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キリンビールサロンで触れた、一杯のビールと一瞬のきらめきについて。

はじめてビールを飲んだとき、「苦酸っぱいな」と思ったのを覚えている。

大学のサークルで山奥の合宿所に行き、あーでもないこーでもないと議論を重ねた後、ダンボールの中から少し温くなったビールを取り出して飲んだ。あとであの日飲んだのはビールではなく、発泡酒だったと知ったのだけど。

僕はもうすぐ30歳をむかえるのだけど、あの日からいったい何杯のビールを飲んだのだろう。生活の中に突如登場した(主に)金色の飲み物。とびきり嬉しいときも、手持ち無沙汰な休日も、ギリギリだった夜も、いつもビールがそこにあったように思う。

話は変わって、2019年の夏の終わり、友達と屋形船で飲み会をした。いい感じに酔っぱらいながら看板で夕日の写真を撮っていると、飲み仲間であり、ミスチルカラオケ仲間のキリンビール平山さんがやってきた。

「せっちん丸さん、今度、『キリンビールサロン』っていうビールコミュニティをやるんですけど、興味あります?」

「めっちゃあります。参加させてください。」

二つ返事で参加をお願いして、後日送っていただいたキリンビールサロンの詳細がまとめられた記事に目を通す。

**キリンビールが長年培ってきた知識や技術をお伝えする講義に加え、ビールの最前線で活躍する方たちをゲストにお招きしたトークセッション、参加者の方が実際にビールをつくる体験までを含めた全5回の連続講座。

ただ知識を得るだけではなく、体験を通じてビールの面白さを知り、そして、同じようにビールが好きな仲間と出会う。そういう場を目指しています。**

ふむふむ。「知識を得る」かぁ。でも、僕もそこそこビールとは長い付き合いだし、なんやかんやビールのことは知ってる気がするぞ。いっぱい飲んできたし……。ちょっとビールについて考えてみるか……。


……あれ、ビールってそもそもどうやって作ってるんだっけ?

………そもそもビールって、どこで作られてるんや?海沿い?山沿い?

…………ビールって水入ってるよね?麦の果汁?じゃないよね?えっ……


平山さんから話をいただいて、エイッと参加をお願いしてからようやく気づく。


「僕、ビールのこと、なーーーんも知らんわ……。」


かくして、「とりあえず生で」を9年繰り返し、雰囲気だけでビールを飲んできた男による、キリンビールサロンな日々は幕を開けたのである。

「わたしの好きなビール」で乾杯

全5回、横浜は生麦にあるキリンビールの工場で開催となったキリンビールサロン。各回印象的なパート、名パンチラインがあったのだけど、第1回はやはり思い出深い。

第1回は、「各自1本ずつ『わたしの好きなビール』を持参して、自己紹介をする」という、完全にビール好きの心を掴みにいく、前代未聞の自己紹介からスタートした。

参加者約40名が、それぞれの「推し」を持ち寄って、乾杯し、好きな理由や思い出のエピソードを語る。挨拶がわりに各ビールを注いでみんなで飲む。なんてピースフルな光景。

そして、講師の草野先生による、熱烈ビール講座。ふだん、ビールセミナーの講師を務められている草野先生が、この日のために一パワポ入魂で作ってきた、ビール愛と知識がギュギュッと凝縮された資料。

ビール歴9年目、僕はここでようやくビールのつくり方を知ることになる。

それまでは「苦いやつ」「キリッとしてるやつ」のように、感覚でとらえていた「IPA」「スタウト」「ピルスナー」「ラガー」などの製造方法をようやくここで知り、長年の友達の過去に触れたような、なんとも感慨深い気持ちになった。

ビールの裏側のストーリーを聞きながら、ちびちび飲むビールは、なんだかいつもよりもずっと「濃い」味がした。

「ビールに旅をさせるな、ビールを飲みに旅に出よう」

第2回のセミナーのテーマは「いま日本のビールがおもしろい!」。SPRING VALLEY BREWERYの古川淳一さん、遠野醸造の袴田大輔さん、ビアライターの富江弘幸さんをゲストに、「つくる人」と「届ける人」の目線から日本のビールの今とこれからを語っていただいた。

当日の内容については富江さんのブログでもまとめられている。

この回で特に印象的だったのが、「どこで飲むビールが一番美味しいのか?」というテーマ。「ビールは、そのビールがつくられた土地で飲むのが一番美味しいのでは?」という仮説に、サロンメンバー一同、頷きまくっていた。

