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ネタバレ有り・十三機兵防衛圏サウンドトラックからわかるゲーム音楽の意味論

こんにちは、クレスウェアの奥野賢太郎です。技術に寄ったり音楽に寄ったりと振れ幅の大きいこのブログですが、今回は、前にも紹介したゲームタイトル『十三機兵防衛圏』のオリジナル・サウンドトラックが発売されたため、そちらを紹介します。

今回はエンディング楽曲についても扱い、ストーリーの核心を記事中で触れます。ゲームクリアを前提としたサントラレビュー記事となることをご了承ください。

2015年から制作され続けた音楽たち


この動画は、2015年に掲載された十三機兵防衛圏のプロモーション映像です。本作が発売されたのは2019年11月ですので、実に4年以上前に作られたこの曲がM1-01『Brat Overflow』(作編曲: 崎元仁)です。(Mx-yyはディスクx枚目のyyトラック目を指します)

この曲が制作された時期とこれ以外の曲が制作された時期が、どれくらいの間隔であるかは知るよしもありませんが、ゲーム発売から4年前に制作された歌曲が、4年後にタイトル画面を飾るというのは、そのスパンの長さに驚きです。なお、動画でのアレンジと2019年のゲーム版のアレンジは若干異なります。

最初に聴いたときは、攻殻機動隊の菅野よう子氏をうっかり連想しましたが、独特の声質をされたコーラスにブレイクビーツ、アナログシンセ、ストリングスが絡む勢いのある曲となっています。PS4になってから毎回起動するよりスタンバイからの再開をすることが増えたため、なにげに聞く回数に少ない曲なのが惜しいところ。

ここから全83曲という膨大な楽曲群が収録されたサウンドトラックを紹介していきます。全曲紹介も試みましたが、曲によってはどのシーンで流れていたか特定が困難なものもあり、印象的な曲、印象的なシーンに絞っての紹介となることをご了承ください。

プロローグ順に収録される1, 2枚目

サウンドトラックはCD全4枚で構成されます。今どきCDが4枚というのはかなり珍しく、多くの場合1〜2枚にまとめられ残りの曲は没となることが多い昨今、とてもゲームサントラとしての心意気を感じました。最初の2枚はおおむねストーリー通りの収録となっているようで、追いやすいです。

M1-02 KAIJU(作編曲:東原一輝)

オープニング1発めの曲。「只今番組を中断し緊急速報をお伝えしています」というセリフが思わず脳内再生される、印象によく残っている曲です。

ネタバレを一切見ずにこのゲームを始めたとき、筆者にとってはまったく何が起こるかわかっていないので、とりあえず物騒なことが起こっているとよく伝わる曲でした。

M1-05 Sneaking Suspicions(作編曲:菊池幸範)

印象的なカラララーンという金属音で始まるこの曲。このイントロの音が効果音のようにも音楽の始まりのようにも機能しており、不安な事態、怪しい事態であると記号的にかなり印象の強い曲です。

劇中では序盤〜中盤にかけて度々流れていた印象ですが、生徒たちのガヤが響くBGMのない保健室で、鞍部がカルテを見つけてしまった瞬間にガヤが止んで曲が流れ出すシーンが一番強く覚えています。内心、巨乳保健の先生のテーマと呼んでいます。

M1−06 Impending Doom(作編曲:金田充弘)

カカカカッ…カカカカッ…という乾いた打楽器の音が印象深いこの曲。登場順ではこの位置で合っていますが、2025年の如月漂流や、東雲が事実に迫るときのシーンというイメージが強いです。

この曲が流れ出すと「今から話の核心に触れます」と先に予告されている印象を受けました。風呂敷を広げるのか畳むのか不安になってくる序盤、中盤では、この曲の再生がメリハリあったと感じます。

M1-07 Lonely Struggle(作編曲:渡邊里佳子)

ブオオオォォォで始まるこの曲。柴久太の「バカ、何やってんだ戻せ」のセリフが脳内再生されます。

プレイヤーは、まだこのゲームがどういうものなのか分かっていない頃なので「とりあえず物騒なことが起こります」という補佐的な役目を果たしています。機兵がよいものなのか、わるいものなのかすら分かっていない状態ですね。

