*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ11―

* * *

相沢美月「・・・ここだ」

ホテルの宴会場の前で、深呼吸。

ブルーのワンピースドレスの胸元には、シルバーに光る小さなハートのネックレスが、キラリ。邪魔にならない光沢のクラッチバッグは、アクセントに。

仕上げに、ガラスの靴・・・ではないけれど、眩い白のヒールが私を支えてくれる。

髪とメイクも和佳ちゃんにしてもらって万全、のはずだけど。

(なんだか、見られてる気がする・・・)

会場の中に進むと、新社長就任のパーティだけあって、オズマジックの社員で溢れていて、私は親友の姿を探すけど・・・。

通る度に刺さる多くの視線に、早くも逃げ出したくなる。

葉山桃花「・・・美月ちゃん?」

遠慮がちに問いかける声に顔を上げると、目の前に立っている桃花が、呆然と私を見ていた。

相沢美月「桃花・・・! 私、大丈夫・・・?」

葉山桃花「大丈夫どころか、すごくステキ!」

相沢美月「でもさっきから、視線を感じる・・・」

葉山桃花「それは、みんなが見惚れてるから!」

相沢美月「まさか」

葉山桃花「私、ずーっと思ってたよ? ほんの少しプラスの要素を加えるだけで、美月ちゃんはとびっきり可愛くなるって!」

相沢美月「・・・ありがとう。でもごめん、私お化粧室行って来る」

葉山桃花「ちゃんと戻って来ること、いい?」

親友の命令に、曖昧に微笑んで、バッグからハンカチを取り出して、口元に当てる。

桃花の言葉は素直に嬉しかったけど、心を落ち着かせたくて、足早にゴールを目指す。

すると──

相沢美月「きゃっ」

あと少しというところで長身の男性と肩がぶつかってしまい、ハンカチを落としてしまう。

???「失礼」

相沢美月「いえ・・・!」

相沢美月(あ、上条さんだったんだ)

相沢美月「ごめんなさい、慌てていて・・・!」

上条健一郎「いえ、私のほうこそ注意力が散漫でした」

相沢美月(『私』? それに、敬語・・・)

相沢美月「あの・・・」

上条健一郎「はい」

相沢美月(まさか、気づいてない・・・?)

真意を確かめるように、見つめているとハンカチを差し出していた上条さんが・・・自分の髪をクシャっとして、笑みをこぼす。

初めて見る部長のはにかみに、トクンと胸が弾む。

上条健一郎「そんなに見られると・・・美人さんの視線は、どう受けていいか困るな」

相沢美月(美人さん・・・)

相沢美月「私、ですか?」

上条健一郎「面白い人ですね。相沢美月以外に、見当たりませんけど」

相沢美月(上条さんて、こんなこと言う人だったんだ・・・)

???「上条さん」

その時、静かな声が私たちの間に届いて、振り返ると、まだ若くラフな格好をした男性が近づいてくる。

上条健一郎「おう、君も来てたのか」

秋吉洸生「ええ、近くで撮影があって、すぐ帰りますけど」

上条健一郎「さすが売れっ子監督、相変わらず忙しそうだな」

相沢美月(監督さん、なんだ・・・)

秋吉洸生「・・・こっちの女性は? 女優さん?」

相沢美月「いえ、まさか・・・!」

上条健一郎「実は俺も今会ったばかりで、どなたかは・・・」

相沢美月「あ・・・ごめんなさい! 私、急いでるので。ハンカチ、ありがとうございます」

上条健一郎「あ・・・」

小さくお礼を早口で伝えて、大きな手から半ば奪うように、ハンカチを受け取る。

私は正体不明のドキドキから逃れるように、会場を出て行った。