HYDEライブに行ったつもりが、この世の王に謁見していた

高校時代、それまでずっと二次元にハマッていた私は衝撃的な出会いを果たした。

L'Arc~en~Cielだ。

高校1年生の私といえばH×Hが激熱で、幻影旅団のフェイタンの女だった。
フェイタンの女である前は鋼の錬金術師の女だった私は、アニメの主題歌を担当していたことでフワッとラルクの存在を知ってはいた。

当時の私は基本的にジャニーズや男性バンドなどに興味がなかった。バチバチにかっこつけている感じがどうにも苦手だったからだ。
二次元の男性たちは普通にしていてかっこいい。わざわざかっこつけなくても念能力が使えたり、氷を操る刀の使い手であったりなどテンプレでクールだった。

思い返せば小学生時代はラルクかGLAYか、高校時代はNEWSかKAT-TUNかなど女子たちの中には常に男性アーティストの派閥があった。
友人と「学校内で見たら切腹」という物騒な血の掟を掲げ続けていた二次元の推し交換絵日記が毎日の楽しみだった私には、まったく無縁の派閥だった。

歌は流行っているポップな曲が好きで、BoAや宇多田ヒカルなど週間オリコンチャートに入っている曲をレンタルしては聴いていた。
時折チャームポイントは泣きボクロ↑↑などど口ずさんだりしながらも。

ラルクの沼に落ちたのは非常に唐突だった。

「あれ?hydeってなんかフェイタンに似てない?」

????????
今にして思うと意味不明だな??

某ハロウィンパーティーでご本人がクロロのコスプレをしていたように、どう考えても似てるのはクロロだし、フェイタンというのならばGLAYのHISASHIの方が似ているように思う。
だが当時の私はフェイタンに似ていると思ったのだ。

そんなアホみたいな軽さでラルクへの関心が爆発した。
きっかけは二次元の推しだったが、結局のところhydeの二次元と見間違うほどのご尊顔がハチャメチャに美しかったということ。
ヨークシンシティを心の居場所にしていたH×Hの女だった私は、一瞬でカラオケを拠点に変えラルクの女へと転身していた。
ラルクのアルバムを聴きまくり、ハモりが上手な友達と共にカラオケに入り浸り、ラルクを歌いまくる放課後を過ごした。

それはその後V系にハマるまで続いた。
こうして振り返るとラルクは私の音楽嗜好に多大な影響を与えていることに気付いて今更びっくりしている。

その後10年ほどは時折ラルクを聴くことはありながらも、ライブに行くなどはなく過ごした。

ラルク熱が再熱したのは唐突だった。
BGMがわりに見ていたMステで、READY STEADY GOを演奏する当時のラルクの映像が流れたのだ。
久々に見るドハマリしていた当時のラルクの姿を見て私は衝撃を受けた。

「え……歌…うま…………」

意味不明、あまりに今更。

我ながら思う、お前ファンだったんじゃないのか????

そこで私は思い知らされた。
高校時代、美しいhydeのご尊顔に心を奪われ過ぎていて、歌声の美しさを二の次にしていたのだと。

バカなのか?????

アラサーの私は16歳の私を罵倒した。
ああでも、修学旅行で観光したときは全く響かなかった景色が、年を重ねてから再訪した時びっくりするくらい刺さったことあるもんな……。
そういうことか……そういう…………

脳裏に走馬灯のように蘇るアジアライブ、またハートに火をつけろ、HYDEソロライブ……

ぜんっっっっぜん生歌覚えてないな!!!!ウケる!!!!!

私は激しく後悔した。
今やなかなか開催されないラルクのライブ。せっかく昔2度足を運んで生歌を堪能しているというのに。
なんて…なんて勿体無いことを……

直後には直近でHYDEのライブがないかググッていた。
籠城ツアーが予定されていたがチケット一般発売日すら過ぎており、地元から近い福岡公演はすでにソールドしていた。
しかし諦めきれないほどに心は揺さぶられていた。
ツイッターで譲り募集のツイートをし、連日検索もかけまくり時折見かける高額転売屋を通報しつつ、ぴあでリセールがないか張った。
公演1週間前にようやくチケットを譲っていただけることになった私は、アルバムantiを聴きながら昔行ったHYDEソロライブのタオルをタンスから引っ張り出し、そこに踊る「2006」という西暦にダメージを受けるなどしながらライブまでの1週間を落ち着きなく過ごした。

ところで昔、私はhydeの生歌をあまりよく思っていなかった。
ライブや歌番組でもCDと同じクオリティを保って欲しいタイプだったからだ。
完全な素人の感想だがあまり上手だと感じなかったし、なんなら丁寧に歌っているようにも感じなかった。
もちろん下手な訳ではないが、ライブによって起伏があったように思う。
そこに一抹の不安があった。

