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バスと先輩と控え室(断片と枝葉①)

バスの目的地は思い出せない。
夜行バスだった気がする。きっとそうだ。

大学時代にサークルのみんなで乗った高速バスなんだけど、幾度かそういう機会があったからか、どれがどの時だったか記憶はごっちゃだ。

同期だけでなくひとつ上の先輩女子がひとりだけ(たぶん飛び入り)参加していて、同じ付属校出身だった僕が隣に座ることになった。

その人と二人だけでしゃべった記憶はあまりなかったが、いざ話したらお互い話好きなのもありすぐに打ち解けて盛り上がった。

高校が同じなら話題には事欠かないし、先輩は先輩で在学中から世界各国を旅して回るバックパッカーだっただけあって"open-minded"で、異国の文化を積極的に吸収して帰ってくる好奇心の塊みたいな人だった。

確かその頃の彼女はベリーダンスが得意だった。そんでもってその前はダブルダッチをやっていた。

そういうところをイジるようにつっついても、先輩はナチュラルな半笑いで返してくれる。(私は私で、何を好きになってもいいでしょ)が滲み出たアルカイックスマイルだ。笑みのほころびに日本人らしい「苦み」の味わいこそ含まれているが、そこに日本人特有の自虐性を醸した感情や「別にいいでしょ」と突き放すような感じは微塵もない。"open-minded"とはつまりそういうところで、これについては日本語に置き換えると伝わり方が変わりそうだから、そのまま英字で表記させてもらう。

夜行バスだったから出発後ほどなくして車内は消灯するのだけど、会話は止まらない。どうでもいいことをそのままべちゃくちゃしゃべり続けていたら、バスの運転手さんにマイクで注意された。

そのバスの目的地だったかというと違う気がするのだが、記憶はサークルのみんなで行ったスキー旅行に飛ぶ。旅館に到着後、客室の準備が整うまでの間、楽屋のような控え室で待機していた時のこと。

更衣室も兼ねていたのか、男女を分ける仕切りが設けられた部屋は銭湯のように向こう側の声だけが聞こえる作りになっていて、同期女子のアニメ色を帯びた笑い声がこちら側に漏れてくるたび、その場に居合わせた男子大学生グループが脊髄反射で冷やかし気味に声色を真似ていた。
合流後にそのことを同期女子に伝えてやると、コンプレックスだったのか、恥ずかしがりつつうんざりしていた。

先述の先輩女子とは、卒業してから数年後、別の先輩の誰かの結婚式二次会でバッタリ再会した。お互いが所在なく手持ち無沙汰な状態だと瞬時に察知したので、煙草を吸いたがった彼女について喫煙スペースにいった。僕は煙草を吸わないけど、お酒が入ったグラスを持っていった。

当時の彼女は大手商社に勤めており、相変わらずまとまった休暇を取っては世界に出かけているようだった。インド方面から帰国したばかりだったらしく、おでこの真ん中に丸い点をつけていた。

「サ」ポートに「シ」ェアと「ス」キ…『「セ」ンスが爆発してますね』という「ソ」ウルフルなリアクションまでお褒めの"サシスセソ"ください!