資産とみるか負債とみるか?

事実上40年以上不変だった「銀行間手数料」が2021年10月から引き下がるのを受けて、3メガバンクを含む各銀行も振込手数料を引き下げを相次いで発表しています。

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出典:日本経済新聞 2021年7月15日 9面(金融経済)の記事から引用

振込手数料引き下げの背景

仕向け銀行(振込元)が被仕向け銀行(振込先)に支払う「銀行間手数料」は、これまで個別銀行間の協議で定められていましたが、ほとんどのケースで「3万円未満:117円、3万円以上:162円」で固定化されていたと言われています。

このことを、2020年4月に公正取引委員会が銀行間手数料が40年以上不変で是正が必要と指摘」したもあり、今年3月に「内国為替制度運営費」を創設し、金額に関わらず一律で62円とするという方針が定まりました。

私自身は、主に全銀ネットの改革・開放を議論する「次世代資金決済システムに関する検討タスクフォース」のメンバーであり、上記の銀行間手数料の議論には参加していませんが、原価に相当する「銀行間手数料」の引き下げを各銀行が利用者にも還元するは、望ましいことだと考えています。

一律の引き下げは正しいのか?

一方で、意外だったのは、ネットバンキングやATM、窓口といった振込手段に関わらず一律に値下げが行われたことです。

銀行の原価(1件あたりの限界費用)という観点では、ネットバンキングが一番安く、次いでATM。一方、一等地に店舗を構え、複数人で確認・作業を行う窓口振り込みの原価は高く、他の手段より割高な価格設定をしていますが、それでも逆鞘になっているはずです。

私自身、個人として銀行窓口を使う機会はほぼありませんが、法人の代表としては月に1回ほどは窓口に足を運びます。
大手町にオフィスを構えているので、最寄りの銀行本店は混雑もなくいつも快適に利用させていただいているのですが、維持管理費用は高いだろうなと、いつも感じています。
自宅近くの支店に伺うこともありましたが、程度の差はあれ維持管理コストの高さは構造上仕方ないものだと考えられます。

このような現状を鑑みると、原価である銀行間手数料が引き下がったとはいえ、窓口での振込については、手数料を据え置き、赤字幅の縮小に充当するという判断もあったものと思います。

また、日経の記事でも指摘されていますが「3万円の壁」というのはもう根拠を失いつつありますが、引き続き分岐点として存在しています。

独自性をもつ銀行たち

一方で、3メガ以外に目を向けると、独自のプライシングをする銀行たちも存在します。

例えば、GMOあおぞらネット銀行さんは、個人・法人、金額に関わらず、一律で145円に改定する予定です。

三井住友信託銀行さんについては、ATMや窓口は高めですが、インターネットバンキングについては、金額に関わらず他行宛でも一律110円と挑戦的な価格設定になっています。

彼らに共通するのは、対象となる過去の顧客がそれほど多くはなく、大胆な意思決定が取りやすいということです。
GMOあおぞらさんは設立は1994年ですが、2018年にネット銀行として再出発し、今年2021年が第二創業期という位置付けです。
三井住友信託銀行さんは、信託銀行トップで資産運用残高200兆円超の老舗・名門銀行ですが、個人については富裕層が中心で、一般的には退職金や不動産・相続の際以外ではお目に掛かる機会は少なく、頻繁にインターネットバンキングを使うイメージには乏しいと思います。

技術的負債だけでない伝統的金融機関の負債

一般に既存顧客の数は、顧客ベース・顧客資産といった表現がされることが多くあります。
もちろんユーザーが多いことは素晴らしいことなのですが、今回のケースで言えば、既存顧客の「顧客体験や期待値」が大胆な意思決定の制約事項になっているのは否定できないと思います。

いわば技術的負債ならぬ、顧客体験的負債と言っても良いかもしれません。
また、システム資産だけでなく、社員規模や支店網、成功体験といった「これまでの資産・強み」も外部環境の変化によっては「負債化」してしまうことがあるかもしれません。

未来の金融機関

昨年、「ナッジ株式会社としての再出発」をする際に「ゴールから逆算した新たな金融機関をスクラッチから作ることが、持たざる者の強みだと認識し、未来の金融機関を創り出していきたいと考えています」と宣言しました。

"free, fair, flat" で「自律・分散・協調」型のチームには道半ばですが、資本提携を発表した各社とのオープンイノベーションは想像以上に加速しており、サービス開発・チーム力強化に繋がっています。

規模や伝統といった「レガシー」を資産にするのか負債にするのかは、それぞれの会社次第ですが、ナッジについては持たざる者の強み」をより積極的に生かす戦略です。

この戦略のもと「優れた能力と経験を持つ」メンバーが続々と集まってくれていますが、アンラーニングの重要性も日々感じます。
一番積極的に取り組まないといけないのでは間違いなく私なので、まず隗より始めよで日々意識を新たにしていきます!

もし私自身が過去に囚われているようであれば、チームの内外問わず、ぜひ直言いただけると幸いです。

また椅子はだいぶ埋まってきましたが、挑戦に加わりたいという方々を引き続き募集しております!
副業・出向も受け入れていますので、ぜひぜひお問い合わせください!!

沖田 貴史
@Nudge.works
2021年7月15日

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