実はNo.015「アクム」でも流れており、案外、機兵起動の曲というよりは426に対して充てられた曲なんじゃないかと思っています。

M1-10 LONER(作編曲:千葉梓)

かなりの頻度聞くことになる曲です。河原やヤンキーのイメージが強いですが、何より緒方稔二編の駅ホームで嫌というほど聞くので、稔二のテーマと呼んでいます。

「確かにあんたの…、言うとおりなんだけどさ」「また戻っちまった…」

M1-12 Between the Lines(作編曲:菊池幸範)
M1-15 Bad Omen(作編曲:金田充弘)

あやしい系といったらこの2曲。M1-12は廃工場、M1-15はMIBに関連するシーンでよく流れます。おなじ怪しさでも、ちょっと方向性が違うのがポイント。

本作全般に言えることですが、イントロを印象強めに制作する傾向にあるようで、M1-15も流れた瞬間「ああMIBがいるのね」と察知するくらいには記号的意味を感じました。

M1−16 The Sector Theorem(作編曲:東原一輝)
M1−17 Power of Destruction(作編曲:金田充弘)
M1-20 IMMINENT(作編曲:工藤吉三)

怪獣の襲撃や、廃墟となっている街、機兵の戦いを連想させる3曲。全体的に恐怖、混沌、悲壮感といった系統の雰囲気です。M1-20は特に和泉十郎の「ここは…?いや…今は…いつですか?」のセリフが印象的で、プレイヤーを置いてけぼりにしつつ、話が一段と深くなる情景を、音楽側からも描写しているように感じられました。

M2-01 Self Sacrifice(作編曲:工藤吉三)

何度か流れていた気がしますが、薬師寺さんが病んじゃってる印象が強い曲です。

本作は全体的に病んじゃった方々が多いので、冷たい音色の楽曲が多いのですが、その中でもひとりひとり病み方が違っていて、それが曲調でも反映されており面白いです。

余談ですが、サントラを購入してブックレットを読むまで、筆者はこの曲を崎元仁氏が担当されていると思い込んでいました。

M2-02 A Clause with Claws(作編曲:渡邊里佳子)

しっぽですね。Disc 2は薬師寺編からの収録のようです。胡散臭さがとてもよく出ています。

M2-07 High Alert(作編曲;工藤吉三)

関ヶ原の逃走劇です。何度か流れていた気がしますが、ひたすら関ヶ原とMIB絡みだった印象です。

イントロから再生のときと、曲途中から再生のときで使い分けられていて緊迫感が間延びしないようになっている工夫が好きでした。それもあってか、ゲーム音楽の緊迫系BGMにしては曲長が長めに感じます。

学園モノに欠かせない日常系劇伴

さて、ここまでディスク1枚と半分ほどの曲から、十三機兵防衛圏を印象づける個性の強い楽曲を選んで紹介しました。ゲーム全体でいうと進行度15%ほどなので、プレイヤーはまだまだ何が起こっているのかわかっていないものの、どういう雰囲気のゲームで、どういった曲が流れるのか、親しみ始めている頃合いだと思います。続いては学園生活に関する曲に絞って紹介していきます。

十三機兵防衛圏は13人の少年少女がロボットに乗って戦う作品ということで、記号的「学園モノ日常曲」が備わっています。

M1-08 Mornin', Sunshine!(作編曲:金田充弘)

冬坂のパンチラ曲。わかりやすいくらい女子高生の朝の通学って感じですね。本作をクリアするとようやく分かる「浮きっぷり」のある曲ですが、まだ「ロボットと高校生が出てくるセカイ系」と認識する序盤のプレイヤーにとっては、この曲はしっくりくるものだと思います。

あえてのミスリードというか、十三機兵防衛圏の本質ではない、表層的な+記号的な演出をあえてやっていると感じました。

M1-09 Halcyon Days(作編曲:工藤吉三)

イングリッシュホルンの優しさが染みるおっとり系日常曲。ピチカートってどうしてこんなに日常曲と相性いいんでしょうね。劇中では旧校舎で流れるイメージが強く、なぜか美和子を思い出します。ホッとする曲が終盤減っていく本作の中で、数少ない癒やしポジション。

(追記:クラリネットとイングリッシュホルンの2本立てのようにも聴こえてきました。音質が違うので2種類なのは確実ですが、楽器の種類までは確証持てていません。)

