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精神科病院に入院している人から話しを聴くこと

自身も入院経験のある、精神科ユーザーの彼谷さんによる面会ボランティア養成のための講義です。精神科に入院するとはどういうことか、大阪精神医療人権センターのボランティアとしてできること、できないこと、好ましくないこと、どのように入院中の方からお話を聴くとよいかについて解説します。

【養成講座の内容】44分 
 講師 大阪精神医療人権センター個別ボランティア検討チーム 彼谷哲志

▼前提を知る▼精神科病院に入院すること 面会で出会う人たちの背景を知る▼診察から入院▼集団生活✕病棟生活▼出会いから解決まで 個別相談の過程▼誰に助けを?▼入院している人に知ってもらう▼人権センターを知る▼会いに来てほしい▼電話相談を支えるツール▼面会活動でできること▼面会活動で難しいこと▼あきらめていた思いを行動に▼希望の実現▼個別相談の流れ▼話を聴く▼環境から▼聞き手の態度▼共感▼精神障害を念頭に置いたポイント▼相手にとっての事実を大事にする▼両価性▼面会活動の注意点 ▼望ましいこと・望ましくないこと▼価値観の押し付け▼面会の引き出し▼面会活動の限界 聞き手が気をつけておきたいこと▼できないこと
この講座のテキストは、どなたでも購入することができます。

精神科の生活とは

精神科病院への入院は、自分から病院に行く場合もありますが、両親や支援者に連れて行かれた、警察に連れられて、救急車で搬送されてなど、様々な経緯で入院になります。医師の診察を終え病棟に行くのですが、不安の中で医療提供者に囲まれて歩いていきます。
病棟に行くと、ナースステーション(詰所)で持ち物検査があります。病棟には持ち込めるものと持ち込めないものがあります。安全上の理由は承知しますが、感情としては納得しにくいものです。
病棟での生活はスケジュールが決まっています。朝の起床時間から消灯まで、作業療法の時間などもありますが、基本的に病棟の中で過ごします。現在28万人ほどが単調なスケジュールの病棟で生活しており、6割以上の方は1年以上を病棟の中で過ごしています。

病棟で出会う方からお話を聴く時に、入浴の話題がでることがありますが銭湯のようなイメージではありません。自分のペースでのんびり浸かることは難しいかもしれませんし、異性の看護師さんが見ているかもしれません。「お風呂」という単語であっても、病棟の生活は違うものです。

出会いから解決まで〜個別相談の過程〜

大阪精神医療人権センターでは、電話相談ボランティアが毎週水曜日に、入院中の方から相談を受けています。ハガキや年賀状・暑中見舞いのやりとり、テレホンカードの配布なども行います。携帯電話が使える病棟は増えていますが、一般科と違い持ち込みできない場合が多く、公衆電話が重要な通信手段になりますので、テレホンカードがないとやりとりできません。
「病院での暮らし」をしている人から電話や手紙があって、私たち大阪精神医療人権センターが病院へ面会に伺います。

しかし、面会活動でもできることとできないことがあります。医師やPSWの役割を説明すること、社会資源の説明、弁護士会で行う支援を紹介したりします。大切なことは「入院中の方に権利を伝える」ということです。例えば、パンフレットを利用して様々な権利をお知らせします。

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退院に反対する家族の説得や退院先の調整のような病院スタッフのやる仕事の下請けにつながるようなことはできませんし、退院の可否の判断は、私たちのすることではありません。
また、面会で聞いた内容について本人の同意なく医師や病院スタッフに伝えることはいたしません。
面会を繰り返すことで、本人のあきらめていた思いが行動につながることがあります。
本人が病院スタッフに希望を言葉で伝えることで思いが実現することもありますし、本人の同意を得て医師やスタッフにつなぐこともあります。退院の希望の他には、処遇が改善される場合もあります。

ボランティアとして活動するには

ボランティア講座の受講と登録をした後、活動に参加することになります。実際に個別相談ボランティアとして病院に面会に行く場合、いきなり単独で入院している方に面会に行く訳ではありません。面会はベテランボランティアとペアで行います。
そのため、事務局と日程調整を行い、活動日が決定します。当日は最寄り駅や病院で待ち合わせし、病棟へお伺いした後は、記録を書いて事務局に提出します。

具体的に話をきくこと

お話を伺う時、対面で会話をすると、緊張感が高まってしまい、ネガティブなことがあると対立構造になってしまいます。絶対ではありませんが、真正面で向き合わないほうがよいことが多いようです。
長く話を聞き続けるより、次の訪問につなげるため、1時間程度の面接にします。
感情は態度にでます。聞こうとする態度に見えても「早く終わってほしい」という感情は伝わります。自分の感情や話を聴く時の「癖」に気がつくことが大切です。非言語的なコミュニケーションはとても大切です。優しく聞いてくれたか、イライラして聞いたかなど、雰囲気はすぐに伝わります。
共感をもって話をききましょうと言われることがありますが、共感とは話の状況分析ではなく「気持ち」に焦点をあてることかもしれません。幻聴や妄想など、相手にとっての事実を大切にします。「否定も肯定もしないこと」と言われることもありますが、それは無関心と同じことなので要注意です。

面会活動の注意点

価値観を押し付けることはやめましょう。「先生の言う通りに薬を飲んだ方がよいですよ」「薬漬けは怖いですよ。薬に頼らない方がよいですよ」など、いいがちな方もいますが、薬については様々な価値感があります。その他、家族や退院など一般論を不用意に投げかけるのはとても要注意です。精神科病院の入院生活は極端な生活空間なので、一般常識は通用しない場面です。できない理由がたくさんあることを意識してください。
では、どういった話をしたらよいのでしょうか?
「ここの食事はどうですか?」は世間話としても簡単ですし、どれだけ日々に関心を向けてくれているかがわかります。入院状況を知るために、「先生はどんな方ですか?」「担当PSWはどなたですか?」などを話題にすることは重要です。「売店はどんなところ?」「タバコは吸えますか?」なども、病院の状況が見える質問です。

面会相談ボランティアではできない家族や退院先の調整、入院の可否などを聴くうちに、入院している人の問題にしてしまうこと、相手のせいにしてしまうことは避けなければいけません。相談ボランティアが話をうまく返せないので、話をきちんと聞かないまま「先生に相談したらどうですか?」と言ってしまうようなことです。ベテランの相談員と行きますので、ひとりで背負うことはありません。一緒にその場で考えるとよいかもしれません。

本記事で紹介している動画(Eラーニング)、リーフレット、冊子は日本財団助成事業の一環で作成しました。

認定NPO法人大阪精神医療人権センターの活動は、みなさまのご支援によって支えられています。 サポートは精神科病院に入院中の方の権利擁護活動のために有効に活用させて頂きます。例えば2000円で面会ボランティア1名を派遣することができます。