
新しい挑戦には「時間」と「手間」がかかるという話~ドイツ企業との技術提携で学んだこと~
こんにちは、シコー株式会社の社長をしている白石と申します。創業家の3代目として袋屋の家業を継いで3年半が経過しました。衰退産業とも言える袋屋業界で我々なりの成長を模索して仲間と頑張っております。
今回の記事では2023年にドイツの袋屋さんと技術提携したエピソードを披露しつつ、その中で学んだことを書き連ねます。
海外ビジネスを伸ばしたいと思った理由
もともとは家業の社長に就任した2021年に「海外売上比率を30%にしたい」と掲げたことが根本になります。現在は数%程度なので、まさにムーンショットの極みです。かつては海外に関連会社がありましたし、一部の紙袋を数十年に渡り海外顧客に輸出したり、海外から袋にするための紙を購入していた背景もありました。「衰退する日本のマーケットで頑張るけど、付加価値の高い製品の輸出もしていこう!」という想いがありました。友人のアトツギの中には出島戦略で全く従来の家業と異なる挑戦をとられる方もいらっしゃいますが、私は既存ビジネスの延長を打ち手としたわけです。
白石の履歴書(簡易版)ってどんなもの?
海外ビジネスを伸ばしたい!という私の想いを語るには私の歴史を簡単に説明する必要があります。学生時代の海外経験はタイに一人旅をして7日の予定がホームシックで6日で帰国した以外はなし。英語も全く話せるレベルではありませんでした。これが私のビジネスパーソンとしてのスタート地点における英語戦闘力でした。
2004年に家業に入社して東京の営業所で働いていた1年目、事務所に外国のサプライヤーの訪問があった際に「うちって外人さんが来るんですねー」と他人事のように感心していました。それを聞いていた仕事の師匠と言える当時の上司が「将来社長になる人間がここまで会社のことをわかってないのはまずい!」となり、社会人2年目の2005年にドイツで3年毎に開催されるインターパックというパッケージングの展示会を見学しにいくことになりました。
初めての海外出張は当時東京でポンコツ営業をしていた自分には全てが眩しくて、白アスパラやらソーセージやらを食べてご満悦となり、「やっぱこれからは海外っすよねー」と頭がお花畑になっていました。
海外に興味をもったものの、英語は一切喋れなかった私は、英語が堪能な師匠のようになりたいなと漠然と考えて、そこからは仕事以上に英会話に力をいれるようになりました。そこから留学に興味をもち、なんだかんだあってアメリカでパッケージングの修士号をとることができました。(詳細割愛)。
アメリカ留学から帰ってきたのは2013年。2005年にぼんやり思い描いていたネイティブスピーカーとは全く異なり、カタカナイングリッシュの使い手として帰還しました。はい、思い描いていた未来はそう簡単には実現しないものです。
ヨーロッパの紙で日本のお客様の生産性改善ができないか?
ヨーロッパで生産されている紙で「低透気度原紙」というものがあります。これは空気抜けのよい紙のことを指します。この紙を使って両底袋という紙袋をつくるとお客様での生産効率が通常の紙でつくる袋よりも劇的に改善するので両底袋が市場のスタンダードであるヨーロッパを中心に普及していました。日本では両底袋がヨーロッパほど普及していないですし、袋詰めするための機械が欧米ほど高速化されていないこともあり、ニーズはありませんでした。
当時の私はヨーロッパの紙を日本で加工して紙袋にするよりも、日本の製紙メーカーさんが欧米並みの低透気度原紙を開発してくれれば紙袋を輸出できたり、日本で新たな市場をつくることができるのではないかと考えて製紙メーカーさんにお願いをしました。ただ、自分の実力不足で開発をしてもらうところまでは至りませんでした。
そうこうしているうちに、自分自身の仕事が忙しくなり、低透気度原紙のことは頭からすっかり抜けていました。はい、良くも悪くも切り替えが物凄くはやいタイプです。
袋の加工で「低透気度」を実現するナノパーフォレーションとの出会い
低透気度原紙のことを忘れて仕事をしていたある日、師匠から「おもしろいモノ見つけたらメールを確認してくれ」という連絡がありました。

もらったメールをみると格子状の穴加工を両底袋といわれる紙袋にしたものでした。この紙袋はドイツの袋屋のダイパックの技術で、微細な穴加工は内容物は通さず空気だけを通す。しかも穴を空けても紙袋の強度は落ちないので「低透気度原紙」と同じ機能をもたすことができる代物でした。このときにはじめてダイパックのHPを調べたのですが、「加工技術でイノベーションをおこす」という彼らのモットーがシコーの目指すところに近しいこともあり非常に興味を持ちました。
ダイパックという会社のこの技術のことをもっと知りたい!と考えた私は師匠にお願いして海外のツテをたどってダイパックの社長とオンラインでディスカッションをする機会を得ることになりました。このタイミングは確か2022年の初頭です。