M1-14 Good Times(作編曲:千葉梓)

なっちゃんの曲と呼んでいます。南とBJのシーンはほぼこの曲ですね。Saw Synthにギターやピアノ、ピチカートに裏拍の打楽器で、かなり軽快な明るく元気曲という印象で、ちょっとEDMのノリに近いメリハリの効いた曲です。

筆者は最初、南編が始まったときに「明るめの日常曲」と思って聞き流していたのですが、BMajからB min pentaに進んでしまったときに隠しきれない不穏さを察知し、1:28ほどでループするときにBの増4度から完全4度へ下がりつつ終止せずにループする、というまず普通はやらない進行をしたので、不穏すぎて一気に鳥肌が立ってしまいました。

まだこのときはBJの登場を知らなかったので、明らかにこの元気っ娘は何かあると予感しました。クリアしてみて思い返すと、BJや宇宙のスケール感を表現したのだろうなぁと。いやぁ油断ならないですね…。

M2-13 BUDDIES(作編曲:千葉梓)

対してゆきちゃんの曲。鷹宮編はだいたいこの曲な気がします。

筆者はこれ、M1-14 Good Timesの対になっているんじゃないかと思って聞いています。相関を感じるのはEb min pentaであるという点だけですが、BUDDIESというタイトルも、相葉絵理花と見せかけて、南奈津乃のことを指しているのでは、という考察をしています。

M1-19 Taking It Easy(作編曲:東原一輝)

2024年のさつき池公園という印象がとても強い曲。他で流れていたかな…。同じ日常曲でも雨のけだるさや、パッとしない感じが伝わってくる曲です。チェロとフルートのユニゾンや掛け合いが、そのパッとしない雰囲気にしっかりとした骨格をもたらしていると感じます。パッとできるけど、あえてパッとしない感じにしているのかもという印象でした。

2-09 Forty Winks(作編曲:渡邊里佳子)

網口の印象が強い曲。学園モノっぽさはないですが、不思議系日常曲といった感じ。

本作は眠ためなシンセパッドふわふわ、エレピきらきらな曲がまぁまぁ多いのでですが、リズムマシンや太めのシンセベースによって浮きすぎないピリッとした雰囲気にまとまっていると思います。

ここまで、日常系によくありそうな…でもちょっとだけ変な?曲の紹介でした。サラッと聞き流す分にはそこまで変ではないですが、十三機兵防衛圏の本質的な異質さを序盤から少しずつ匂わせるような「しっくりくるのにしっくりこない」楽曲が多い作品だと感じます。

物語は、結構序盤はプレイヤーを置き去りに、どんどん風呂敷を広げてどんどん穴を掘っていきます。なので、そういった劇中の進行をフォローする側面や、音楽も一緒になってどこかへ行ってしまったり、プレイヤーの心境に寄り添ったり、といった劇一辺倒なBGMにならない広がり方が、世界観の表現としてとても印象的でした。

核心に迫ってしまった男女の音楽描写

本作は13人の主人公によってオムニバス的に展開していきますが、それでもやはり鞍部十郎と冬坂五百里の2人は2大主人公として別格の扱いを受けているなと、音楽演出面からも感じました。続いてはそれについて紹介します。

M1-04 In the Doldrums(作編曲:渡邊里佳子)

鞍部編全般で聞くことになる曲です。系統でいうと日常曲に分類されるでしょうか。ピアノやギターに粒の細かいシンセ、パンフルートといった構成で、打楽器はややグリッチ的という、1985年の学校のBGMにしてはえらくモダンなアレンジとなっています。

この曲を聞いた瞬間、昭和群像劇に終始しないのだという呈示を受けたかのような、本作への臨み方を示されたような気分になりました。

面白いのは1:10付近からの鍵盤ハーモニカが入る箇所。鍵盤ハーモニカという楽器自体、牧歌的に傾きがちなのですが、突如4分の4拍子から8分の7拍子に切り替わります。これによって鍵盤ハーモニカであってもダラダラしない、ちょっと緊張感あるザワザワした感じが出ていると捉えました。

そして大きな特徴として、1:41から楽器が大幅にいなくなってしまうところ。ゲームをクリアされた方で、もしかするとこの展開には気づいていないかもしれません。実はゲーム序盤は0:00から1:40のループしかしないのですが、中盤からは1:41スタートとなっています。劇中の進行でいうと、鞍部が自分の正体や世界の真実に薄々気付き始めている頃合いですね。

