見出し画像

「精神科病院への長期入院をなくしていくために~実践例から考える~」参加レポート

今回の講演会では、「精神科病院への長期入院を減らしていくために」をテーマに渡邊乾さんにお話を伺った。渡邊さんは2007年より作業療法士として精神科病院に6年間勤務し、2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOCを開設した。2015年から計画相談やグループホームなど障害福祉サービスも展開。精神科病院では慢性期女性閉鎖病棟に配属され、その病棟の平均在院日数は20年であった。他国では20世紀の間に長期入院を解消していったということを知り、長期入院は日本の問題であることを知った。20代で労働組合活動に参加。

大阪精神医療人権センターのこれからのイベント・セミナー・講演会

地域から見た精神科病院

病院勤務時代に精神科病院の現状が「ベッドコントロールビジネス」中心であることを知り、驚いた。病棟基準を満たすために、入退院が調整されていて、自らの意思で入院したにも関わらず数日間医療保護入院とされている人がいたり、3か月経過したため退院をとするなどといったことが行われていた。院内で共有されていることは治療方針ではなく、上記のような運営方針だった。

そのため外来の主治医が入院を決めたとしても、入院時の主医師は別の医師ということが起こったり、考えていたような入院治療とならないことがある。同じ病院でも外来と入院は連続性がなく、まるで別物のようになってしまっている。

KAZOCの利用者が入院を希望する際は、入院は「半丁博打」であると伝えざるを得ない現状がある。本人が希望した入院であったとしても、その後の入院治療の内容や質についてはその時に関わる医療者で変わってくるため、まるで「賭け」のようになってしまうのである。
また、精神科病院は閉鎖性が高く、入院してしまうと外部から働きかけることがとても難しく、これまでの環境と切り離されたようになってしまう。

参加者からの質問「精神科病院は地域資源なのか」

地域で解消しなければならないことを病院に丸投げしてきた側面もある。本来地域社会に住む人達がそこで問題と向き合わなければならない事が精神科病院に投げ込まれている。そういった意味では、病院も治安維持、住む場所、苦難から一時的に逃げる場所などといった複数の役割を担わされ、本来の意味を持った状態で機能できないという状況に置かれてしまっているのかもしれない。

KAZOCの実践

長期入院解消のためにはまず受け皿が必要である。
訪問看護ステーションKAZOCでは、ハウジングファースト、浦河べてる式、オープンダイアローグを3本の柱としている。

1 KAZOCはハウジングファースト東京プロジェクトに参加し他団体と連携しながら活動している。ハウジングファーストはアメリカで生まれた、重度精神障害のあるホームレスの人たちの地域生活支援のためのプログラムである。ステップアップ方式ではなく、「まずは住まいを取り戻す」ことをコンセプトに支援を開始する。リカバリーとハームリダクションを支援の柱に、利用者が決定することが最も大切としている。成功率(居住維持率)は80%~85%と非常に高い数字となっている。

2 べてるの家では「病気が治りませんように」という、これまでの医療とは真逆の発想に衝撃を受けた。べてるの理念には、「三度の飯よりミーティング」「昇る人生から降りる人生へ」「苦労を取り戻す」「弱さの情報公開」など他にも斬新な文句が並んでいる。

3 オープンダイアローグはフィンランド、西ラップランド地方で実践されている「開かれた対話」による精神科治療介入の手法である。できるだけ入院、薬物治療を行わず「対話」の場を重視することで薬物投与率35%、再発率24%という極めて良好な治療成績を挙げている。

KAZOCは「精神障害があっても、地域生活は持続可能であると証明する」ことを使命に、「管理しない 変容を求めない」「ノージャッジメント」「病院職員の受け皿を作る」など7つのコンセプトをもとに活動をしている。
地域での実践をする中で、精神科領域は標準化不能で、AをやればBになる、ということはないということに気づいた。ハウジングファースト、当事者研究、オープンダイアローグなどもそれぞれ固有の価値があるが、それらをもともと地域にあるものに融合させ、その地域独自のものにしていくことでより新たな価値が生まれる。

長期入院を無くしていくために

長期入院解消という点では、病院から地域への導線について考える必要がある。KAZOCは練馬の精神科病院と同じ町内に設置されているが病院はなかなか開かず、長期入院の方は退院して来なかった。訪問看護の事業所近くにグループホームを作ったところ長期入院の方が少し退院してきた。長期入院の方の退院を促すためには、地域の資源を整えていく必要がある。地域の職員が病院内に入っていくことも一案と思っている。

また、長期入院していた方を迎え入れる地域の姿勢が、少なくとも病院よりはWelcomeでなければならないと思っている。迎え入れの姿勢をどのように病院に届けるかという点も問題となる。現在コロナの状況もあり、院内に入ることが難しいため地域での暮らしの様子などをビデオに撮って病院に送るという工夫をしている作業所もある。

