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お彼岸法話「境目のない世界」

 烏城(うじょう)とも呼ばれる岡山城は安土桃山文化の傑作ともいえる豪華な城です。豊臣秀吉から可愛がられた宇喜多秀家の城です。しかし、この岡山城、他のお城にはない変わった特徴があるそうです。
 通常、城である本丸は城郭都市の真ん中にあるのですが、この城は東の端にあります。そして、城から西にかけては、何重にも堀がしてあったそうですが、東側には何もなくて、昔はそこまで誰でも来ることができたのだそうです。なぜでしょうか?

 歴史学者の磯田道史氏は言われます。実は当時、城主の宇喜多秀家はこの城を、西側にいる安芸の毛利家との戦のために建てたのです。もし戦になれば敵は必ず西からやってくる。ですから幾重にも堀を巡らします。「東には堀などいらない。もしも毛利家が攻めてきたら太閤様が必ずや東の大阪から大勢の援軍を率いて駆けつけてくれる」という秀家の思いが形になったものだと、磯田さんはおっしゃいました。

 私たちは誰しも「自分」と「他人」とを線引きして生きています。他人もまた「都合のいい人」「都合の悪い人」と線引きします。
「我他彼此(がたぴし)」とは建付けが悪く、障子などがすっと開かないという意味ですが、実は仏教用語で、人間関係に軋轢が生じ、自分も他人も傷つき傷つけていく世界のことをいいます。まさに、線引きをしてしまう私たちが住むこの娑婆世界(此岸)のことです。

 対して彼岸とは、阿弥陀様の建立された西方浄土のことをいいます。
 お浄土は、自分と他人との境目がありません。ですから、相手の喜びや悲しみを我がことと見ることができる世界です。
 私たちは生きている限り線引きをし続けてしまいます。だから苦しみ悩むのです。しかしお浄土の阿弥陀様は、そのような苦悩の私たちにこそ、間に一切の線を引かず、そのまま抱き取ってくださるのです。
 境目のない仏様の世界を聞かせていただくことは、この苦悩の人生を空しく過ごさないためにも、とても大切なことです。これからもご一緒に仏様のお話を聞かせていただきましょう。

烏城


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