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#ジオログ01 |大きいスケールで物事を考えるのが好き。そんな僕に隠岐のジオパークが教えてくれたこととは。


 #ジオログ
隠岐は日本海に浮かぶ小さな離島のジオパーク。「保全保護」「教育」「観光(ツーリズム)」の観点から更なる持続可能な発展を目指し、多種多様な職員達が在籍しています。「ジオパークで働く人を知る」がコンセプトの本特集。今の彼らの目に映る隠岐を見てみませんか。

谷田祥太郎さん。兵庫県伊丹市出身の26歳。
エンゼルスの大谷選手の応援が趣味。

今回紹介するのはインターン生として2022年7月からの3カ月間、隠岐ジオパーク推進機構で働いた、谷田祥太郎さん。
 谷田さんは「大人の島留学・島体験」というインターンの形を利用し、海士町に来島しました。「島体験生」と呼ばれるインターン生は仲間と共同生活を送りながら、島の事業所で働きます。
 谷田さんは事業所として隠岐ジオパーク推進機構の海士町拠点Entôジオ事務所を選び、働いていただきました。島体験生から見た「隠岐ジオパーク推進機構」はどんな場所だったのでしょうか?


ちなみに…
Entôジオ事務所があるのは島前地域海士町です。2021年7月にオープンした泊まれるジオパーク拠点施設 Entô。その一角に事務所を構えており、スタッフはGeo Room Discoverの解説や施設管理を日々行っています。

Entôジオ事務所 
GeoRoom Discover

もうすぐ3ヶ月のインターン期間が終了するというタイミングで今回のインタビューを受けて頂きました。あっという間に過ぎた3カ月間だったと思いますが、いかがでしたか?
 あっという間に過ぎていきました。島体験生は週に4日間しか働かないっていうのもあるので余計早く感じたのかもしれません。インターン生としてはEntôの展示室に来られたお客様へのガイドだったり、毎日16時半からやっているEntô Walkでも解説業務を勤めていました。


ちなみに…
Entô Walkとは毎日16時30分からEntôジオ事務所が行っている散歩ツアーのことです。解説員とEntô周辺を歩きながら隠岐とジオパークのことを学べる30分間。予約不要ですし、Entôにお泊りでない観光の方も島民でも誰でも参加できます。興味がある方はお気軽にお越しください。

実際にEntô Walkを行っている様子。丁寧な解説が参加者にも好評です。

 解説業務やEntô Walkでは参加者の方とお話しながら、隠岐のジオパークについて話す活動を行っていますよね。やってみていかがでしたか?
 最初は毎回緊張していましたね笑
 3カ月前初めてガイドをした時に比べれば減ったけれど、今でもやっぱり誰かに向けて一通りガイドをするっていうのは変わらず緊張します。僕は場数っていうより、どれだけ知っているかで落ち着き度合いが変わるタイプなので知識をつけることは常に意識していました。
 Entô Walkでは解説員として実際に参加者の人と歩きながら、外に広がる景色や植物についてガイドを行います。その際には「何か気になることがあればいつでも質問してください。」って参加者の人に声掛けをしていましたね。そう最初に言っておけば結構高い確率で質問してくれるし、そこからコミュニケーションが生まれることも多い。
 なにより一緒に考えて考えの幅を増やす機会にもなるし、もし分からなかったら自分で調べるネタにもなる。そうしてまた次の解説業務に活かせればいいと思ってました。

谷田さんが思うガイドのやりがいってどんなところにあるんでしょうか?   
 
そうですね、やっぱり印象に残っている参加者って僕自身に関して質問してくれた人なんです。ある人は地元が一緒っていう話から盛り上がって、「じゃあ谷田さんはなんで今は隠岐にいるんですか?」って。お!自分の名前まで覚えてくれてる!って思ったり笑
 それはつまり、ただガイドをやるんじゃなくてその先の関係性になれることが嬉しかったんだと思います。今の時代、ただ知識がほしいなら調べれば出てくることも多い。じゃあ「ガイドとして自分が提供できる価値」っていったら大げさだけど、意味付けをするというか。
 3カ月で自分もそこまで出来たわけではないけれど考えるきっかけにはなりましたね。その意味で1対1のコミュニケーションだったり、現地のガイドだから知っている周りの植物のことを話したり、あとは地元の風習だったり。そういうのは本で読むよりも口頭で話した方が頭に入ってくるかなと思い、話すことが多かったように思います。