今後は今まであった病床を減らせない理由が減ってきているため、施設収容主義は間もなく終わると考えている。現在入院をされている約30万人が退院されることを考え、それだけの人数を支えられる地域を作っていく必要がある。これからは、介入していくというよりは開放していくというイメージ。本人を変えていくというよりは、地域住民として混ざり合い、環境に馴染んでいくということが大切である。その地域に密着した、地域に合わせた、地域に馴染むローカルな活動をしていくことが必要。

精神障害に対する偏見もあるが、そういった中で地域で力強く生きている方々がいる。そういった方々の語りはとても貴重で大切である。今後当事者の方が語れる場を作っていきたい。 

入院経験のある川口さんのお話

今回の講演会では、精神科病院への入院経験のある川口さんのお話しがあった。
川口さんにとっての入院は、「病院側の勝手な判断で行われ、本人にとっては不本意なことだった。本人のいないところで色々決まっていく。退院に向け、PSWはお手伝いをしてくれなかった、個別支援も提供されなかった。入院は無駄な時間だったと思う。救える命は救わないといけないと思っている。そのためにこのように、発信をしたりしている。」とのことだった。

「救える命は救わないとアカン」という言葉がとても印象に残っている。それほどの感覚を持たせる入院治療とは一体なんなのかと。ご本人の声が聞かれないということは深刻な問題だと思う。そういった中で強制的な治療や、誤診が生まれている現状がある。病院は強制力がある場所だからこそ、何よりも「本人の話を聞く」ということを大切にしないといけないと思う。
また、川口さんのように入院での経験を発信してくださることはとても大切だと思った。その分野に携わる人は、当事者の方が入院をどう考えているのか知ることから、入院治療はどうあるべきかを考えていく必要があるし、何も知らない方には知ってもらうことがまずは必要だと思う。 

今回の講演会に参加して

わたしは精神科病院での勤務を経て現在は地域で訪問活動を行っている。入院と外来の連続性がないという話は聞いていて、とても納得出来た。今思うと病院は入院されている方から生活感や価値感が切り離されているような場所であった。地域で暮らしている方にはと、それぞれの方の生活があり人生があり価値がある。入院すると画一的なルールにより「患者」役割に徹することになり、その人から「生活」や「価値」が切り離されてしまっている印象があった。
私自身、病院から出て地域で利用者さんのお宅に伺い、その方の人生や大切な価値に触れ、それらが切り離された状態になってしまう病院での治療とはいったい何が出来るのかと疑問を持つようになった。

入院されている方と地域で暮らしている方の違いは、周囲の環境、繋がりではないだろうか。地域で暮らしておられる方の周りの環境が作られていく過程には、その人が地域でひとりの地域住民として暮らすことで、自然と地域の人と知り合い、繋がりが出来ていくということがあったのだと思う。

現在は教育でも仕事でも、色々なところでカテゴライズし分断するような動きがあるのではないだろうか。それではいつまで経っても「混ざり合う」ことは難しいと思う。同じような人を集め、カテゴライズし、出来るだけ均一化したような環境は楽なようで、非常に生きづらいと思う。
(スーパーの野菜売り場を見ても悲しい気持ちになる。野菜は本当は色々な色や形をしているはずなのに同じような色形のものが並べられて。そういった些細なところから画一化社会が作られているのではないかなあと思ったりする。)

色々な人がいて、色々な価値感があることで、「普通」や「当たり前」「常識」と言った概念が外れ、誰にとっても生きやすい地域が出来ていくのではと思っている。今は入院されている方々が1人でも多く地域で暮らせるようになっていくことが、地域が豊かになることなのではと思う。今回のお話からでは「精神科病院への長期入院を減らしていくために」は、「閉鎖」からの「開放」、「分断」からの「混ざり合い」がというキーワードが出てきた。色々な人が地域で混ざり合いながら暮らし、ひとりひとりの許容範囲が広がっていくことで、だいたいのことが「まあいいじゃん」と笑って許される、そんな社会になることをわたしは望んでいる。

清水麻里奈
埼玉県精神医療人権センター/作業療法士

埼玉広告2


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
note.user.nickname || note.user.urlname

認定NPO法人大阪精神医療人権センターの活動は、みなさまのご支援によって支えられています。 サポートは精神科病院に入院中の方の権利擁護活動のために有効に活用させて頂きます。例えば2000円で面会ボランティア1名を派遣することができます。

あたたかいご声援に感謝!
12
精神医療および社会生活における精神障害者の人権を擁護する活動を行い、精神障害者に対する社会の理解を促進し、障害の有無にかかわらず、人間が安心して暮らせる社会に一歩でも前進させるべく貢献することを目的としています。https://www.psy-jinken-osaka.org/
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。