見出し画像

何もない街角で。蒲郡駅前に住んでわかったこと~みんな大好きサンヨネ蒲郡店の巻~

撮影:荒牧耕司

クオリティ・オブ・ライフは近所にある食品スーパーの質で決まる

 クオリティ・オブ・ライフは近所にある食品スーパーの質で決まる――。こんな持論を聞かせてくれたのは東京に住む既婚男性だったと思う。独身の頃だったらピンと来なかったはずだ。
 僕は食い意地が張っているほうだけど、自分のために作る料理といえば豚汁とカレーライスぐらいだ。普段は納豆とご飯があれば基本的には文句ない。独身時代は個性的な店が溢れる西荻窪(東京都杉並区)に住んでいたこともあり、夜は好きな飲食店でお店の人としゃべりながら食事をしていた。
 そんな生活が一変したのは結婚して愛知県蒲郡市に引っ越してからだ。かつては繊維産業で栄えた町であり、住みながらじっくり探せば腕のいい料理人がいる飲食店が見つかる。しかし、その数は都会とは比較にならないほど少ない。
 一方で、蒲郡が位置する三河地方は昔から肥沃な土地として知られて農業が盛んだ。また、三河湾に面しているため新鮮な魚が常に供給される。それを上手に生かせる料理人が都会と比べると少ないだけだ。多くの地方都市と共通する課題だろう。
 この三河地方で生まれ育ち、学生時代は個人経営の居酒屋でバイトしていた妻は料理上手なほうだと思う。正確に言えば、酒のつまみをサッと作るのが得意だ。東京で交際していた頃、近くの魚屋で新鮮で内臓も大きなイカを目ざとく見つけて、僕のアパートでイカの塩辛を即席で作ってくれたときは感動した。
 結婚したら、自宅で晩酌することの楽しさも知った。仕事を終え、できれば風呂に入り、「歯を磨いて寝るだけ」の状態で食卓に向かう。妻が作ってくれた料理に手を伸ばしながら、ビールやワインや日本酒を飲み、その日のたいしたことのない出来事や人間関係についてあれこれ話す。美味しくて健康的で安上がりだ。
 安くて高品質な素材を自宅で生かせるか否か。食べもの好きの生活の質を確かに左右すると思う。

サンヨネ2

利益の半分は従業員に還元し、営業時間は19時までの食品スーパー

 蒲郡で住み始めてから、週末ごとに妻と向かっているのはサンヨネ蒲郡店である。豊橋市を中心とする東三河地方で5店舗しか展開していないローカルチェーンだが、愛知県内だけでなく国内外の食料品を精力的に集めている。特に「ハート商品」を呼ばれるプライベートブランドのコストパフォーマンスは高いと思う。
 サンヨネはいつ行っても明るい。照明が明るいこともあるけれど、従業員の表情も穏やかだし客も楽しそうに買い物をしているからだろう。ちょっとスピリチュアルな表現になってしまうが、「いい気」が店内に満ちているのだ。
 その秘密は、売り上げや株主利益などよりも自店の従業員を含む生産者の生活を大事にしていることだと思う。食材を買い叩くことなどはせず、他よりも高値で買い取る(その代わりに品質確保のための技術指導をする)。利益の半分は従業員に還元する(店長の年収は1000万円超)。店舗ごとの主任は自分の担当分野の商品を仕入れる権限がある。正月はちゃんと休み、営業時間も19時まで。
 こうした施策は理想的ではあるが、実践と継続は難しい。現社長の三浦和雄さんが20年ほど前から導入し、「おいしい、新鮮、安全な食品をより安く」という従来の経営方針と徐々に溶け合って今に至った結果だと思う。生産者も消費者も無理をせずに幸せそうにいるチェーン店。一人の労働者としても共感できる。その根底には「ステキな会社をつくりましょう」という三浦さんの理想主義が貫かれているのだ。
 蒲郡駅前に住み始めて8年。安くて高品質な食材は近隣の産直などでも仕入られることを知り、サンヨネ以外の店に買い出しに行くことも増えた。ただし、安心と楽しさと共感を同時に覚えるスーパーはサンヨネだけだ。三浦さんが発し続ける大きな愛情のようなものに包まれながら、これからも蒲郡駅前でぬくぬくと暮らしていきたい。(おわり)

サンヨネ3

有料記事のご案内


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?