状況としては変わらぬ教室の一風景である、という呈示をしつつ、主人公の心境はどんどん核心に迫ってしまっているため、同じ曲をそのまま流すと間延びしてしまうからだと想像します。メロディは同じであるにも関わらずアレンジを展開させることで、状況の一致と心理的な深さの両方を表現しているのだと解釈しました。

なお、3:21からももう1段階進化し、弦セクションが入ります。こういったアレンジ違いはサントラの多くではカットされてしまうことが多く、今回も正直あまり期待していなかったのですが、フルサイズで収録されており感激してしまいました。

M2-10 Bright Days Ahead(作編曲:千葉梓)

M1-04の鞍部に対して、こちらは冬坂。買い食いのテーマと呼んでいますがこの曲も面白いです。実際には如月編でも流れることがあるので、冬坂のテーマというわけではないようなのですが、冬坂編でかなりの頻度で流れます。

この曲もM1-04と同じく2段階の進化をします。ゲーム中盤では2:35から始まるアレンジが展開され(サントラ収録上は最後ですが登場は2番目です)弦セクションやトランペットといった勇壮さと原曲の軽快さが同居した力強い曲となっています。劇中では冬坂の恋の盛り上がりと沿った使われ方をしており、下校シーンという状況の不変さと心境の盛り上がりの差異を両立させています。

ゲーム最終盤で流れるのは、1:17から2:34のアレンジ。楽器が増えて勇ましくなった第2段階とは対象的に、ピアノの響きだけが冷たく残る、静かなものになってしまいました。これも関ヶ原から返事をもらっていないという焦りや不安といったものが反映されていると考察しています。

M1-04、M2-10ともに各主人公・各チャートの冒頭を飾ることが多い曲なだけに聴く頻度も高く、いつも同じ風景・いつも同じ曲というマンネリにならない工夫を感じました。一方、対象的に緒方編はしつこいくらい同じ曲を充てられていたので、こちらも演出だと思います。

M2-11 Just Because(作曲:千葉梓、編曲:渡邊里佳子)
M3-15 Fancy Some Tea?(作曲:千葉梓、編曲:工藤吉三)
M3-16 Bittersweet Sorrow(作曲:千葉梓、編曲:菊池幸範)
M4-07 Feeling Left Out(作曲:千葉梓、編曲:金田充弘)

M2-10の面白さにはまだ続きがありまして。本作は基本的に一人での作編曲という制作体制をされているのですが、いくつかの曲については共作となっており、特に千葉氏作曲の4曲については他のスタッフがそれぞれ編曲をされています。

というのもこれらの曲、すべて元がM2-10なのですね。M4-07は分かりやすいほうだと思いますが、それ以外は前後の選曲の関連性も加味しつつ聞き耳を立てないと、なかなか気付かないのではないかと思います。筆者は劇中でこの演出に気付いたとき、思わず唸ってしまいました。

これらのアレンジは、冬坂編で聴くことも多いですが、東雲編でもよく聴いたかなと記憶しています。

不穏、そして核心

本作中盤から終盤は、序盤のほんわかした雰囲気なんてどこへやら、シビアなSFに進んでいきます。伏線の回収と展開を繰り返す動きをする、複雑な本作によく合う楽曲群を紹介します。

M2-12 Staring Into the Void(作編曲:工藤吉三)

本作では珍しいピアノソロ曲です。サントラを聞く限りピアノソロは何曲かあったようですが、強い印象が残っていたのはこれだけでした。2089年のすみれ橋ですね。

1周前と今周のすみれ橋で、両方とも同じ曲になっているのは意図的だと思います。状況は異なっていても、いつも森村の心境は同じ動きを辿っている、そんな気がします。

M2-14 Cognitive Dissonance(作編曲:渡邊里佳子)

金属的な響きの、あまり穏やかではない曲です。関ヶ原や東雲といった機兵汚染に巻き込まれた者という印象です。ピッチが大きく狂ったシンセサイザーのユニゾンがだいぶ気持ち悪いです。気持ち悪い雰囲気の曲を「気持ちよく気持ち悪いと思わせる」のはさすがだなと思います。

