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習慣をデザインする

#PdMノウハウの第6回目のnoteです。第5回目のnoteは「WWDC 2020で話題、App Clipsとは何か」でした。もし良ければ読んでいただけたら嬉しいです。今日は、日常的に使われるプロダクトを創るためにはどうすればいいのか、日々考えていることを言語化したいと思います。これは個人的な見解であり、実戦で必ず使えるというものではありません。最初にご容赦いただき、少しでも役立てられたらと思います。

習慣化は難しい

直近で、新しく日常的に使い始めたプロダクトはありますか。毎日、訪れるプロダクトは何個あるでしょうか。日常的に使われるプロダクトを創ることは本当に難しいです。歯磨きをする、コンタクトをつける、お風呂に入る、ありふれた日常の中で習慣に溶け込んだ行動において使われるプロダクトは必然的に存在しています。しかしながら、日々の中で使わなくても生きていけるものは多くあり、それらはデザインされ習慣の中に落とし込まれています。

習慣をデザインし、自分のプロダクトをより多くの人に日々使ってもらいたいと頭が千切れるまで考え尽くしているプロダクトマネージャー (PdM) の中は多いと思います。僕もその一人です。これだ!という方法があるならば、何としてでもすがりたい思いではありますが、いくら理論があっていたとしても、そう簡単には上手くいかないことが多いと思います。

フックモデル

フックモデルとは、2014年5月に刊行された「Hooked ハマるしかけ」で話題になった、ユーザーにプロダクトを習慣的に使用させるための理論です。下記の図で表現されます。

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この図にあるように、ユーザーはTrigger、Action、Variable Reward、Investmentをグルグル回ることで、プロダクトを習慣的に利用するようになります。言葉で説明すると、ユーザーは何かきっかけ (Trigger) があり、プロダクトに触れて何かしらの行動 (Action) を起こし、報酬 (Variable Reaward) を手にします。報酬を得た後に、さらにプロダクトを自分用にするために何かしらの投資 (Investment) を行います。その投資によって、きっかけが強くなりフックモデルが強固になっていくのです。

これをTwitterを例に考えてみます。Twitterには読み手と書き手が存在すると思いますが、今回は読み手にフォーカスしてみます。フックモデルの仕組みは書き手にも存在するため、さらに複雑に絡み合っています。

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Twitterのユーザーは登録後にオンボーディングの中で何人かをフォローして、自分のカスタマイズされたフィードを見て、面白いツイートを見つけます。もっと他の人のツイートを見てみたいと思い、新しいユーザーをフォローします。しかしながら、これだけでは暇な時に時間を消費するたのプロダクトとしてはまだ機能しないでしょう。ここで大事になってくるのが、Triggerの外部的な要因です。外部的な要因によって、Twitterをみてみたいと思うきっかけとなり、同様の循環を辿ります。そうすると次第に、内部的な要因においてもTwitterを想起するようになり、習慣化していくわけです。習慣化の結果として、僕のように朝起きたらとりあえずTwitterを確認するという無思考でもプロダクトを訪れるようになります。

これはわかり易い一例にすぎません。グローバルでヒットするプロダクトには必ずフックモデルに当てはめることができる仕組みが存在します。日本のプロダクトにおいても言えると思います。自分のプロダクトでフックモデルを考えてみて、不足しているであろう部分があれば習慣化させるには工夫が必要だと思います。

ここから込み入った話になりますので、もし時間がある方はお読みください。

Twitterは2018年12月頃に、自分のフィードを「トップツイート」 (自分に関心があるであろうツイートが表示される) と「最新のツイート」を切り替えることができる機能が公開されました。この機能のインパクトをフックモデルで説明してみます。Twitterのフックモデルにおける本質は、自分自信が自分のフィードをユーザーフォローを通してカスタマイズすることにあります。これはFacebookやInstagramなどの他のSNSにおいても言えることです。今までは自分のフィードをカスタマイズするためには、ユーザーをフォローしたり、ミュートしたりするなどの操作を必要としていました。また、フォードは基本的には時系列で流れていくフロー型のコンテンツであったために、良いツイートを見つけるためには長くスクロールする必要がありました。

「トップツイート」は自分がTwitter上で取った全ての行動を基にTwitterが自分用にフィードをカスタマイズしてくれます。つまり、Twitterで無意識的に行った全ての行動がそのままフックモデルにおける「投資」になるわけです。今までユーザーをフォローしたり、ミュートしたりしてフィードをカスタマイズしていたものが、ただ単にTwitter上で良いツイートを見つけて、詳細を確認したり、検索したり、ファボしたりしていることそのものが「投資」になることで、明示的な「投資」行為が大幅に省かれています。また、機械的にカスタマイズされた「トップツイート」は時系列ではないために、良いツイートが上に表示されることが多くなります。これは、ユーザーが今まで頑張ってスクロールしていた行為が大幅に削減されることに繋がります。つまり、良質なコンテンツに辿りつくためのフックモデルにおける「行動」が大幅に短縮されました。この結果として、フックモデルの回転スピードが爆速となり、ユーザーがプロダクトにハマるサイクルが加速したことに繋がります。

