見出し画像

ゾウがいなくなった

このところ、職場であいつを見かけない。
知らぬ間にどこに行ったのだろう。
そう思い始めて数週間が経っていた。

我が家のお隣は叔母のデザイン事務所で、私も仕事場としてそこのデスクを間借りしている。
部屋の隅にある椅子の上でいつも寝ていたゾウのクッションがコツゼンと消え、長らく行方不明だったのだ。

「だった」というのは、今しがた私が発見したから過去形になったわけなのだけれど、結論から言うと奴はどこにも行っていなかったのだ。

そう、どこにも。
座布団代わりに椅子に乗せられた大きくて分厚い丸クッションの下敷きになって、文字通り伸びていた。(その間、存在に全く気付かぬままこの椅子には何度も座った。)

すまん・・・。犯人はたぶん私だ。
9月のはじめ急に寒くなった日、この椅子の上に乗せてあったブランケットを引いた時に大きなクッションが床に落ちた。慌てて椅子に乗せた記憶がある。
そのとき、きっと下敷きになったであろうゾウ。

それからずっと、静かにそこにいたらしい。

すまんかった。

長らくプレスされ続けたゾウは、少し薄くなってシワが増えているように見えた。
せめてもの償いに、これから毎日ポフポフと少しずつ綿を膨らませてみようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?