M2-15 A Brave Gene(作編曲:崎元仁)

数少ない崎元氏の曲、M1-01タイトル曲のアレンジですね。和泉が戦いに敗れて記憶を失ってしまうシーン。薬師寺さんはいつもかわいそうですね…。

崎元氏らしい悲壮感ある弦セクションです。FFT, FF12でもしっかり悲壮感のある曲が数多くありそれらを彷彿とする、ファンとしては待ってましたな曲調でした。

M3-02 STAGNATION(作編曲:工藤吉三)

いろいろ流れていた気がするのですが、如月兎美のマンションにある洋ナシタルトの店を思い出す曲です。メロトロンの暖かいような寂しいような音色と、不思議さのあるピアノのワルツが、悲しいのかどうかすらわからない無の感情、しっくりこない不安定さを感じます。

3-07 SEEKER(作編曲:金田充弘)
3-18 Metal Demon(作編曲:金田充弘)
3-19 466f756e64205521(作編曲:金田充弘)
4-02 Track Down(作編曲:金田充弘)

デスドロイド関連の曲です。いくつかバリエーションあるなとは思っていましたが、割とありました。シュイーンシュイーンという音色やノイズ効果音が特徴的。

この曲が流れるシーンはけっこうゲームオーバーになった記憶があって、いい思い出が無いです。残念!

M3-10 The Tower of Knowledge(作編曲:崎元仁)

ユニバーサルコントロールの曲。地味めな曲(失礼)なのに、なにげに崎元氏担当というのが、本作の本質を突いているというか、一貫して動くユニバーサルコントロールの不気味さを感じます。

M3-01 Voyage to Tomorrow(作編曲:崎元仁)

なにげに本作で一番聴いている時間が長い曲はこれじゃないか説がありますが、ゲームパート選択画面、あるいはアーカイブ画面のBGMです。いわゆるメニューBGMですが、表示するメニューによってアレンジが異なります。崩壊編の出撃編成もこの曲のアレンジ違いです。

M3-10との類似点をいくつか感じ、アーカイブ全体がユニバーサルコントロールの提供なのかなという考察が生まれました。

M3-12 Go Sentinels, Go!(作編曲:金田充弘)
M3-13 Hack and Crash(作編曲:金田充弘)

追想編でここまでイケイケな曲はないんじゃないか、というくらいアッパーな曲。2064年の機兵汚染のシーン。崩壊編BGMと同じ文法で作られているように感じます。M3-12については、機兵汚染以外では最終戦の機兵起動でも使われていますね。

M3-14 The Plot Thickens(作編曲:渡邊里佳子)

バウバウいったノイズシンセ、トレモロ弦、ファゴット、ヴィブラフォン、ハープによる怪しい推理色あるBGM。ファゴットの妖艶さが光ります。東雲編はだいたいこの曲でした。頭痛い。

M3-22 Head in the Clouds(作編曲:渡邊里佳子)

ゲーム最終盤で聞く機会の増えた日常系BGM。用途としては日常系なのですが、曲調はかなり不穏で、脳みそがカラカラいう空虚な雰囲気を感じます。曲名もまさに東雲さんの頭の中…。

テイストのみですがM1-04 In the Doldrumsの旋律は意識している気がしており、鞍部や東雲といった記憶喪失組の記憶無くし具合に伴って、劇中でよく使われている気がします。

M4-01 A F8ful Struggle(作編曲:崎元仁)

タイトル曲のアレンジ、すみれ橋での森村、あるいは1985年の冬坂の告白シーンで使われています。M2-15 A Brave Geneとの対比で考えると、M1-01タイトル曲は人類が生きる曲というか「人類としての男女」に迫る意図があるのではないかなと思います。

タイトル曲制作当時にシナリオがどこまで完成していたかは定かではないので、あとから補われた解釈である可能性もありますが、鞍部・冬坂、和泉・森村はそのメタファであり、そこを象徴した曲なのではないかなと。

M3-21 A Cruel Thesis(作編曲:工藤吉三)
M4-11 Dawn of the Sentinels(作編曲:工藤吉三)

「無敵の女子高生は…今どきロボットにだって乗っちゃうんだから!」のシーン。1985年への怪獣の襲撃によって街が崩壊していく悲壮感漂うシーンではあるのですが、絶望感というよりは強さを感じる曲です。

