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僕の三日坊主が治った理由

重度の三日坊主だった。
今まで新しいことに手を出しては、すぐに挫折してきた。続かない。

社会に出たばかりの頃、とある起業家が朝5時に起きてジョギングするとアイディアが浮かぶという記事を見て、朝から走ることにした。
早起きして走ってみた結果、アイディアは何も浮かばず、職場のデスクで寝るようになって、すぐやめた。

少し尊敬していた知人が映画を365日欠かさず観る、という話に触発されたときは、TSUTAYAの郵送レンタルで毎週7本映画が届くように手配し、一心不乱に観た。
しかし途中でペースが追いつかなくなってきて、「まだ先週の分を見終わっていないのに映画送ってくんなよ!」と逆ギレして、怒りの解約をした。

ブログに文章を書くと、お金を稼いだり雑誌からオファーがきたりすることもあると知って、高校生くらいの頃から何度がトライしてみた。
その結果、2,3回で更新が止まった僕のブログはネット上に量産されている。

外資系の有名な会社に入った大学時代の先輩から、
「本屋に行けば、有名人が何をすれば成功したか、その型がたくさん置いてあるじゃん。それを真似すれば良いんだよ。簡単だぜ、俺みたいになれるよ。」
と言われたことがある。
別にお前みたいにはなりたくないと内心毒づきながら、真似しようとしても都度挫折する自分は、先輩みたいに世間一般で優秀と言われる人にはなれないのだろうなと思ったのを覚えている。
そんなエピソードもあってか、新しいことに手を出すのは、最近は極力やめていた。

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ただ、今年に入ってから4つも新しいことを始めた。
どれも今のところ、毎日続いているのである。もう1ヶ月近くも。

1つ。朝、起きたらすぐに白湯を飲む。
寒がりながらリビングに降りて、電気ケトルでお湯を沸かす。
マグカップでゆっくりと飲んで、余った分は水筒に入れている。

2つ。朝、新聞をじっくりと読む。
白湯を飲みながら時間をかけて、なるべく読み飛ばさないように、読む。
今までは、一度も開かずに捨てた新聞がたくさんあった。

3つ。朝、散歩に行く。
徒歩0秒の職場で仕事を始める前、奥さんと散歩に出かける。
近所の神社で手を合わせてから、鴨が泳いでいるのを横目に川沿いを進み、庚申塔でも手を合わせてから家に帰る。

4つ。夜、瞑想する。
夜寝る前、5分だけ何も考えない時間を作る。
スマホも本も閉じて、ネイチャーサウンドをかけて、音と自分の呼吸に集中する。

どれもはじめたのは、新年になって気持ちを切り替えようと思ったのがきっかけだ。

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去年は慣れないテレワークが始まったり、長時間労働や徹夜作業が続いたりで、生活のバランスが著しく悪い一年だった。
蕁麻疹が頻繁に出て、イライラすることも増えた。
環境を変えて心機一転するために、去年の11月くらいに今の会社を辞めようと思って、転職活動をした。
だけど、なんとなく今のキャリアなら次はここかなと面接を受けた会社はどれもピンとこなくて、オンライン下で新しく人間関係を始めることも億劫だなと思って途中でやめてしまった。

しばらくは、今の環境下で今の仕事を続けることになる。
仕事始めの1月5日。
去年のことを忘れて心機一転しようと少し早起きした僕がなんとなくやってみたのが、お湯を沸かして飲むことだった。

仕事のことで頭がいっぱい。起きたらすぐに意味があることをやらないといけない気がして焦ってパソコンを開いていたけれど、そんなに効率は上がっていないし、長時間働いている分、脱線してしまうことも多かったのを自覚していた。とりあえず一息付こうと思ってお湯が沸くのを待っていると、なんとなく落ち着いてきた。

お湯を飲みながらぼーっとしていると、少し手持ち無沙汰になった。
ポストに朝刊を取りに行って試しに広げてみると、不思議と今までより内容が頭にすっと入ってくる。
仕事に関わるページを広げて終わりではなく、全体を眺めてみると世の中で起きていることが、少しだけわかった気がした。

新聞を読み終えても、まだ時間がある。
正月明けで身体も鈍っているのが気になっていたから、家の周りを歩いてみた。近所にある小さな神社でなんとなく手を合わせてみると気が引き締まって、川沿いを歩いてみるととても気持ちが良い。
家に着いた時には、スッキリとした気分になっていた。

仕事に没頭して早くに終業できたから、夜は映画や読書でゆっくりと過ごすことができた。
寝る前、どこかの国では国策として推奨されている、瞑想をしてみた。
自然の音に耳をすませながら、思い切り深呼吸をする。
不思議と気持ちが落ち着いて、ぐっすりと眠ることができた。
そして、次の日も、また次の日も、僕は同じことを繰り返した。

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極度の面倒臭がり屋でもあるので、一見すぐにサボってしまいそうなことがどれも続いていることに、我ながら驚きを感じる。
ただ、今年はじめたことは、今までのそれとはちょっと違うことはわかる。

過去は、自分も何かになれるのかもしれない、少しだけそう信じて目一杯遠くを見て、何かに手を出していた。結局、その姿は遠すぎて、あるのかもわからなくて諦めてしまった。
今回は、今ここにいる自分のことを見つめている。

冷えてしまった身体を温めるように白湯を飲み、
世の中のことを少しでもたくさん知るために新聞を読み、
通勤がなくなった身体を健康に保つために外を歩き、
四六時中情報まみれで疲れた頭を休ませる。

不思議と今の生活をはじめてから余裕ができると、去年心に渦巻いていた僻みや妬みは吹っ切れていた。仕事では新しいプロジェクトに入ることになり、本をじっくり読むようなプライベートな時間も生まれてきた。

そして最近、荻窪の書店「Title」の店主である辻山良雄さんの「本屋、はじめました 増補版」を読んだ。
内容は特に本屋をやろうと思っていなくても、とにかく面白かった。
辻山さんがとても魅力的で自然体で、本屋をはじめるまでのストーリーが(はじめてからも)まるで導かれるようだなと思っていると、解説で若松英輔さんがこう書いていた。

作者は、無理をしない。それは寝る時間を惜しんで働いたりしない、ということではない。どこまでも自分であることから離れない。

本を読んで感じていたことだけでなく、今の生活の気持ちよさまでもが、腑に落ちた。
今まで三日坊主に終わってしまっていたことも、頭の中に常にあった将来に向けた漠然とした不安も、全てが繋がっていた。
転職活動で出会った30代の面接官が笑いながら言った「20代はそうやって無理しようとして悩むんだよ。わかるわかる。」という発言も、そういうことだったのか。

まずは、自分のかかとを地面にしっかりとつけて歩くことからはじめないと。掴むことのできない未来に向けて、無茶な目標を立てるのではなく、ここにいる自分から離れないようにしよう。
さっき白湯を飲み終えた僕は、今日もこれから散歩に出かける。

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彩り / Mr.Children

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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