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なるとある

記録的暖冬と言われるだけあって、2月の半ばだというのにこの東北の地面に雪は一切ない。

どうしたものか。

雪は降らずとも、今日の天気はどこか下り坂。
風が強く吹く。バチバチと何かが車の窓に当たる。霰か、雹か。音をぶぉーと立てながら風はよりその強さを増す。ハンドルが持っていかれそうになる。電線が風で横に縦に揺れる。その揺れからなんとなく3.11のことが思い出された。そう、あの日も電線が縦に揺れていた。

心がざわざわする。

なんだか不穏な雰囲気。何かが壊れようとしているような、そんな気がする。何かが崩れ落ちようとしているような、そんな気がする。僕の気持ちが天気に左右されているのか、それとも何か不思議な力でそれらが連動しているのか。この人生が一つの物語で僕がその話の主人公だとしたら、後者もありうる話ではある。

だからって、なんてこともない。

駐車場に一本の枝が落ちていた。桜の木の枝。連日の雨風でどうやら折れてしまったよう。かわいそうだという感情一つも起きてこないから、僕は平気でその枝を蹴って家路につく。ひと蹴り、ふた蹴り。枝の横から蹴って、枝の先から蹴って。そんなこんなで先日の面接を思い出した。


”就活のことでも会社のことでも、最後に何か、聞きたいことはありますか。”


最近の面接の最後では決まってその質問がされる。だから僕は、決まってこんな質問をする。


”その仕事を通じて、どうなりたいのか、目指す人間像などがありましたら教えてください。”


とても面接のような質問。この質問が失礼なのか、いい質問というやつなのか僕はよくわからないが、でも僕はついつい気になって聞いてしまう。その会社の人がどんなことを考えて生きて、働いているのか。それが僕は、気になる。

そしたらこの前のある会社の方が、こう答えた。


”どうなりたいというか、どうありたいかという意識は持っています。昨日より今日の自分、今日より明日の自分。私は昨日の自分に勝てる自分でありたいです。”


はっ、とさせられた。
僕が忘れかけていた、この視点。何になりたいかじゃなくて、どんな人間になりたいか。でもその奥に、どんな人間でありたいか、そいつがいた。

なる、と、ある。

似ているようで、全然違う。
生きる時間軸が、違う。

今まで考えてきた色々なことが、一気に崩れた気がした。

また振り出しである。

でも、それでいい。もう一度考えて、考えて、積み直せばいい。


はて、僕はどうありたいかね。

ちょっと地に足ついた気分。

2020.2.18
おけいこさん

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