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庭の匂い

台風が来る来る、と言いながら、なかなかやってこない。
たまにザーッと雨が降り、でもそのあとはそよ風が吹いている。
そよ風の時間に外に出て、レモンバーベナを収穫し、ざるに並べた。上品なレモンの香りが部屋に満ちていく。
さて、このレモンバーベナが乾燥したら、ストックが溢れてしまう。友だちにお裾分けしたとしても、まだ余りそうだ。
考えた末、香草袋を作ることにした。

ハーブの棚を見回し、いくつか手に取る。
レモングラスとペパーミント。これらもたくさん採れすぎた。
ラベンダーの茎。これは、梅雨前に剪定したのを、もったいなくて刻んで保存してあったもの。
これらをミックスして使うことにした。どれも防虫効果のあるものばかりだ。

素麺の木箱の中に、ざあっと入れて、手でまぜる。
ふわあーっと、香りがひろがる。
レモンバーベナとレモングラスは、同じレモン系だが、貴族のお嬢様と自然の中で育った少女ぐらい、趣が違う。レモンバーベナがお嬢様、レモングラスが野の少女。
ペパーミントは潔い爽やかさの後で甘さが来る。ミント系の中で一番好きな香り。
ラベンダーは気品のある香り。花でなく葉を使うので、より薬草らしい香りがする。
いくつもの香りが混ざり合って広がり、私の作業机はいい匂いでいっぱいになった。
これを適当に掴んで、お茶パックに入れる。こうすれば、簡単に香草袋ができる。
はぎれを使って、袋がちょうど1個入るだけのバッグを作る。バッグの紐にハンガーを通せば、洋服の防虫と香りづけに活躍してくれるはず。
天気予報を聞きながらミシンを動かし、バッグを作った。久しぶりのミシンは楽しく、気がついたら夜が更けていた。できあがったたくさんの香草袋を、クローゼットのあちこちにしのばせ、眠りについた。

翌日。結局台風は来ず、弱い熱帯低気圧になって、通り過ぎていった。いつもどおりの青空。
自宅待機が解けたので、今日は出勤だ。
可燃ごみを積んで、車を発進させる。いつもは集積所へ行く間、わずかにごみの匂いがする。ところが今日は、ごみの匂いをかき消してしまうぐらい、車じゅうから爽やかな草の匂いがして、驚いた。
大雨で浸水してはいけないので、車を車庫から引き上げ、今日まで庭に置いていた。庭の下草の匂いが車に移ったのだ。

ごみを捨てて車に戻る。草の匂いの溢れる中で、私の服から、昨日仕込んだ香草袋の匂いが広がる。レモンバーベナ、レモングラス、ペパーミント、ラベンダー。
車を発進させる。透き通った青空に日光が輝く。キラキラまぶしい農道を、私の車は進む。
刈り入れの済んだ田んぼや、あぜ道に揺れる緑の雑草や、車の外もきっと、いろんな匂いが溢れていることだろう。


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みんなのフォトギャラリーから、しんきろうさんの「のどか」という題名のイラストを使用させていただきました。しんきろうさん、すてきなイラストをありがとうございました。


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