理論ではなく感情で動き出す
オンラインミーティングの結果は微妙なものでした。ナノパーフォレーションという技術の素晴らしさに感動したことをカタカナイングリッシュで伝えて日本で広げたいことを伝えましたが、相手の反応はうすく具体的な話に進みませんでした。ただ、相手の立場になって考えてみると初めて話すアジアの企業相手に自社の技術を開示する話をしないことは十分理解できました。
そこで2023年にドイツで開催されるインターパックに参加し、その足でダイパックに足を運ぶことにしました。これは自分が逆の立場なら「はるばるドイツまで会いにきました!」となれば門前払いはなかろうと考えたからです。先方にメールでアポを申し入れたところ、ウェルカムな返信がきたので意気揚々と師匠に報告の連絡をいれました。このときの誤算は英語が堪能な師匠から「君も社長になったのだから一人で行って交渉してきなさい」と言われたことです。
海外出張のイロハとしてドイツの駅にある売店でパンを購入するところから面倒をみてくれていた師匠が一線を退きつつあったとはいえ、なかなか寂しいものがありました。
ドイツでのダイパックとの面談は非常に円滑に行きました。前年のウェブミーティングとは全く異なる良い雰囲気で行われてナノパーフォレーションの契約を検討していくことになりました。そして2023年末に再びドイツに足を運び技術契約書に署名する運びとなりました。

このときの学びはカタカナイングリッシュでも伝えたいことがあり、相手が興味をもてばコミュニケーションは成立することです。そして、その想いを伝えるにはデジタルよりもアナログの方がよいということです。きっと師匠の横に自分が座っていると交渉を任せてしまったので、現地に足を運んでいたとしてもこの学びをえることができなかったでしょう。
お客さんはどこにいる?
ここでハッピーエンドとしたいところがそうもいきません。やはりビジネスですから利益に繋げる道筋をたてないといけないのでもう少し記事を続けます。
ナノパーフォレーションの設置に向けては機械設備に手を加える必要もあり、生産ができるようになるまで時間がかかることがわかりました。その間にできることは見込み客の獲得だということで2024年は2つの展示会に出展をし、ナノパーフォレーションの紹介をしました。お陰様で複数のお客様が「設備設置後にテスト評価をしたい!」といって下さるという結果をだすことができました。
進め方の反省点としては「ナノパーフォレーションを日本で導入したい!」というのが根本の動機となってしまっており、本当に顧客ニーズをくみとってからではなかったというところです。興味をもってくださるお客様との接点がつくれたので結果オーライとしています。

まさかの展開。。。
タイミングの前後が多少あるのですが、ダイパックとの契約締結直前に日本の製紙メーカーさんから低透気度原紙を開発したという一報が入りました。製紙メーカーの営業マンから「ようやく白石社長のリクエストにお応えして開発しました!」と笑顔で言われたときの私のリアクションは白目をむいていたに違いありません。(それまで一切進捗報告とかなかったやん。。。)
社内で本当にナノパーフォレーションの契約をする必要があるのかという意見もありましたが、自分達の加工で付加価値を紙袋につけることができるナノパーフォレーションという機能はやはり武器になると考えて契約は進めました。
ビジネスというやつは本当に自分のペースだけでは進められないなぁと改めて痛感です。
現在の状況
社長として方向性は決めましたが、モノづくりをするのは現場です。今はナノパーフォレーションの契約をする際にドイツに同行してもらった工場のスタッフを中心に、具体的に進めてくれています。製造がはじまるまでもう少しかかりますが、工場のスタッフが腹落ちしているとスムーズに進むのだなと実感しています。社長である自分が「これをやれ!」と号令をかけるだけよりも、関係者に当事者意識を醸成してもらうやり方が自分にはあっているようです。私のような自他ともに認める実務能力に欠ける人間が経営をする際の必須スキルなのかもしれません。(本当に優秀な社員さんに恵まれております)
最後に
ダイパックの社長とウェブミーティングをしたのが2022年。そこから3年という歳月をかけてようやく自社で生産ができるスタートラインまできました。新しいことをはじめるのにこんなに時間と手間がかかるのかというのが正直なところです。想定外の出来事も複数起こりました。
そんな中でも工場のスタッフにはドイツ出張に同行してもらい「なぜ白石がナノパーフォレーションをやりたいのか?」をダイパック社の訪問後に夜な夜なソーセージを齧りながら語って伝えたり、営業部隊には展示会を通じて「ナノパーフォレーションという技術でお客さんが気づいてすらいない課題を解決しようぜ!」と語ったりして、腹落ちして当事者意識をもってもらうプロセスを踏むことができたのが収穫でした。
カッコつけて言うと目先の損得の話ではなく、社長の私がやりたいことと、その考え方をナノパーフォレーションという一つの商品を通じて社員の皆さんに理解してもらえばよいと思っています。このことは必ず中長期的に効果のでてくる人的投資でありPLよりBSにジンワリと効いてくる漢方薬みたいなものだと考えています。
こういうやり方は時間はかかるけど、確実にシコーグループのビジョンの実現に向けて進んでいくことができると信じています。
包装で創るストレスフリーな世界~つかいやすく、かたづけやすく、つくりやすい~
最後にそんなビジョンを紹介して筆をおかせて頂きます。。
おあとがよろしいようで。

※他社様のことに触れている箇所もございますが、あくまで私個人の見解に基づくものであって、各社の意向を反映したものではないということをご理解願います。