雪の雫

アシュラ2020公演応援特別企画

新生人種と旧人類による全面戦争は回避された。
旧人類による新生人種の差別、隔離、迫害は続いており、テレビでは連日の様に人権だとか旧人類の横暴だとかが世間を騒がせている。
『ニュースをお伝えします。』
『緊急速報です。』

「相変わらず、ね。」

朝のシャワーを済ませ、身支度を整える。
さて、と一息ついたところに呼び出しのコールがなる。

「キム、早かったな。」
「ふふん。」

詰所には既にバリーがいた。
私の相棒。新生人種との水面下での
戦闘をいくつもくぐり抜けてきた人物。
いつもの様に運転席に座りエンジンを駆ける。

「行こうか、キム。」
バリーの言葉と同時にアクセルを踏み込む。
東京の都心を抜け郊外へ。
それが今回の任務の地。
「バリー、説明を。」
「今回の任務は放棄された施設で旧敵対新生人種の残党と思われる人物が多数目撃されている。ま、その制圧だな。キム、今回は殺すなよ。」
「イージーだ。」

「そう言いながらキムはなぁ。」
はぁ~。とため息を吐きながらアメリカ人よろしくの大袈裟なゼスチャーを見せる。
「バリー!」
「なんだ!?」
キムの声に緊張が混じり、バリーは
サイドミラーを見やると苦い表情を見せる。
「付けられてる、な。」

「しっかり捕まってな!」
「キーーム!」

「目的地に到着。予定時刻より10分遅れたか。」
「キ、キム。お前、、、。」
「バリー、GO。」
「お、おう。」
追っ手を撒き、当初の目的地に到着した2人はすぐに装備を整えると目標の施設に向かう。
「今日はやけに寒いな。」
「もう3月だってのに、なんだってんだよ。」

「制圧完了。ミッションコンプリート。」
目撃情報通り、この施設には旧敵対新生人種の集団が潜伏していた。
雪が舞い散るほど寒いこの時季に彼らは十分な装備も無く、その力を発揮しながらもプロの2人には叶わなかったのだ。彼らは力に頼りすぎた。力が有る故の緩慢が見てとれる。

「雪か。」

キムは施設の屋上へと上がると曇天の空を見上げ、呟く。

「古雪に残る足跡は過去のもの。新たに降る雪の白さよ。何を隠し何を見せる。」

その目に映る雪の降る情景はキムに何を思わせ、何を見せるのか。
見上げたままのキムの目の端から流れる涙は誰も知らない。

~終わり~

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