見出し画像

アーミテージ・ナイレポート2020から読み説くバイデン政権


・アメリカの有力シンクタンクからの提言

 リチャード・アーミテージ氏とジョセフ・ナイ氏が所属するCSISというシンクタンクは全米でも有名なシンクタンクで今回発表された両氏によるバイデン新政権への提言は日本にとっても大変興味深い内容だった。アーミテージ氏は知日派として知られているが、知日派が親日派と「=」ではないということは十分に理解してもらいたい。

彼らにとっては当然自国であるアメリカが重要であるのだからこのレポートもアメリカがどうするべきかという視点で書かれている。これを読む日本人は「では日本はどうするか」と考えながらこれを読む必要性があるのだ。

・中国への危機感

 アメリカは現在覇権国の地位にある。この地位を奪取すべく中国が現在進行形でアメリカの経済力や軍事力に挑戦しているわけだ。両氏はこの中国の台頭を強く危険視し、アメリカのアジアへの影響力拡大のために日本とより密接な連携をとることを勧めている。今年度で期限を迎える在日米軍駐留費負担に係る特別協定の延長も当然のことながら、「クアッド」や日本の「ファイブ・アイズ」参加などについても書かれており、大変興味深いものであったがこれらにはいくつもの懸念点が存在しているのだ。

 まずバイデン政権そのものである。彼らが内政重視の政権であることは明確で、外交においては同盟国による誘引が必要である。すなわちアジアに影響力を拡大することは考慮するがそれがどのような形で行われるかはアジア諸国次第と考えられるのだ。

次に「クアッド」だがバイデン政権は「環境重視」「人権重視」などを掲げている。クアッドの面々である日米豪印はバイデン政権の方針によって連携が乱れる可能性が出てきているのだ。

環境重視について日本は早々に菅首相によって「脱炭素社会」「2050年までには~」など重視しているアピールが行われたが、オーストラリアは主な輸出品が石炭でありこれを環境重視の名のもと封じられると経済に大きな影響が出る。ただでさえ中国と対立し経済的自立の最中だというのにアメリカが味方にならないとのことではオーストラリアの努力は水の泡をなりかねない。

人権重視の面はインドに大きく影響を与える可能性がある。インドの国内問題として人権は大きなものだ。かつてのカースト制度の名残や女性蔑視、これらに関する事件が社会問題となっている。アメリカによるこの方針にインドが対応できるのかは一つの不安材料だ。すなわちバイデン政権が中国に挑むというもその連携にハードルを設けてしまうと連携が難しくなりかねないのである。

 「ファイブ・アイズ」についても日本が参加するには大きな壁がいくつもある。日本は失われた30年の中でデジタル化が遅れた国であり、今菅政権によって急速に転換に向かって動いている。しかしデジタル推進にも当然抵抗勢力が存在しこれらを対処していくことが基本の基本なのだ。さらにその後、情報リテラシーやインテリジェンスという重要な政治的分野の研究や組織設立などを行い、「ファイブ・アイズ」に参加してお荷物にならないような準備が多々必要である。「ファイブ・アイズ」参加という言葉だけ見れば嬉しいかもしれないが、そのために日本に課せられた課題は膨大なのだ。

・バイデン政権とアジア

 バイデン政権が中国に対抗する意思があるのは結構なことで、この流れを日本は後押しして中国の抑制に努めるべきだ。日本は国内において「人権」を声高に叫ぶが国外において「人権」、特に中国の引き起こす人権問題については意見が出てきていないような気がする。

安倍政権以降アジアにおけるリーダーシップを超緩やかに回復しようとしている日本は中国抑制のために「自由で開かれたインド太平洋構想」「クアッド」などの重要関係性を緊密にしつつ、バランサーとして欧州に働きかけを進めていくべきだ。

バイデン政権は民主主義サミットの開催について発言しており、2021年新しい国際関係の形が構築されていくことになる。バイデン政権はトランプ政権のような中国と経済対立を深刻化させるような行動をとるとは思えない。しかし、対立構造を過度に軟化することは覇権国としてありえないため対立構造は続くだろう。

バイデン氏の外交政策についてはこちらにも書いてるのでどうぞ。

 一方で環境に関する圧力は多くの国で波紋を呼ぶのではないかと考える。わざわざ環境問題に関する特使を任命して対処しようというほどの意気込みだということは環境問題に着手しない国に圧力をかけることは明白だと考える。

環境重視の姿勢は欧州でも強まっておりフランス・ドイツでは環境政党「緑の党」が支持を拡大している(特にフランス)。日本もこの流れで炭素税や脱炭素社会に向けての規制について議論されることになりそうだが、ここはアメリカに追従してはいけない。

日本の技術はすでに他国に比べて十分環境に配慮したものもあり、これを無理やり規制して経済を冷え込ませるべきではない。

むしろ日本に求められているのはその逆だ。減税と規制廃止。この二つこそ日本の成長のための必需品である。2021年の日本が経済回復のためにより一層の経済対策、そして減税、規制緩和が起きていくことを切に願う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?