Entôジオ事務所で働こうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
   もともとジオパーク関係の仕事を探していました。祖父母の家は兵庫県の日本海に面する町で、山陰海岸ユネスコ世界ジオパークに登録されている地域です。なので「ジオパーク」という言葉は元々馴染み深く、初めて知ったのは数年前だったと思います。祖父母の家に里帰りした時に「山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク」と書かれている看板を見つけました。「ジオパークってなんだろう?」と不思議に思いながら調べていくうちにその魅力に惹かれていきました。その後、隠岐のジオパークが盛り上がってるぞ!っていうのを知って。せっかく島体験の制度があるならここで働かせてもらえそうかなと期待して来たので、事業所選びでは迷いませんでした。

ジオパークを知るきっかけになったという山陰海岸から見た景色。
どこか隠岐に似ている景色にも見えるのだとか。

山陰海岸以外の他のジオパークにも足を運んだことはありますか?
 
北海道の洞爺湖には以前行きました。洞爺湖の近くに昭和新山(しょうわしんざん)っていう岩肌むきだしの岩の山があるんですが、そこに登った時の迫力がすごかったですね。あとは温泉が今もあって地熱の活動が活発っていう話は地元のタクシー運転手さんから聞きました。あ、僕は温泉には行ってないんですけどね笑

北海道には写真にある洞爺湖有珠山ともう一つ、様似町(さまにちょう)のアポイ岳がユネスコ世界ジオパークに登録されています。

谷田さんにとっての「ジオパークの魅力」とは? 
 うーん、5教科7科目なところっていうんですかね。ジオパークを学ぶにはまんべんなく知識が必要ですし、色んな分野が含まれていることが僕にとっての魅力です。僕自身は文系的な歴史とか文化の話も好きだし、理系的な地質の話も好きです。好奇心が広くて、シンプルに勉強が好きな性格というか。でもだからこそ何かに特化しなきゃ強みにならないんじゃないかって悩むこともありました。 
 けれど3カ月過ごしてみてどれかの専門家ではないけれど、全体的に厚い知識を持つオールラウンダーになる、それが自分がなりたい在り方だなと思いました。ジオパークはそんな自分にハマるんじゃないかと、だから魅力に思うんだなと。 

 それでは隠岐だからこその「ジオパークの魅力」ってどんなところにあると考えますか? 
 まちづくりというか隠岐を盛り上げるための原動力がジオパークにあるっていうところですかね。一体になってる感じがすごくありますよね。ジオパークという考え方を地域がより発展するために活用していくという動きは自分にとっては新鮮でした。この気づきはガイドとして現場に入る機会が多かったことも関係していると思います。実際にきたお客さんへの案内は、観光の最前線に立つということ。3ヶ月間自信を持って現場に立つために十分な知識をつける中でこうした隠岐ならではの魅力を発見しましたね。

海士町・北分大橋にて。休日は図書館にいることが多かった谷田さん。
でもたまに自転車を走らせてこんな風に景色を見に行ったりしていたそうです。

では、毎日のシフト業務の他にやっていた業務はありましたか? 
 個人としてやっていたのは上司の石原さん・ヤゴダさんから頼まれて行う資料作りです。9月に行われたジオパークの現地再認定審査に向けた資料作成は多かったように思います。あとは企画の仕事です。「World Cleanup Day」という世界で同日に2000万人以上が参加して、クリーンアップ活動を行う日があります。その日に合わせてEntô ジオ事務所が行ったイベント、「拾おう!つくろう!漂着ごみアート」を企画の段階から担当していました。

台風の影響もあり、イベント当日ゴミを拾いに行った海岸には多くの漂着ごみが流れ着いていました。中には韓国語やロシア語で書かれたボトルもあります。

 「World Cleanup Day」に参加することを聞いた時、どんな思いでしたか?   
 僕自身はこういう国際的なイベントに参加するのは初めてでした。「世界中でクリーンアップをする日だからやろう!」っていう目的でイベントを企画するのは面白いと思いましたね。実際に隠岐の海岸を見てると漂着ごみが流れ着いています。それを綺麗にするっていうのは観光にも繋がってくるだろうし。今回アートの題材にしたウミガメの「リブ」もそうです。海洋ごみに絡まって隠岐に流されたウミガメを救ったという実話が絵本になっています。

