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High Tech Highの骨格ー10のシステム

High Tech Highの良いところを10個教えて、という宿題をもらったので書いてみました。10個も捻り出したら、HTHの骨格のようなものが浮き上がってきた感じがします。


1. クリエイティブな授業、クリエイティブな生徒を育てる"先生"を生み出す環境

HTHの最大の魅力は、なんといっても先生たちが魅力的なところだと思います。
HTHは公立でありながら、指導要領を使っていません。「何を」「どのくらい」教えるかは、それぞれの先生の裁量に任されています。だから授業を創り出す先生たちは、「次にどんな授業(プロジェクト)をさせようか」いつも目をキラキラさせながら考えています。
2018年の9月、私がHTHを訪れた時も、「あの先生のクラス見に行っておいでよ。本当にいつもクリエイティブなプロジェクトやってるから!」と言って何人もの先生が、同僚の先生のことを誇らしく語ってくれたのが印象的でした。

HTHの中では、どの先生がどんなプロジェクトをしているか目に見えるようになっています。物理的に、教室の壁もスケルトンだったりします。ほかのクラスがどんな授業をしているか、自分の取り組んでいるプロジェクトに対する生徒たちの反応はどうか。先生たちは刺激し合ったり相談しながら授業をしています。アイディアを出し合い切磋琢磨できる環境があるから、教科横断型といったコラボレーションも活発的に生まれます。

HTHの先生たちとランチをしていると、ふざけながらこんな話してくれました。

「ほかの私立の高校に行けばもっと給料は良いよ。」
「みんなで転職するか!」

いかにHTHが注目されようと、公立であるが故、先生の給料は高くありません。それでも私の在学時から10年以上この学校にいるおっさん先生3人組。ちなみにこの日のランチ近くは一緒にトレジョ(健康志向なスーパー)に買いに行きました。おっさんズがヘルシーなサラダをチョイスしているところに年月の経過を感じました。笑

「でも、ほかの学校だったら教師をこんなに楽しめてなかったなー。」
「こんなに続けられてるのは、この学校が自由にやらせてくれているからだよ。」

先生たちの上にある学校組織は、現場に協力的だそうです。
普段は自分にクラスを任せてくれていて、「何か困ったことはない?」って聞いてくれるそうです。そうやって安心感のある状態でそれぞれの先生がいかんなく授業作りに集中できる仕組みが、先生をクリエティブにし、結果生徒がクリエイティブになる、High Techの根幹なのだと思います。

先生たちの魅力レポートは前回の訪問記事でも触れております↓

https://note.com/okayuka/n/n292ea2af44ea


2. コミュニケーション力を育むグループワーク

日本でも"協働”という言葉が注目されるようになりました。HTHでは1人で取り組むプロジェクトよりも、グループで取り組むプロジェクトの方が圧倒的に多いです。
当たり前ですがグループワークは、プロジェクトの成果もやりやすさも、メンバーにかなり左右されます。

成績の良い子や仲の良い子と組めば進行はスムーズだし、自分が頑張らなくても良い成果が出ることもあります。それとは逆に、やる気が無い子、積極的にコミュニケーションを取らない子と同じグループになったらもう大変でです。

しかし出来る子にとっては、上手く行かない時こそが学びなのです。遅れている子に対して、細かく期限を決めて進捗を確認するのか、どこの手助けが必要か聞くか。そうやってリーダーシップを学んだり、苦手な人とでも一緒にプロジェクトを進めるコミュニケーションの取り方を学ぶ。
もちろんリーダーシップをとっている子が空回りして嫌われたり、意見が対立して喧嘩になったり、やっぱりサボりがちな子が仕事をせずグループが空中分解してしまったり、当然様々な問題が起きる。

それでも、1つのプロジェクトには必ず終わりが来ます。発表や振り返りを経て、自分の取り組み方や人との関わり方を見直し、次のプロジェクトに活かせば良いのです。そうして失敗体験も成功体験も、無限に積み重ねていけるのがHigh Techの強みです。

3. 逆算力を育てるプロジェクトのタイムライン

HTHの各教室のホワイトボードには、必ずカレンダーが書いてあります。プロジェクトによって長さは1週間だったり、1ヶ月だったりするけれど、その中にも細かくタイムラインが引かれます。
「この課題の提出期限はいつ」という情報を可視化し意識させることで、締め切りから逆算してどれくらいのペースで課題を進めるかを考える習慣が養われます。

4. 文化系選択教科と体育系選択教科

教科数の少なさと、生徒の少なさから、他の公立校のように選択できる科目が少ないHTH。その中で週に1時間ずつ、学年横断型の選択科目が2つありました。

文化系の選択科目:例「スペイン語で演劇」「女性の権利とその歴史を紐解く」「麻雀」

体育系選択科目:例「サッカー」「ボルダリング」「ヨガ」「ダンス」「ドッジボール」

どちらも、自分の担当教科とは別に、それぞれの先生が教えたいこと、やりたいことを提示する形で成り立っています。(外部講師を呼んでくるのもOK。私が取っていたカポエラの先生は毎週外部から来てくれていました。)生徒にとっても先生にとっても、良い気分転換の時間になっていました。