このシーンはその後M4-11に続くのですが、次は冬坂が15番機兵起動を起動するシーンですね。30秒程度のジングル的な役割です。

追想編の最終盤では、全員が続々と機兵を起動する手に汗握る展開が続きますが、多くのプレイヤーは、冬坂の起動を最初に見届けたのではないでしょうか。このジングルのあとに表示される"To the last battle"の表示や、その効果音が最高の演出でした。

M4-16 Last Line of Defense(作編曲:菊池幸範)

かなりアッパーかつ緊迫感ある曲です。流れるのはゲーム最終盤の郷登蓮也編、最終戦開始以降なので追想というより補完だよなと思いながら郷登編をプレイしていたのを思い出します。劇中ではかなり手に汗握る展開で、その流れをフォローするアッパーなオーケストラテクノとなっています。

映像を補う劇伴とゲームを補うゲーム音楽

追想編と崩壊編というゲーム性のまったく異なる2つの要素をひとつにまとめた本作。追想編はアニメ作品を鑑賞するような、絵とセリフを汲み取る流れとなっており、そこに流れる音楽はセリフを最優先とした、いわば劇伴的立ち位置です。

それに対して崩壊編はリアルタイム・ストラテジー。プレイヤーがコマンドを入力して敵をどんどん倒していく爽快感が求められます。そのため崩壊編の戦闘曲と追想編のBGMはまったく文法が異なっており、そういった違いをひとつのサントラで楽しめるのも十三機兵防衛圏の魅力となっています。

M1-03 (VALINE)- (作編曲:工藤吉三)

まだどんなゲームなのか、まったく分かっていないプレイヤーに対して、最初に出されるチュートリアル。移動の仕方やコマンドの選び方といった内容を伝える段階です。

そんな状況によくマッチしたexplain系のBGM、直前のオープニングシーンで怪獣の襲来は見ているので緊迫していることはわかるのですが、派手になりすぎない落ち着いた曲調なのが特徴です。

説明の間はずっとイントロのみがループしますが、説明が終わり戦闘が始まると1:09からは濃厚なDub Step!落ち着いた曲ながらテクノ寄りのアッパーさを伝える、よい1面BGMだと思います。

2:37からはより音数の多いアッパーなアレンジに変化。チュートリアルではドラマの進行に応じて、崩壊編本編では残り時間1分となったところで、このアレンジになります。このアレンジ変化は気付いた方もいるのでは。

3:47からはさらにもう1段階アレンジが進化。より激しくアッパーになります。これはチュートリアルでは流れず、本編では残り30秒になったときに変化するため、聴かないままクリアしているプレイヤーも多いのではないかなと思います。このアレンジ変化は、ほぼすべての戦闘曲で実践されているようです。残り30秒というと、苦戦しているか、もう少し頑張れば勝てるという状況のため、緊迫しつつも明るさを感じるアレンジに統一されています。

M1-11 -(LEUCINE)- (作編曲:工藤吉三)

チュートリアル2回目、あるいはステージ1 WAVE6-9で流れる曲です。弦セクションが美しい、知的な雰囲気の戦闘曲です。RPGと違いシミュレーションやストラテジー系の戦闘曲は攻めすぎない曲が多い気がしますね。 とはいえ、3:20からのアレンジは派手派手になっています。

M1-13 -(ISOLEUCINE)- (作編曲:工藤吉三)

チュートリアル3回目、ステージ2 WAVE1-4で流れる曲。チュートリアルの説明はだいぶ減ってきて、プレイヤーへ慣れを求める場面です。M1-03, M1-11よりはややアッパーになっているように見えます。弦やホルンが力強く動く。

M1-18 -(LYSINE)- (作編曲:金田充弘)

チュートリアル4、あるいはステージ2 WAVE6-9で流れます。この辺りの曲から、チュートリアルBGMとしての性質より、実際の崩壊編本編のドラマパートに寄り添っているというか、主人公たちの連戦による疲弊が曲に反映されているような気がします。実際のゲーム中では、三浦が超大型ミサイルをぶっ放しているシーンばかり思い出します。

キャッチーさより冷静さがあるというか、ブレイクビーツとシンセベースでゴリゴリ進む雰囲気から、そういった空気感を感じ取りました。

M2-03 -(PHENYLALANINE)- (作編曲:金田充弘)