日本中・世界中のビールがボタンひとつで手軽に取り寄せられるようになった今だからこそ、その土地に足を運び、できればつくり手に出会って、五感でビールを楽しむ。

遠野醸造の袴田さんが言った言葉「ビールに旅をさせるな、ビールを飲みに旅に出よう」は、家訓にして壁に飾りたいほどに粋なフレーズだと思う。

この話を受けて、いつか、みんなで岩手県は遠野まで行って、現地で乾杯したいね という話で盛り上がった。

遠野醸造の「Five Wits IPA」やSPRING VALLEY BREWERYの「496」、富江さんイチオシの「COEDO 紅赤」などを味わい、この日もいい感じに全員で酔っ払う。帰り道に見たキリンビールの工場が綺麗だった。

世界のビールに酔いしれた第3回

「世界のビールのリアルを知り尽くす男」こと田嶋伸浩さん、遊びのためのビールをつくる「BREWBASE」のディレクター 中村三太さんをゲストにむかえた第3回。

この日は、前回、前前回以上にたくさんの種類のビールを飲む、なんとも贅沢すぎる時間だった。

前回の国内のビールの話からさらにスケールアップし、今、世界のビール市場はどう変わってきているのかを聞きながら、ビールを嗜む。嗜みまくる。

「ビールってこんなバリエーションあるのか!」と驚かずにはいられない、ビールにおける味覚が「拡張」される回となった。

「つくる側」にまわる、工場でのビールづくり体験教室

第4回は、いつものセミナールームを飛び出して、キリンビールの工場を見学してから、実際に自分たちでビールづくりを体験した。

全5回のうちの4回目。次回が卒業式ということもあって、少しさみしいけれど、全力で楽しもうと、メンバー一同気合いに満ちあふれていた。

写真は我らが赤エプロンの「ピルスナービール」チーム。

当日のレポートは写真一番右の町田さんがこちらのnoteにまとめてくれています。

インストラクターの川口先生にビールづくりのイロハを教わりながら、チーム一丸となって鍋をかき混ぜたり、麦汁を冷やしたり。

途中で他のチームの様子を見に行って、ビールを作る過程の麦汁を「つまみ食い」ならぬ、「つまみ飲み」するなど、終始ワクワクする教室だった。

これだけ美味しくて手数のかかる飲み物を、コンビニで数百円で手軽に買えるなんて、ビール会社さんや物流の会社さん、あらゆる方々に感謝せずにはいられない。

伝説の二次会

第4回の終わったあと、サロンメンバーの町田さんの発案で、生麦駅前にあるビールが豊富なダイニング「あぼか洞」に二次会で行くことに。

こちらは移動中の様子。

みなさんの表情に、あの日の空気感が表れている。

直前の声掛けだったにもかかわらず、まさかのサロンメンバー約40名のうち30名近くが参加する事態に。席をつめてみんなでお店に入る。

講座の時点でそこそこ酔っ払っていたこともあり、正直何を話したかはあまり覚えていないのだけど、キリンビールのみなさんと参加者がごちゃ混ぜになって、みんなでよく笑う夜だった。

あの夜の熱狂は忘れられない。

一杯のビールと一瞬のきらめきについて

実は、この日を最後に、2020年8月末時点で、オフラインでのキリンビールサロンの講座はおこなわれていない。第5回の卒業式が、コロナ禍の影響で無期限の延期になったからだ。

みんなでビールを飲んだ思い出のお店「あぼか洞」も閉店してしまったと聞いた。すごく寂しい。

月並みな言葉ではあるけど、世の中も自分の人生も、本当に何があるがわからないと痛感する。

そして、だからこそ、なんでもない生活の中で、好きな人たちと乾杯できる喜びも感じている。

キリンビールサロンに入って、一杯のビールが手元に届くまでに、本当にたくさんの人の想いがこめられていると知った。

その結果、「酔うため」ではなく、リスペクトをこめて、「味わう」ためにビールを飲むようになった。

一人で飲むよりも、気のおけない仲間と飲むビールはずっと味わい深いとわかった。

一人では乾杯はできなくて、同じ乾杯は二度となくて、人生でできる乾杯の数はきっと限られていて、その一回一回が尊くて。

楽しい時間はビールの泡が消えるみたいにあっという間に過ぎるけど、みんなで集まって乾杯をする、そのわずか数秒の「一瞬のきらめき」のためなら、なんだってやっていける気がする。

