笑顔と夕日とイチゴのポッキー。

同級生のお母さんから写真をもらった。


入学式初日。
クラスに集まった20人前後の子供たち。
集まる視線の先で先生が話している「入学おめでとう」という話。

その最中、ちょっかいを出している子とそれを黄色の帽子でガードし、嫌がる私。

そんな一コマ。

入学式の日に出会ってから、
私は彼が苦手だった。

一つ目にものを散らかす。
二つ目にそこらじゅう落書きだらけ。
三つ目にちょっかいが多い。

ボリボリ身体中を掻き、
フケを落とし、鼻水を手で拭いてさらに服で拭く。
それが嫌だったし、何故それをするのかよくわからなかった。

私は今以上に潔癖。だから
嫌悪の対象でしかなかった。

宿題はやってこない。
先生の話は聞かない。
落書きが多い。
そして私のもの勝手に使う。

苦手だった。

入学から数ヶ月、
そんな彼の居残りに付き合わされて、
放課後一緒に勉強をしたことがあった。

彼は頭が悪いわけではない。
むしろかなりいい方。
ただ、体を搔きむしりながら「めんどくさい」と言っていた。

そんな居残りに付き合わされたあの日。
校庭に響く遊び声。
それを背に終わった宿題。

あんなに怒ってた先生から
「頑張ったね。秘密だよ。」と言われた夕暮れ。
教室でもらったイチゴ味のポッキー。

夕日に当てられた先生の笑顔も
頭を掻く友達の横顔もうっすら覚えてる。


3年生になって、彼と他の仲間で草野球をしたり、
家に入り浸ったり、球場で応援をした。
当時、勝てれば奇跡とまで思った
千葉ロッテマリーンズを飛び跳ねながら応援した。

リーメイ。レッツゴーリーメーイッ、俺たちの戦士〜
なんて叫んだり。彼は裸で踊っていた。


そんな彼は
もういない。

知らないうちにいなかった。

それは中学生になった最初の冬。いつも通りの風景。

何もなく、みんなと他愛もない会話をし、別れて、始まった
冬休み。

大晦日を終えて、また一段と寒くなった正月。
テレビがまだ特番をやっていた。

電話が鳴って教えてもらった
「〇〇くんが亡くなった」
と言う一報。


今、覚えているのは

通夜。
共に行った母に言われた「香典が払えない」。
名前を書いて何も渡さず、通り過ぎる受付。
友達のお母さんの「え?」という顔。
顔をあげられなかった私。
恥ずかしい。真っ赤になる私の顔。

うちは香典代も払えなかった。


神式という方法を初めて聞いた。
クラスのみんなで神式の練習した。
榊という葉を覚えた。
そんなこと。

告別式。
式で泣く女子たちの顔。
小学校が違った子たちのなんとも複雑そうだった顔。
ご両親の顔。
泣きながら棺桶に寄り添う野球仲間の顔。

私はそこに交ざれず、
それをただ眺めていた。
そんな私はどんな顔をしていたのだろう。

思い出せない。


写真をもらったいつかのお正月。
毎年、同級生と彼の家に手を合わせに行った。
四角い枠の中にいる彼の笑顔は何も変わらない。
私たちはこんなにも老けていくのに。

彼は老けない。ずっと。


手を合わせる私は
報告なのか。儀式なのか。懺悔なのか。

今の私をどう思うだろうか。

今は何もない。

友達も。
夕焼けの笑顔も。
イチゴのポッキーも。

今日も彼のいない家を過ぎる。

私なんかにサポートする意味があるのかは不明ですが、 してくれたらあなたの脳内で土下座します。 焼きじゃない方の。