けれどその不安は無事払拭される。
福岡ライブの前に放送されたSONGSにHYDEが出演していたのを母と見たが、ZIPANGの歌声がまるで楽器の多重奏であるかのように複雑で美しく聞き惚れた。
母も圧倒された様子で「きれいな声だね…」と呟いた。
バラードだったからだけではない。
丁寧で穏やかな歌い方と雰囲気に、HYDEが歌うことを楽しんでいるように感じた。
なんか…いい年の重ね方したなぁ…などと孫を見るかのような感慨と共に安心した。

そんな安心感と共に迎えた7/6福岡公演。
今回のライブに参加するにあたっての私の最大の目的は
「青春時代、HYDEのご尊顔に心捕らわれ過ぎて無自覚ながら二の次にしてしまっていた歌を堪能する」
ということだった。

1番後ろのセンター付近でみたが、Zepp福岡は後方で一段フロアが上がっていることもあり歌っているお姿も問題なく拝見できた。
ちなみに1曲目が始まった瞬間から腰は抜けていた。壁によりかかることでなんとか立てていたので1番後ろを選択して大正解。

始まりの曲としてWHO'S GONNA SAVE USはエッチすぎません??個人的にantiの中でHYDEの歌声のセクシーな部分総動員してる曲ランキング1位なので、しょっぱなから腰を砕きにかかってるとしか思えなかったんだけど。

以降は結構激しめの曲続きだったから一命を取りとめられるかと思いきや、激しい曲なのに音外さないしめっちゃ動いてるのに声ブレない。すごい。全然腰砕けっぱなし。

そしてUNDERWOULD初めて聴いたけど腰砕けポイントだった。重低音で煽ってくるHYDEはもうヒエラルキーの頂点。下々の私はただひれ伏すしかなない。

やっぱりライブはなまものだ。
CDで聴いていたときにはあまり刺さらなかった曲が、ライブで聴くとべらぼうにかっこよくて大好きになった。
上でも書いたように聴かずに臨んだVAMPSの曲があまりによくてライブ後即ダウンロードした。
そして帰りの新幹線に揺られながら、もう1回行きたいと思った。

ラルクにハマってから、それまで聴いてこなかったロックが好きになった。
いくつものバンドの曲を聴いたし、それなりに好きなバンドも挙げられる。
けれど歌声だけで足腰が立たなくなってしまうボーカリストは、私の人生においてHYDEだけのような予感がしているし、少なくともこの15年間はそうだった。

3月に窪田正孝くんの舞台を観劇した。
その時に私の前に座っていた高校生と思われる女の子が、舞台袖から登場した窪田くんを見た瞬間に座席から転げ落ちてしまいかねないほど動揺した動きを繰り広げたのち、すすり泣く姿を見た。
その姿を見て微笑ましくなると同時に懐かしくなった。

初めて参加したラルクのライブで、hydeが目の前に来てハイタッチをしてくれたことがある。
あの出来事以上の推し事にいまだ出会っていない。
いや、出来事自体はあった。素晴らしい出来事が多々。起こったことだけを考えればハイタッチ案件以上のこともあった。
それでもhydeとハイタッチしたあの瞬間以上にきらめくものにはならない。


聞いた話によると人間は25歳らへんからときめくことが難しくなるらしい。
アラサーの私はこれを身をもって体感している。本能より理性が勝るようになってきている自分を。

フルスロットルで大好きという気持ちを表現できていた私はもう存在しない。しかし純度5億%で大好きを表現できていた時代に青春を捧げたバンドがある。
それがL'Arc~en~Cielだ。

この当時の気持ちというものは一生引きずるものなのかもしれない。あまりに光輝いているからだ。
人生において推しに全力投球できる時間というのは精神的にも生活状況的にも短い。
けれど全力投球できた時代に好きになった人物や物語、音楽たちは、人生の要所要所できらめいた記憶を引き連れ今を彩ってくれる。
そして年を重ねた分少し落ち着き豊かになった感性が、昔よりもより鮮やかに推しを輝かせて見せてくれる。

今回のHYDEライブは私にとってまさにそういった体験だった。
いや、かっこつけたがぶっちゃけ私の感性うんぬんは大して関係なく、HYDEの歌唱力が爆上がりしていたことが主な要因だ。
生で聴くHYDEの歌に圧倒され過ぎて、この世の王に謁見しているのではないかと本気で疑った。
キショさ全開の心境で王の力強く繊細な歌声を浴び続けた2時間だった。

結果的に急遽名古屋公演へも2本行った。
ライブごとに大好きに昇華されていく曲が増えていくのが楽しい。好きが加速するばかりだ。
来年もライブがあればまた参加したいし、欲を言うならラルクライブももう一度いきたい。

しばらくの夢にしつつ、また王に謁見出来る日を楽しみに日々を頑張っていこうと思えた。


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