7-1. 夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。

 夏休みに入り、生徒が行き来しなくなった囲町学園は、とてもひっそりとしていた。待ち合わせまで時間もあるので、学校のまわりをぐるっとまわってみる。

 元々、あまり活発ではない運動部の貴重な夏季練習も終わったのか、グラウンドに人の気配がない。運動部よりもやる気のない文化部については言うまでもなく、午後の日射しを照り返す校舎の窓ガラスの向こうに誰かがいる様子はなかった。たぶん、今、学園内にいるのは警備員ぐらいだろう。

 南側にある校門の手前まで歩くと、貴重な日陰に入って、みんなを待った。なにかあったときに言い訳ができるよう、制服を着ているので不審者扱いされることはないはずだ。手さげバッグに入っているターボライターが見つからなければ。

「それにしても、ヒロムのヤツ、こんなものをなにに使う気だ?」

 ライター、冷却スプレー、いろいろなサイズのマイナスドライバー、ビニールテープ。俺の手さげバッグの中には、百円ショップで買ってきた道具が無造作に転がっている。どれもヒロムに指定されたものだが、道具の使い道については教えてもらえなかった。バッグの中に手を入れて、ごそごそ確認していると背後で物音がしたので、あわてて振り返る。目の前に突き出されたデイパックの上面。わきからジュンペーが、俺のバッグをのぞきこんでいた。

「ひと声かけろよな!」

「僕が頼まれたものと比べると、ずいぶんと手に入れやすそうな感じがするのです」

 ジュンペーは俺の言葉を聞き流すと、自分のデイパックを背中から下ろした。どさっという音がコンクリートの床に響く。どれだけ物が入ってるんだよ、これ。

「まず、糸ノコの歯が六種類なのです。そして六角レンチが八種類に金やすり……」

「日曜大工の道具ばかりだな」

 ジュンペーがデイパックから、さっと物を取りだしてはしまうのを見ながら、俺はつぶやいた。

「……そして最後に、ボルトカッターなのです」

「な、なんだ、そりゃ?」

 ジュンペーは両手で、六〇センチほどの大きさの巨大なペンチのようなものを持ち上げた。圧倒的な鉄のかたまり感。赤と黄色に塗られた柄の先についている刃は、指ぐらいは余裕で切断しそうだ。

「どれもホームセンターでそろう物なのですが、高校生が普通に持ち歩くものでもないのです」

 たしかに、これほど制服と似合わない工具もない。誰かに見られたら、あらぬ疑いをかけられることは確実だ。だが、そんな俺の心配をよそに、ジュンペーは頭の上にボルトカッターを振りあげた。

「ちょ、ちょっと待て!」

 あわててジュンペーの腕をつかむと、ゆっくりと刃先を押し下げた。

「こ、ここでそれを振り回すのはダメだろ!」

「え? あ……でも……」

 ボルトカッターの柄を握ったままジュンペーは、あごを軽く動かして俺の後ろを指し示した。

「おまえら、なにバカなことやってんだ?」

「なんか昔のスプラッター映画の殺人鬼で、あんな感じのヤツがいたのだよ」

 背中ごしにヒロムとトシの声。ふたりの気配に全然気づかなかった。

「ボルトカッターなんて振り回していたら、これから自転車を盗みますとか、チェーンで閉じられた扉を開けますと宣言しているみたいなものなのだよ。さすがに目立ちすぎではないかね」

 トシがくくっと笑いながら、ジュンペーの手からボルトカッターを取り上げた。

「ボ、ボルトカッターって、そんなことに使う道具だったのですか? ヒロムくんは、いざというときに必要になる切り札だとしか教えてくれなかったのですが」

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