チュートリアル5、ステージ3 WAVE 1-4の曲です。この曲はイントロがいいですね、かなり静かに弦だけが歌います。この曲も派手なキャッチーさは前半のステージより薄めで、実にスルメ系なBGMです。

M2-06 -(THREONINE)- (作編曲:渡邊里佳子)

ここまでの5曲にくらべると随分と大人しい6曲目。チュートリアル6、ステージ3 WAVE 6-9にて流れます。アレンジ中盤から動きがで始めますが、なぜか筆者は劇的ビフォーアフターの松谷卓氏を思い出しました。

M2-08 -(METHIONINE)- (作編曲:菊池幸範)

チュートリアル7、あるいはゲームクリア後のステージ4にて流れる曲です。チュートリアルはイントロから終盤アレンジに飛んでループしてしまうため、序盤、中盤アレンジは聴かないまま終わってしまったプレイヤーもいるのではないでしょうか。

序盤、中盤は2000年代中盤頃のトランスっぽさのある、どこか懐かしい雰囲気のトラックです。3:11からの終盤アレンジはシネマティックオーケストラ風のアレンジに変わります。

M4-04 -(HISTIDINE)- (作編曲:菊池幸範)
M4-08 -(TRYPTOPHAN)- (作編曲:渡邊里佳子)

Disc 3枚目に戦闘曲は収録されず、Disc 4枚目に現れる8, 9曲目の戦闘曲。これらはゲームクリア後のステージ4にて流れる曲となっています。そのためエンドユーザー以外は聴かずに終わっている可能性が高く、ボーナストラック感が否めないのがもったいないところです。どちらもハウス、トランストラックとなっています。

M2-05 Seaside Vacation(作編曲:崎元仁)

この曲は唯一の日本語ボーカル曲、劇中のアイドル因幡深雪によるレトロポップです。1980年代を代表するアイドルといえば…元ネタはあの辺ですね。劇中では網口家のテレビで流れるという印象でしたが、崩壊編ステージ2ボスにて流れたことで筆者の中の評価が急上昇しました。

こういう、戦闘を想定していない曲が戦闘中に流れる演出って…アツいですよね。ここは間違いなく超時空要塞マクロスをオマージュしていると思われます。

M4-12 -[RIBOSE]- (作編曲:金田充弘)

シンセサイザーも混ざっていますが、唯一の単独オーケストラ曲です。ゲーム音楽としては他作品でもよくあるテイストではあるのですが「因幡深雪の衛星が遠ざかって通信できなくなり歌が聴こえなくなる」という劇中の設定と、交替で流れ出すこの曲とともに続く無慈悲な敵の攻撃が、プレイ中とても印象的だったのを覚えています。すごく寂しい。

M4-15 -[DEOXYRIBOSE]- (作編曲:工藤吉三)

THE・ボス戦って感じのアッパーハイテンションな曲。こういう16分音符細かめな4つ打ち曲ってなんか、10年前くらいの音ゲーにありませんでしたか。中2心をくすぐるコーラス、ストリング、ギター全部盛りのド派手でイケイケな戦闘曲です。

ドラマパートのシリアスさと相まって、プレイ当時、涙にじませながらこの曲のもとで戦闘を進めていた記憶があります。こういうベタにアツいのもいいもんですね。

M4-17 -{EDGE OF THE FUTURE} (作編曲:崎元仁)

ラスボス曲です。といっても、よくあるRPGのように「このボスを倒してください」というのはなく、ひたすら襲撃を食い止めながら因幡深雪に祈り続けるというドラマ溢れる展開です。敵の攻撃が尋常じゃないので総力戦になってしまうのですが、その割にイントロが妙にポップでキラキラしていたのが、おかしくなったのを覚えています。

タイトル曲のアレンジをラスボスでも流すというのも演出自体はド定番ですね。ド定番ではありますが、期待を裏切らないというか、待ってました感アリ、こちらも激アツ展開の曲となっています。中盤はシネマティックオーケストラが暴れまわり、終盤はボーカルが入る、M4-15に続きこちらも全部盛りといった内容です。

