見出し画像

【第十九回】ちょっと小腹がすいたんで。

千駄ヶ谷/ホープ軒

午前二時。
魔の時間帯だ。

腹が減る。

そして一番問題なのは、行く宛があるということ。
半分の意識を既に行く先に据えて。
後は車を走らせるだけだ。

神宮外苑。
新国立競技場の建設地のそばだ。
タクシーとトラックしか走らない閑散とした明治通りを行く。

深夜のドライブは頭の整理にはもってこいだ。
目の当たりにした嫌なこと、良かったこと、どうにもならないこと。
そんな頭では整理がついていないことを運転に集中しながらぼんやりと考えているとそれだけで頭が整然とする。

その先に待つカロリーという罪。
ビクター・スタジオ横の千駄ヶ谷トンネルを抜け左折すると急に現れる蛍光色。

麻布からもそばだ。
遥か昔に流行ったクラブ遊び。
その帰りにたどり着く派手目なモノリス。

そうここは、千駄ヶ谷トンネルを抜け先にある異次元。
別世界なのだ。
この場所に踏み入れしモノ、後戻りは出来ず。

夜中の象徴。
夜の鷹か。
不死鳥の羽か。

二十四時間。
今日び、二十四時間やってるコンビニエンス・ストアやファミリー・レストランも減少傾向にある。
そんな中のラーメン二十四時間営業。

夜に生きてきたモノが通る蛇の道。
蛇の道は蛇に任せろ。
餅は餅屋に。

気休めとばかりにジャスミン・ティーが置いてあるアルミの立ち食いカウンター。
実に健康的だ。

おおよそ朝には似つかわしくない赤と白。
そんなモノをぼんやり眺める午前三時。

チャーシューメン
¥1,000

こってりとした背脂を擁する丼にボリューミーなチャーシューへ目が行くが━━━━
むしろこいつが本体。
真夜中のサラダバーだ。

こうですね、分かりますよね。

そう、ネギが取り放題なのだ。
これだけで精神力が湧き上がるのは何故だろう。

こってりとした豚骨スープに絡めるだけで幸せなひと時になるのは何故だろう。

このラーメン二郎も顔負けな太麺を夜中、腹にカマす。
下手すればアルコールが並々と腹に充填されているかも知れない。

これを一気にすする。
暖かい。
これが冬ならもっと良い。
鼻をすすりながら一気に行く。
時折、一団が店内に入ってくる。
団体さんは二階のテーブルに通される。
タクシーのドライバーも入ってくる。
慣れた様子で顔をおしぼりで拭う。
真夜中に与えられた焚き火のようなもんだ。

後先なんか考えても無駄だ。
厚切りのチャーシューと背脂を前にしたら思考は停止する。
ただ、一心不乱にすする。

それにしても店を回す店員さんたちの清潔なことよ。
そして店内もピカピカで、いつもキレイに磨かれている。
これを何十年、二十四時間年中無休を守り続けて来ているのだろう。
ラーメン屋さんは、特に夜中ともなるとちょこっと考えただけでも少しガラが良くないイメージが付き纏う筈だが。
ここホープ軒はそんなことを微塵も感じさせない。

真夜中のオアシスなのだ。ホープ軒本舗吉祥寺本店から大塚、阿佐ヶ谷へ枝分かれし、そこから千駄ヶ谷ホープ軒、村山ホープ軒 、東大和村山ホープ軒に派生。
千駄ヶ谷から派生したのが弁慶、香月、土佐っ子、古川橋ホープ軒。
香月から派生した涌井。
涌井からえるびすへ。残念ながら環七の象徴であった東高円寺ホープ軒は畳んでしまったが……
しかし、ホープ軒系は奥深く興味が尽きないな……

一度でいいから電車が終わった時間帯。
午前三時にここでラーメンを食ってみると良い。
得も言われぬ美味さが待っている。
やはり食い物はロケーションも味に加味されるモノで。
さて、異次元から出るとしよう。

24時間営業

年中無休

座席数

1F立ち食い 20名
2F・3F カウンター席 20名×2

備考

車はちゃんとパーキングに停めようではないか。
それ以外はいつ行っても美味いラーメンが食える。