6-12.「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」

「日本国内の有料サーバーでは、すぐ足がついてしまうのだよ」

 過去に痛い目にあったのだろうか。トシの言葉には、変な実感がこもっていた。

「分散処理をするにしても、個人ベースのサーバーでは無理なのだ。せめて大学レベルの――」

 トシの言葉に頭をぶん殴られたような気がした。あるじゃないか。すぐ近くに。

「俺たちの学園にも、たしかスゴいサーバーあったよな」考えが思わず口をついて出る。

「サーバーに対して、なにを基準にスゴいと評価するかはともかく、三〇万人規模で使える無駄に設置面積と保守運用に金のかかるヤツなら……って、まさかなのだよ?」

 トシが口を半開きにしたまま、言葉を失った。ヒロムとジュンペーが、俺の顔をのぞき込む。

「このあたりで一番、大規模で、しかもセキュリティの甘いサーバーがあるのは、ウチの学園だ」

 明後日、学園を調べてみることにして、俺たちはファミレスを出た。夏休み中で誰もいないとは言え、学校に侵入するのだ。それなりの準備はしようというのが、みんなの意見だった。外は夕方とは思えないほど日射しが強く、アスファルトの照り返しが目に痛かった。

 不安がないと言えば、ウソになる。いまだにわかっていないことも多い。

 ただ、ユウシのあとを追うことこそが、その不安に立ち向かうことになると、信じていた。たとえそれが、見えないものを暴き、見たくないものを見ることになるとしても。

 二日後の火曜日、俺は昼過ぎに目覚めた。半分、眠ったような状態でスマホを手に取り、ニュースアプリを立ち上げる。ユウシの事故があってから、地域レベルの小さなニュースが気になるようになった。電車の遅延だったり、交通事故だったり、空き巣だったり、ボヤ騒ぎだったり。疑う気になれば、どんな事件もアルミが絡んでいてもおかしくない。そう思えてしまうのは俺がアルミに毒されているからだろうか。

 みんなとの待ち合わせは、午後三時に学園の校門前にした。俺の準備は、もっぱらヒロムやトシに言われたものをジュンペーと手分けして買って行くだけだったので、時間には余裕がある。

 のろのろとベッドから出て居間に下りる。父親も母親もとっくに仕事に出ており、テーブルの上には母親からのメモと一緒に昼食代の五〇〇円玉が置かれていた。なんとなくテレビをつけてみたけれど、ドラマの再放送と芸能情報の映像がどうにも現実味がなくて、結局すぐに家を出た。

 ――昨日、読んだユウシのメールを思い返す。

“深淵もまた等しくおまえを見返すのだ”

 今、この瞬間にも誰かに俺の行動は見張られているのかもしれない。だからといって、家でおとなしくしている気にはなれなかった。

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