キリンビールサロンでの活動を通して、ごく当たり前だけど、ものすごく大事なことを学んだ。

忘れかけていたギフト

キリンビールサロンの卒業式の延期が決まってから少し経ったあと、ものすごく個人的な話をすると、コロナの影響で、予定していた自分たちの結婚式が延期となり、4月は精神的にズーンとした日々を送っていた。

そんなとき、宅配便が家にやってきて、第4回のキリンビールサロンで作ったオリジナルのピルスナービールが手元に届いた。

完全に忘れかけていたので、見事な不意打ちサプライズだった。

ビールだけでなく、ビールづくり体験教室の認定証や

まるで宝の地図のようなビールのガイドも。

そして、極めつけには、手書きメッセージつきの一番搾りまで。

落ち込んでいた自分に、「元気だして。また乾杯しようぜ!」と言わんばかりのあたたかいギフトの数々に、涙がこぼれた。

卒業式が延期になって一番ショックなのは運営のみなさんのはずなのに、このホスピタリティには本当にグッときてしまった。

みんなでつくったピルスナービールは、なんだか甘かった。

特別補講と新しい乾杯

後日、「特別補講」と称した、キリンビールサロン全体でのオンライン飲み会が開かれた。

卒業式が延期になった件に対して、サロンメンバーが「延期したのは、長く楽しめるようになって、正直ラッキーだと思ってます」「また飲みましょう!」といったコメントをしていて、ビール愛好家たちの懐の大きさ、前向きさに笑みがこぼれた。

オンラインになっても、講師の草野さんの語り口は相変わらずキレキレ&キュート。

メンバーのノリの良さも雰囲気も、いつものキリンビールサロンそのまま。オンラインでもオフラインでも、僕らが集まればそこがキリンビールサロンになるのだと思った。

直接会うことが難しくても、キリンビールサロンなら、新しい乾杯の形を生み出していけると確信する補講だった。

キリンビールサロンのみなさん、また思いっきり乾杯しましょう。

たとえ卒業式を迎えても、末永く、よき飲み仲間でいてください。

そういえば、遠野にみんなで行ってビールを飲む企画も進んでいない!

俺たちの乾杯はまだまだこれからだ!!

また会う日まで、どうかお元気で。


【おわりに】キリンビールサロンに参加してよかったこと

これからキリンビールサロンは第二期の募集がはじまるということなので、一期メンバーとして、参加してよかったポイントについてまとめておく。

・楽しい飲み仲間がたくさんできた
・ビールをさらに美味しく感じるようになった
・何十種類もの世界中のレアなビールを楽しめた
・自分でビールをつくる体験ができた
・Facebookグループを通じて美味しいビール情報が常に入るようになった

キリンビールサロンのいいところは、知識量にかかわらず、みんながビールを愛し、お互いをリスペクトしあう空気があるところだと思う。

僕のような、あまり知識がない人間でもビールについて体系的に学べる。知識量を競い合うのではなく、みんながおすすめ情報を嬉しそうにシェアしてくれる。

ビールの裏側のストーリーを聞くと、ビールを丁寧に味わって飲むようになる。丁寧に飲むようになると、ビールをさらに美味しく感じるようになる。

しかも、ビールの知識・物語をツマミに美味しいビールを飲むという、「体験に基づいた知識」は一度身に染み付いたらなかなか離れないので、言ってしまえば、一生ビールが美味しくなる魔法にかかったようなもの。

すごいぜ、キリンビールサロン。

一期生として、二期がさらに盛り上がりを見せることを陰ながら祈っております! そしていつか、一期と二期で合同飲み会できる日を楽しみにしてます。

思えば、はじめてビール(発泡酒)を飲んだときは「苦酸っぱい」と感じたけど、あの日飲んだのがスタウトやIPAだったら、また違った感想を持っていたのだろうか。

うーん、ビールの世界はすごく広大で、とてもおもしろい。

みなさんの毎日が、どうか素晴らしい乾杯で溢れますように。

一緒によく飲みよく笑った、キリンビールサロンのnote枠の仲間、とみこさんの記事も、ぜひ。





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