5. パワーランチ

週に1度、ランチの時間に外部から色んなゲストを呼んで話を聞きながら食事をとる時間がありました。
国連の職員や、AmazonやGoogleといった大手企業の人、クリエイターなど、顔ぶれは様々。

生徒は学期に最低1回、気になるゲストの回のランチに参加します。社会人と触れる機会があること、特に自分が気になる職種の人のリアルな話を聞くことは生徒にとって良い刺激になっていました。

6. インターンシップ

High Techでは在学中に12週間のインターンシップが必修になっています。「働くとはどういうことか」を知るために行われるこの職業体験も、ただ自分のインターン先に行くだけでは終わりません。

週2日・4時間のインターンシップを経験しました。私は興味のあった演劇の劇場に行かせてもらいました。(めちゃくちゃ恐い先生で泣かされたこともあるけれど、劇場に交渉してくれたことにはとても感謝しています)
それとは別に週に1時間は学校でインターンシップのクラスがあり、プロジェクトが展開しました。「働いている人にインタビューをする」「インターン先の認知を拡大するとしたらどんな行動を起こすか」クラスで出てきたお題を自分のインターン先で検証し、またクラスに持ち帰って発表する。これをやって良かったなと思ったのは、自分の体験先は1箇所でしたが、クラスメイトの体験を聞くことで一度に複数の職種や会社を知ることが出来たことです。

7. アウトプット前提の学びーエキシビジョン

なんといっても、学期末の1大イベントはエキシビジョンです。
自分たちが学んだことを保護者や地域の人の前で発表します。

学校は開放されて、誰でも入って来れるようになります。フォーマルな服装の生徒たちが、自分の作品を説明します。生徒が何を学んでいるのか、先生が何を教えているのか、ショーケース形式でハッキリと見ることができます。

8. アウトプット前提の学びーデジタルポートフォリオ

テクノロジー系の授業が充実しているHTHの中で、その能力を最大限にアウトプットする場の一つがポートフォリオです。簡単にいうと、学生は1人1つ自分のホームページを持ちます。その自分のホームページ上で、各教科ごとに自分が学んだことを表します。学期末試験のプレゼンテーションでは、このポートフォリオを資料として発表します。これがなかなか大変で、学期末になると生徒が至るところでパソコンにかじりついてウェブサイト作りに取り組む姿が見られます。

ポートフォリオの良いところは、テストで何点取ったから理解度がどれくらいか、といった数値ではなく、「その単元を学んで、自分が何を考え、どう形にしたのか」を目に見える形で、自分で残していけることです。4年在籍した生徒であれば、自分が4年間で学んだことを全てログに残した大作が。

HTHではHTML、CSS、Java、Photoshop、Illustrator、Final Cut Pro、3D写真や3DプリンターといったベーシックなIT科目を全員が必修しているため、これを活かして自分のページを組み上げる表現力もここで発揮できます。ちょっと綺麗なウェブサイトを見つけると、みんなソースコードを読み始めちゃうのが普通です。

何よりこのポートフォリオ、ひいては期末試験のプレゼン(で苦しむこと)が頭の片隅にあることで、「最終的にどうアウトプットしていくか」「目の前のプロジェクトを通して何を学ぶのか」を意識して取り組むようになりますね。これが全体的な学習効果を高めていると思います。

9. アウトプット前提の学びー学期末のプレゼンテーションPOL

完成したポートフォリオを引っさげて、学期末試験はプレゼンテーションが行われる。各教科ごとに、担当の先生、オブザーバーの先生、保護者の前で自分が学んだことをプレゼンし、質疑応答に答えます。

もちろん制服のないHTHですが、この日はフォーマルな場として生徒もオフィスカジュアル、先生もスーツで臨みます。

普段グループワークが多い学校生活の中で、ここでは完全に「個」を見られます。プロジェクトに自分がどのような形で貢献したのか、何を学び、どんな成長を遂げたのか。プレゼンするということは、自分を振り返るということです。それに対してこの学期末のプレゼンは、圧倒的な内省(リフレクション)です。

10. 学びを深め、広める。High Techの大学院

高校と同時に設立されたHigh Tech HIgh大学院。HTHは生徒に主体的な学びを提供し、アウトプットをさせる学校です。その教育メゾッドを研究し広めるところまで最初の段階から構想に入っていて、しっかり実現しているんだからすごい。あっぱれ。賢いぞHigh Tech。

既にHTHで教鞭をとっている先生も、この大学院に通っている人は多いです。公立のHTHで給料を上げる唯一の方法がマスターディグリーを取ることです。そして学校にとっても、どうせ大学院に行くならHTHの教え方を昇華させてほしいと思うのは必然で効率が良いですよね。

この大学院では、実際にHTHのクラスにアシスタントとして入って授業をしたり、担当の先生からフィードバックをもらえるようになっています。

全米から人が集まっているこの大学院。私が会った大学院生は、NYから来ていて、卒業後はNYに戻って新しい学校を創るのだと話してくれました。この大学院で学んだ卒業生が全米でこの教育を広めて行くのだと思うと、アメリカの教育界、公教育の未来は明るい気がします。


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