さらに複雑な話を展開します。

SNSマーケティングをフックモデルに当てはめて考えます。簡単なECを例に考えていきたいと思います。TwitterやInstagramで該当するユーザーをフォローしたとします。フォローした後の行動をフックモデルに当てはめます。

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ユーザーはSNSで見かけたという外部的な要因がきっかけとなり、フックモデルを回転し始めます。簡単に書いてしまったので、当たり前だと思われるかもしれないですが、このフックモデルにおける本質は「接触頻度」をいかに高めるかにあります。ユーザーはそう簡単には、自分のプロダクトを想起してくれません。そのため、これまでは様々な媒体に広告を出稿することでユーザーに接触を試みていました。これをただ単にSNSで表現しただけになりますが、SNSの性質上好かれてフォローされている限りは投稿コンテンツを通してずっとユーザーに接触できます。習慣化という観点では、印象に残るインパクトが強い表現よりも、いかに習慣の中でインプレッションさせていくかが重要になると考えています。一回一回の印象は小さくても、ユーザーの日常でグルグルフックモデルを回転させることで、ユーザーはプロダクトにハマっていくと思います。

そして超重要になるのは、SNS上だけで終わらせないことです。フックモデルにおけるSNSはただ単に外部要因に当たるので、ユーザーは日々多くの外部要因にさらされています。基本的には、常にユーザーは自分のフィードをカスタマイズしていくので、いつコンテンツが届かなくなってしまうかわかりません。その前に、内部的な要因を想起させるか、他の外部要因の幅を広げていくことにあります。前途の通り、内部要因においてユーザーに想起してもらうには相当な労力と期間が必要です。SNS以外で外部要因を広げていくのは、オーソドックスにはユーザー登録によりメルマガ配信やアプリをインストールしてもらうことでのプッシュ通知配信やユーザーのスマホの画面を少しでも占有することです。SNSだけに頼ってしまうことのリスクはフックモデルでも説明することができます。

小さくはじめる

自分のプロダクトにおいて、フックモデルを書き上げたとしてもすぐに実用していくのは難しいと思います。ただ単に思考のフレームワークであるため、僕なりの実践を書いておきます (これによって成功するとは限らないのが難しいところですが、、)。

まずフックモデルを回転させるコツは「小さくはじめる」ことです。これは言い換えれば、よく言われている熱狂的な1人のユーザーを作ろうということです。小さくはじめるとは、具体的には健全にフックモデルを1回転したユーザーを指標とすることです。Twitterを例にします。

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Twitterにおいて、2回目以降に起動したユーザーで新しくユーザーをフォローしたユーザーを健全にフックモデルを通ったユーザー (= 模範ユーザー) と定義します。このユーザーに何かしらの目印 (GAでセグメント化するか、SQLで表現するか独自にイベントを定義する) とします。この模範ユーザーが増えていくことが健全な成長をしていることを示していると考えることができます。図で示すと以下のようになります。

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模範ユーザーの数を常にwatchできるようにしておくことで、プロダクトが健全にグロースしているのかどうかの目印とすると良いと思います。最初の模範ユーザーを含むユーザー群が、模範ユーザーの増加も伴ってグロースしている場合は健全にグロースしているとします。一方で、ユーザーは増えているのに、模範ユーザーが増えていない場合は何かしらのハック思考に陥ってしまっていないか確認するようにすると良いと思います。これらの数値はおなじみの継続率 (リテンションレート) に表れてきますが、継続率は結果指標であるため、それ自体を追うことは難しいので、模範ユーザーを増やしていくにはどうすれば良いのかを考えることが良いと考えています。

模範ユーザーをどう定義するかが重要ですが、定量と定性、自分たちが信じることを駆使して決めていくとよいと思います。それが偏ってしまうと、間違った模範ユーザーを追うことになるので、気をつけた方が良いです。具体的には、まずは自分たちで自分たちのプロダクトが健全に使われた場合のユーザーフローを考えて仮説とします。その仮説が正しいかどうかを定量的に分析 (SQL書いたり) 、ユーザーインタビューを通した定性的な調査で明らかにしていくのです。

回して回して大きくする

グロースのための火種ができたら、フックモデルに燃料を投下していきます。もう気がついているかもしれないですが、フックモデルにおける「外部要因のTrigger」です。燃料無しにはフックモデルは回っていきません。Twitterにおけるフックモデルの赤枠で囲んだ部分です。

習慣化 (フックモデル)

お気づきだと思いますが、Twitterの場合は「バズる」って様々なメディアに取り上げられるなどの外部的な要因はプロダクトが成熟した後に起こっていることです。多くのtoCプロダクトは多額の資金調達を行い、大規模な広告投下によって外部要因を獲得しています。最近では、SNSやSEOに先行投資を行いフォロワーなどのオーガニックユーザーを獲得してから派生したマネタイズ用のプロダクトを開発するケースもあります。どのようにして外部要因を増加させていくかはプロダクトの相性によって異なり、頭を使う部分かと思います。上手く持続的なチャンネルを作れたプロダクトはフックモデルを徐々に徐々に回すことができ、プロダクトを習慣化させることができるのだと思います。

読んでいただき、ありがとうございました。少しでもお役に立てたら幸いです。



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