絵本「リブと海」は子供への読み聞かせにも活躍。
隠岐の海洋ゴミを学ぶ大切な機会づくりをしています。

 そしてこれから先、隠岐がジオパークとして海洋問題に向き合っていくことを考えた時、Entôジオ事務所としてイベントをやる意味は感じていました。当日のイベントでは多くの親子連れに参加いただき、まず無事に開催できたことに安堵する気持ちでした。子供達はさすがの集中力で作品を作り上げていて関心しましたし、想像以上の出来栄えで驚きもあったイベントとなりましたね。

当日は多くの親子連れに参加いただきました。
拾って消毒したごみを切って貼って「ウミガメのリブ」を作ります。
絵本『リブと海』の表紙を真似て。

企画・イベントの仕事は大変なことも多かったのではないでしょうか? 
 そうですね。前職はどっちかというと今ある仕事を改善したり、やり方のフロー作ったりっていう方が多かったので、仕事としてやるっていうのは初めてでした。ゼロから作り始めるっていうのはここに来てから本格的にやり始めましたね。企画はゴールもないし曖昧な状態で進んでいくのが不安になりますね。それに耐えるというか。そこが大変だったかな。

 でも島体験という制度にいてここに来るのと、普通に雇われて来るのでは違っていたと思います。毎週金曜日は研修で、普段全く違う事業所で働いている仲間達と話す機会があります。それがある種、息抜きになっていたので上手くバランスが取れていたと思います。

海士町の盆踊り大会ではシェアハウスのメンバーと一緒に輪に参加し、夏の海士町を堪能しました。

ではEntôジオ事務所で一緒に働いていた上司や職場のメンバーにはどんな思いがあったのでしょうか?
 事務所の上司である石原さんもヤゴダさんも盗めるところがいっぱいある方たちなのでもっと吸収できればよかったかなって思ったりもするんですけど、、。
 でも自分の得意なところを見つけてくれたかなあっていう気がしていて、ありがたかったです。石原さんからは「かっちり進めるのが得意だよね」って振り返り面談の時にきちんと評価をしてもらえた。そういう意味では働きやすかったと思います。

ある日の職場。島後の隠岐ジオゲートウェイとは後ろの「窓」で繋がっています。

「ジオパーク」の中を知りながら少しずつチャレンジした3カ月間。
なにか得るものはあったでしょうか。
 以前働いていた会社は高速道路の会社でした。その会社は地理とかが好きでっていうので選んだのもあったので、そういう意味ではジオパークと繋がる部分が自分の中ではあるんです。やっていく中で自分は大きいスケールで物事を捉えたり、考えるのが好きなんだと改めて思いましたね。
 あとはジオパークが地域を盛り上げるためのちゃんとした機能になっているんだなって実感できたのはよかったですね。まさにジオパークが地域振興の旗振り役みたいなところがあるところ。それは他の地域でもやれるんじゃないだろうかと思わされました。色んなところにジオパークという文字があったり、外部の人が視察や見学に来た時は窓口になることも多い。隠岐のネットワークの中心になっているんだなと。
 
 「地元のジオパークを盛り上げるために貢献できたら嬉しい」という思いはずっとあります。でも3カ月前はぼんやりとしか思えていませんでした。今は前よりも具体的なイメージが沸いて、地元に帰っても頑張れるんじゃないかと思っています。

職場があったEntôと内航船と。
青く澄んだ海と空を見るのが日々の楽しみでもあったそうです。

 最後に、この文章を読んでほしい人ってどんな方でしょうか。
 そしてその方々に伝えたいメッセージをお願いします!
 
そうですね。ジオパークに興味がある人。でもどう動いたらいいか分からない人。そういう人に届けば嬉しいです。
 これからの未来については他の選択を全く考えていないわけではないんですけど、せっかくここの3カ月があるんだったら他のジオパークなどで働けるといいかなとは思ってます。自分がジオパークに魅力を感じるのは内から学ぶ興味深さがあるからです。外から観光するのも楽しいけどそれとは違うやりがいがある。自分でジオパークを発信していく側になるのも面白いよ、と伝えたいです。

 最初からジオパークに一直線!という事業所選びでEntôジオ事務所に来てくれた谷田さん。3カ月という期間ながら毎日確実にコツコツと業務をこなしている姿が印象的でした。彼が3カ月間働く中で見つけたやりがいや気づきにどんな印象を持たれたでしょうか。
 こうした一つひとつの縁が日々生まれる場所がここにはあります。
 谷田さん、ありがとうございました。これからの道に幸あれ。