*試し読み:誘惑★オフィスLOVER2―プロローグ04―
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夏目晴人「ははは・・・! あー、苦しい」
相沢美月「もう、いつまで笑うつもりですか?」
カーテンの向こうにいる夏目さんに、抗議をする。
キッズモデルのひとりから、水鉄砲の攻撃を受けた私は、着ていたブラウスが濡れてしまい、試着室に避難していた。
用意してもらった水色のストライプのワンピースは・・・なんだか少し、くすぐったい。
夏目晴人「でも助かったよ。あそこで、お前が怒鳴ったりせずに、逆にやり返すフリしてくれたから、空気和んだ。スタッフも相沢のこと褒めてたぞ。率先して動いてくれるし、子供たちの扱いもうまいって」
相沢美月「ははっ、お役に立てたなら良かったです」
カーテン越しの笑い声はわざとらしいくらい、大きく響いて、少しの沈黙の後、それまでと違う空気が流れる。
夏目晴人「・・・・・・ちょっとくらい、落ち込んでもいいんだぞ?」
相沢美月「え・・・?」
夏目晴人「納得出来ない交代には、怒りを覚えて当然だ」
相沢美月(輝雪堂のこと・・・?)
夏目晴人「お前の実力、俺は評価してる。少なくとも、突然担当を降ろされるほど、中途半端な仕事をするようなヤツじゃない」
相沢美月「夏目さん・・・」
真剣な問いかけに、私も真剣に答える。
相沢美月「私、CMを作りたいって夢を見つけたとき、天国にいる父に誓ったんです。・・・夢を見つけたからには、努力を惜しまない。つかんだ夢は、何があってもこの手から離さないって、だから・・・」
センチメンタルな気持ちになってる場合じゃない。そう思うけれど、胸が苦しくなって先の言葉が続かない。
夏目晴人「なぁ、相沢。あのコンセプト、どうやって思いついた?」
相沢美月「実は、妹にヒントをもらったんです。大好きな彼に、いつ会っても大丈夫なようにどんな時でも可愛くいたいって、そう言ってて。そういう思いでいる女性は、妹の他にも、たくさんいるだろうと思って」
夏目晴人「世の女子を、応援してる感じか・・・。そういうの、しっかりプランから伝わってた」
相沢美月「・・・嬉しいです、そう言ってもらえて」
夏目晴人「自分が自分がって、してないんだよなお前のは・・・そういうの、お前じゃなきゃ作れないのにな」
いつもみたいに、冗談めかしてくれればいいのに。
ポツリと呟いた夏目さんの声は、とても優しくて、沈んでいた心が少しだけ掬いあげられるようだった。
相沢美月「ありがとうございます、夏目さん。落ち込んでても前に進めないので、この後もしっかり、アシスタントを務めます!」
夏目晴人「本当頑張り屋だなぁ、優等生相沢」
相沢美月「もう! その呼び方、やめてください」
夏目晴人「殻を破ったその時、免除してやる」
自分では、後ろを向かないようにしているだけ。でもその姿は、人から見たら・・・殻に閉じ込もっているように、見えるのかな?