7-2.「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」

「別に悪ぃことに使うための道具じゃねえよ。悪ぃことにも使えるってだけで」

 トシの手から受け取ったボルトカッターをジュンペーのデイパックにしまいながらヒロムが言う。まあ、今の俺たちの状況から考えれば、良いことに使われる可能性は低いと思うが。

「んなことよりトシ、ここは大丈夫なんだろうな?」ヒロムが不意に声を押し殺す。

「大丈夫に決まっているのだ。校門の外側はギリギリ監視カメラの死角。もっとも今、イチが立っている場所から二メートルも校門側へ寄れば、ばっちり映ってしまうのだがね」

 そう言われて思わず校門から道路側に一歩、俺は立ち位置を動かす。

「これから全員にこの学園の見取り図を送るのだよ。手に入れるのには苦労をしたのだぞ」

 トシは自慢げに胸を張ると、ノートPCを取り出してキーボードを叩いた。ほぼ同時に三人のスマホが振動して、トシからのデータを受信したことを告げる。

「ポイントは監視カメラの位置。自分のすばらしい解析から、死角も割り出してあるのだよ」

「すばらしいかどうかは知らねぇが、イチもジュンペーも監視カメラの位置は頭に叩きこんどけ」

「……カメラに映ってしまったら、やっぱりいろいろと問題になるのです?」

「マップの構造の把握はFPSの基本なのだよ。おろそかにするものは死ぬのだ、ジュンペー」

「死ぬわけねえだろ、バカ。つっても閉鎖されている学園に入るんだ。停学ぐらいは覚悟しとけ」

 ジュンペーがポカンと口を開けたまま、固まった。ヒロムとトシは、そんなジュンペーにかまうことなく校門を離れると、校舎を取り囲むフェンスに沿って側に歩き始めた。俺はジュンペーの肩をぽんと叩くと、小走りで前を行くふたりのあとを追いかける。

 校門の前を走る道路から路地に入ると、ときおり通っていた人や自転車も見かけなくなる。そうして学園を四分の一周ほどまわったところで、ヒロムとトシは足を止めてフェンスを見上げた。ここがフェンス沿いに数ある防犯カメラの死角の中でも、特に人目につきにくい場所なのだろう。

 ヒロムは俺とジュンペーの方をちらっと見ると、フェンスをあごでしゃくった。

「壁を越えたら二手に分かれて、校舎沿いに西と東から入りやすそうな窓を探す。東から回るのは俺とジュンペー。トシとイチは西側を頼む」

「校門と玄関のある南側は一番、厳重なのだよ。入りやすい窓もないと思うのだ」

「あのさ、入りやすそうな窓って、なんだよ?」

 雰囲気に押されて、気持ち小さめの声でつっこんだ俺に、ヒロムはそんなことも知らないのか、という顔をした。いや、普通は知らないだろ。俺は小さく顔を振る。

「ガラスで言えば、おまえの家にもあるような普通のガラスや網の入ったガラスあたりは、まあ入りやすい。逆に二枚のガラスを貼り合わせたみたいなやつはめんどくせえ」

 ヒロムは、俺とジュンペーの顔を交互に見ながら説明を続ける。

「なによりも注意して見てほしいのは、窓のカギだ。家の窓なんかに使われているクレセント錠、つまり一方の窓についているフックにカギを回転させて締めるタイプのやつは、基本入りやすい。カギの締まりがゆるけりゃ、窓枠を持って上下にゆさぶるだけで開けられる」

「そんなゆるい構造のカギ、最近は使われなくなっているのだよ。もっとも、学校というのはあまり設備を新しくしないのだね。特に窓枠などは」

「できりゃ穏便に済ませたいからな。だから、まずはそういった入りやすそうな窓を探すんだ」

「もし入りやすそうな窓がなかったら、どうするのです?」

 今度はジュンペーのつっこみ。たしかに窓枠をゆさぶるだけで校舎内に侵入できるほど、学園のセキュリティが甘いとは思えない。というか、そんな方法で侵入できる可能性の方が低い。

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