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食うか食われるか。


父親は真面目だった。
市営の博物館で事務をして働いている。

正英はそんな父親が嫌いだった。
真面目っていうのが、何かしら牙を抜かれた状態に見えたのだ。

しかし、正英は物置の奥から、古びた制服を見つけた。
裏地に虎の刺しゅう入りの制服。

正英は、その制服をリビングの机の上に置いた。

父親が帰ってきた。
制服を見て、
「……」

無言で、それを手にして、物置の段ボールにしまった。

正英は、何も言うつもりはなかったが、
「だせぇ」
と、呟いてみた。

父親は、
「……」
無言で、何もなかったように、冷蔵庫から冷凍チャーハンを取り出し温め始めた。

「食うか?」
「いらない」

次の日、正英は、また制服を引っ張り出し、リビングのソファに置いた。

父親は無言で片づけた。
「……」
「……」

そんなことを一週間ほど続けた。

さすがに、正英が折れて、

「あの制服、オヤジの?」
と訊いてみた。

父親は、
「ああ」
と、一言。

「不良だったの?」
「不良だった。けど、あの刺繍はお前の婆ちゃんの手作りなんだ」
「へ?」
「そういうこった」

正英は思った。
どういうこった。と。

「食うか?」
「食う」

とりあえずその日は、二人で冷凍パスタを食べた。



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