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お盆の再会1

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

性的、大人な表現ありです。お気をつけて下さい。

墓参り

私は知里(ちさと)29歳OL。

お盆が近づいてきたある夜の事、テンから電話があった。

「おう、知里か。元気か?そろそろまたお盆だなぁ。一緒に墓参りに行かねぇか?」

「テン、久しぶりだね。ありがとう。私も連絡しようと思っていたの。是非そうしよう。」

8月13日に墓参りが決まった。
不思議な事に久美とレンは同じ墓地に眠っていて場所も近いのだ。

知里とテンは同じ悲しみを抱えていた。

知里は彼氏のレンと親友の久美(くみ)
テンは彼女の久美と親友のレンをどちらも5年前に突然亡くしたのだ。

久美は晩年病気で入退院を繰り返していた。
レンは仕事先で不慮の事故で。
どちらもこれ以上詳しく聞かされていない。

彼らから連絡が無いなと思い、お手紙を書いたり家まで行って家族の人から訃報を聞かされたのだ。連絡手段も閉ざされ、電話も解約されていたのだ。

特に知里もテンもそれぞれレンや久美が大好きだったので次の恋愛が出来ずに今も立ち止まっている。

4人は高校時代からの付き合いで大学も一緒でよく行動を共にしていた。
青春真っ只中で振り向けばいつも4人そばにいた。心強かった。

知里とテンは当時から今も付かず離れずの普通の友達同士だが主にレンや久美の墓参りに一緒に行っていた。


8月13日、朝一で電車で知里とテンはお墓に向かった。
海の近くにある墓地。

夏が来ると4人でよく一緒に通った海だ。
レンと久美が亡くなってからは行く事は無くなった。

久しぶりに海も見たいなぁ
知里はそう思った。
でもテン、急いでるかもだし、テンと2人で海もなんか違うかもね。

知里とテンはそこまで話が盛り上がるわけではなく、どこか職場仲間みたいなテンションで落ち着いた会話をしながら墓地を目指した。

朝早くでも結構参っている人がいる。
その方が涼しいからだろう。

まずレンのお墓を目指した。

レンのお墓が見えてきたが、その前に確かに人がいる。朝靄(あさもや)で見えにくい。

「ねえ、誰かいない?」
「そうだな。あいつの家族か?それなら先に久美のお墓に行かないか?」

と言いながらも確認のためにレンのお墓に近づいた。

人影は2つあり、知里とテンを見てしっかり手を振っていた。

「やあ!久しぶりだな!」

「2人とも久しぶりだね!元気そうで嬉しいし、ありがとう!」

なんと爽やかな笑顔で出迎えてくれたのはレンと久美だったのだ。

「おい、ちょっと待て!どうなっているんだ?」
テンは取り乱していた。

知里は冷静に考えていた。
確かに2人の訃報を聞いたのはだいぶ後で、お葬式には出なかったのだ。
すかさず墓の側面にレンの名前が無いか確認したかったが少し距離があり、見えない。

実は生きていた系?
じゃあ私が悲しんでいた時間は何だったの?
もしくは実はお化けにおちょくられてる系?

と思いながらも知里とテンはそれぞれ今でも大好きな恋人と抱き合ってキスをした。思う存分。
会いたかった想いが溢れたのだ。

次に親友としっかり抱き合った。

涙の再会だ。

「何だか夢みたい。一体どういう事?確かに訃報を聞いたんだけど?」

レンと久美「私達は見ての通り死んでないよ。」
知里「ていうか2人とも私の事が嫌いになって離れたかった?」
テン「ちゃんと説明しろよ!」
レン「ワハハ!それは無いな!」
久美は知里の肩をバシッと叩き、
「そんなわけないじゃない!忙しかっただけ。」
と。
「そんな事より遊ぼ遊ぼ!海に行こう!」

知里とテンはレンと久美に手を引かれて海を眺めに行った。目の前で起こっている事についていけず、ますます謎が深まる。

知里の心の中(忙しかったにしても普通5年も放置しないよね?)
テンの心の中(2人が戻って来やがった。一体何だ?)

レンの手、身体、唇、確かに温かかったし、久美の身体や手も温かかった。
生きているのは間違いないのだろう。

次第に知里もテンも疑問を抱かなくなっていった。

水着が無いから4人で海を眺め、近場を散歩したら洞窟があったのだ。
初めて見つけた洞窟。入るしかない。

4人は冒険が好きで、昔はよく森や山の中を散策した。

洞窟は海水で地面が濡れている。
テンは久美の手を、レンは知里の手を繋いだ。


スマホのライトを頼りに奥へ奥へ入っていくとやがて行き止まりになっていた。
暗いが涼しい風が吹いていた。

少し火が欲しいくらい。

なんと細薪が組まれていて、チャッカマンも缶の中に何本か入り、近くに置かれていた。
火をつけるとレンがお弁当を4人分出し、久美も4人分お茶を出したのだ。

全てが出来すぎていた。

「どうしてたの?元気だった?」
という話から日常の話など、非常に盛り上がったのだ。

久美は病気が治り、勉強をし、手に職をつけて看護師として働き始めているようだ。

レンは確かに事故には遭ったが、すぐに回復し、引き続き教師をしていると。

何故連絡が無かったかはこれ以上突っ込まない方が良い気がして知里もテンも次第に触れなくなっていった。

外に出るともう夕方だった。夕焼けが綺麗だ。
このままみんなで近場の宿泊施設に泊まりたいと思ったがそういう話にはならなかった。

ただ
「帰ろう」
とみんなで電車に乗り、それぞれの自宅を目指したのだ。

レンも久美も自宅の最寄駅で確かに降りて行った。

テン「つけるか?」
知里「それも良いけど、やめといた方が良い予感がする。」
テン「そうだよな。」

明日も水着を持って同じ海へ行こうという約束をして解散したのだ。

知里は自宅で両親に起こった事を全て話した。
両親も怪訝そうな顔をしたが、遊びに行くとか、もし宿泊を伴っても良いからと許してくれた。

厳格な両親だったがこの4人の中のメンバーで集まる時は昔から許してくれたのだ。
レンや久美、テンの事を気に入っているようだった。

昔のように久美やレンからもメッセージが届いた。レンとは久しぶりに電話でも喋ったのだ。
会えなかった期間が嘘のようだった

続く








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