音楽は本質の何を表現するか

ラスボス曲の紹介が終わり、残すところあとはエンディングです。本作のエンディングは全体を通してのネタの答え合わせというか、今まで本作を通じて我々は一体何をやっていたのか、という本質に迫る箇所でした。

M4-19 Inherit Humanity(作編曲:崎元仁)

鞍部博士が淡々と話している様子が印象的だったエンディングのひとつ。

つまるところ高校生がロボットに乗って戦うというシナリオではなく、人類がどう生存するのか、どう文化を継承するのか、という極めて本質的な点に言及しており、それをアナログ・シンセサイザーによるBGMが淡々とフォローする様を受けて、呆然と「ああ…なるほど…」という感想に至っていたことを覚えています。

単なる勧善懲悪ではない、若干の空虚さを伴った深い納得というか、不思議な脱力感を伴いながら、この曲を聴いていました。

M4-20 The Only Neat Life to Live(作編曲:崎元仁)

ラスト曲、映画のエンドロールのようなオーケストラです。こちらの曲も、この世界の本質に迫る曲調となっており、この演出をするためにこれまでの40時間近いゲームプレイがあったのだと思うと、沁みるものがあります。この曲もタイトル曲の引用・アレンジとなっており、タイトル曲が人類の繁栄を示唆していたのかと悟ったのはこの曲を受けてのものです。

このエンディングの感慨深さは、やはり冒頭の学園モノから順番に解き明かさないと得られないものだなと思いを馳せています。

記号としてのゲーム音楽の意味付けとは

ゲーム音楽というのは歴史的に記号的存在でした。例えば「今は城の中です、今はボス戦です、今はボーナスステージです」といったように、曲を鳴らすことでの不足情報の補いという役割がありました。

映像的表現が発展し、例えばファイナルファンタジー9から10に進んだとき、表現の進歩によってゲームキャラクターが喋るようになったため、音楽は一歩引いたと作曲者の植松氏が話されていました。

人物が話し、演技し、動き回る。そこに音楽が伴うというのは演劇や映画音楽、アニメ音楽といった劇伴の世界観です。一時、ゲーム音楽はどんどん劇伴化していくことになったかのように見えました。

十三機兵防衛圏は、アドベンチャーゲームシナリオの構築という観点でも非常に大きな試金石となっていると認識していますが、同時にゲーム音楽文化という観点でも、重要な尺度を打ち出したのではないかと思っているのです。それは記号的音楽の呈示、セリフとの共存、そして一曲一曲をなぜそこで流すのかという意味論の観点です。

十三機兵防衛圏を通してプレイして感じたのは、納得感と違和感の連続でした。

ここでいう違和感とは「シーンに合っていない」ではなく「合っているはずだけど、プレイヤーの現在の心構えがまだそこに沿えていない」なのです。つまり、その違和感こそが往年のゲームに存在した記号的価値を備えており「これから不穏になります」といったフォローの役目を果たしたのです。

ところが、本当に上手だと思うのが、そのフォローもたまに裏切ってくるところなのです。つまりプレイヤーはシナリオに翻弄されつつ音楽にすがりついてみるも、その音楽も時にはプレイヤーを翻弄しにくる、演出・表現としてとても大きな効果を担っているのです。

プレイヤーはゲームキャラを操作し、曲が切り替わり、心構えをし、それからまた操作しセリフを聞いて回る。これは固定長である創作物、映画・アニメでは成せない、能動的なアドベンチャーゲームだからこその体験です。

この流れに沿った揺さぶりをもつ楽曲群は、非常に質のいいシナリオに、より相乗的に印象づける効果を与えています。たとえばMIBの曲、電車のホーム、学園モノの日常に見せかけた空虚さなど。セリフを流さないシーンであっても「今何が起きているのか」を汲み取る余地がある。アドベンチャーゲームBGMとしての記号性と、人物描写を別軸で探る劇伴としての役割を両立してしまっているのです。

インタビューを読むに、ベイシスケイプ社の皆さんはこの観点に相当な時間と労力を費やされて、これら楽曲群を制作なされたのだろうと思うと、本当に頭が下がる思いです。あまりに褒めすぎるとステマかと言われてしまいそうですが、良いものを良いと伝えて世に残したいという思いで、今回は記事としました。

以上、十三機兵防衛圏の新たな考察を生み出すことに本稿が一助となれるのであれば、それはとても幸いです。

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