日経 経済教室「民主主義の未来(下)」 参考文献
2021年8月20日(金)づけの『日本経済新聞』に、「男女均衡参加、再生への鍵 民主主義の未来」を寄稿しました。
拙稿は、「経済教室」の連載「民主主義の未来」の(下)になります。
沢山の方にお読みいただき、コメント頂戴しましてありがとうございました。
こちらのノートで、参考文献をご紹介いたします(登場順、8月末日まで公開予定)。
女性比率増は政府予算配分の優先順位を変えるーインド農村の実証研究から
R. Chattopadhyay and E. Duflo "Women as Policy Makers: Evidence from a Randomized Policy Experiment in India" Econometrica 2004, Vol. 72, No. 5, 1409–1443
女性議員比率増は論点の多様化をもたらす―フランス上下院の実証研究から
Q. Lippmann "Gender and Lawmaking in Times of Quotas" R&R at Journal of Public Economics
2018年3月8日付けのル・モンド誌が、この論文を取り上げていました (フランス語)。
Egalité femmes-hommes : « La parité comble des lacunes en termes de politiques publiques »
政治における男女均衡と経済成長―インドの実証研究から
Thushyanthan Baskaran, Sonia Bhalotra, Brian Min and Yogesh Uppal ”Women Legislators and Economic Performance” 2018, IZA working paper series (revised in 2020)
こちらの論文は、著者によると現在査読審査中とのことです(経済学は査読プロセスに時間がかかることで知られています)。
そのため、経済教室の原稿執筆にあたっては、原稿執筆時点で手に入る最新版の原稿のほか、この研究が討論されたワークショップの記録(2019年9月4日づけBrookings India (当時)のレポート)を参照し、論文のどのあたりが争点になっているかを確認しました。
ジッパー方式クオータ制がもたらした意外な効果―スウェーデンの実証研究から
T. Besley, O. Folke, T. Persson, and J. Rickne "Gender Quotas and the Crisis of the Mediocre Man: Theory and Evidence from Sweden" American Economic Review 2017, 107(8): 2204–2242
こちらの論文へのお問い合わせを多くいただきました。
実はこちら、日本評論社『経済セミナー』の2020年10・11月号海外論文SURVEYにて、日本語解説を書かせていただいております。経済教室では紙幅の関係で触れられなかった、研究デザインの詳細や、スウェーデンの行政データ事情などについて解説しております。
さらに、経済セミナー編集部の方が、「経済教室」に拙稿が掲載されたその日に、Noteで紹介文を書いてくださいました。有難うございました。
海外論文SURVEYシリーズは、先日記念すべき第100回目を迎えたばかり。最先端の注目論文を若手がご紹介するシリーズです。私もこのシリーズを通じて、いつも他分野について勉強させていただいております。ぜひご覧ください。
女性の政治参加をラジオ番組が後押し―75年前の衆院選の実証分析から
Okuyama "Empowering Women Through Radio: Evidence from Occupied Japan" May 2021, mimeo
こちらは私自身の博士論文の一章です。2021年3月21日付け『東洋経済』にてご紹介する機会をいただきました。
掲載に先立って、Zoomで経済学というシリーズで講演させていただいたこともありました。その時のQ&Aの様子を再公開いたします。
こちらの論文、2021年8月時点で査読審査中です。最新版の論文は、これまでの学会発表でいただいたコメント・批判に、データが存在する限り、お答えしたバージョンになっております。
補遺:経済成長だけが全てではないのでは?という問いについて考える
拙稿で、政治における男女均衡と経済成長の実証研究(Thushyanthan Baskaran, Sonia Bhalotra, Brian Min and Yogesh Uppal (2020) )をとりあげたからでしょうか、以下のようなご質問をいただきました:
「仮に、政治におけるジェンダー均衡が経済成長に結びつかなかったとしたら、ジェンダー均衡は目指さなくてよい、ということか?」「経済成長だけが全てではないのではないか?」「経済成長するしないにかかわらず、政策決定の場に、多様な人が参加する事そのものに価値があるのではないか?」「経済学者は結局、経済成長のことしか頭にないのか?」
結論から申し上げると、経済成長だけが全て、とは私自身も考えておりません。
なぜなら、ある政策・制度が、別の政策・制度より望ましいかどうかを比べるには、おのおのの社会厚生(とても平たく言うと、豊かさ・満足度の包括的な尺度)を比べる必要があるからです。経済成長―経済全体のパイの大きさ―は、社会厚生を決めるひとつの要素と考えられますが、それが唯一の要素ではありません(たとえば、どうやってパイを切り分けるか、という問題がある)。
以上を踏まえた上で、拙稿の中では、ジェンダー均衡が、社会厚生の背後にある一要素としての経済成長につながった、という実証研究結果を、社会厚生を上げ得る兆候として「前向きな研究結果」と表現しました。
もちろん、実際には、本当に社会厚生があがったのかを実証する必要があります。このあたりは、まだまだ研究発展の余地があると考えております。(そしてもちろん、社会厚生とはそもそも何であり、どのように測るのか、という議論に立ち返る必要もあります。「多様な人が参加する事そのものの価値」もまた、私たちの豊かさの尺度に入ってくるものと考えられます)。
なお、(議員のジェンダー均衡に限らず)広い意味での女性のエンパワーメントと、経済成長の関係性については、エステル・デュフロMIT教授が、展望論文を書かれています。規範的な問題についても少し触れられていますね(2012年に書かれたものですので、直近の研究はカバーされていませんが、この分野を学ぶには欠かせない展望論文です)。
Duflo, Esther. 2012. "Women Empowerment and Economic Development." Journal of Economic Literature, 50 (4): 1051-79.
以上、ご活用いただけますと幸いです。