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『きみの友だち』

作文教室の生徒の二人がたまたま重松清の『きみの友だち』の読書感想文を書くというのであわてて読んだ。
読みやすそうだと思ったが案外ボリュームがある。それでも物語の行方が気になって、一気に読んだ。
学校時代の人間模様が生々しくて、わたしもしんどかったことを思い出して胸が苦しくなった。

なんだ、わたしの頃と大して変わらないと思ったが、見ると2008年、まだスマホが出回る直前の頃に書かれたものだ。今はネットやSNSがある。より複雑な人間模様で、さらにいっそうたいへんなことになっているんだろうか。
先日、通りがかりの母子を刺した女子中学生、学校の派閥争いが嫌になって不登校になったと報道されていた。わたしも今の時代に生まれていたら、不登校になってたかも。きっとなってた。

こんな生々しい話、現役ど真ん中の子どもたちはどんな気持ちで読むんだろうか。この小説を読んで、自分だけがたいへんな思いをしているわけじゃないと知って安心するだろうか。

学校にしろ職場にしろ家庭にしろ、うまく人づきあいをするのはたいへんだ。加減もテクニックも知らない学校時代はなおさらだ。おとなになっても苦労が絶えない。わたしは人との距離がとりやすい環境のおかげでずいぶん楽になったけれど、それはたまたま運がよかっただけだ。

みんなとうまくやっていこうと思うあまり、八方美人とののしられ、はじかれたかと思えば親友よばわりされて、どこまでも周囲に翻弄される堀田ちゃん。
彼氏ができた友だちに冷たくされたからなのか、グループに入れてあげると友だちに同情されたせいなのか、心因性視力障害になってしまったハナちゃん。
壮絶ないじめにあって転校してきたのに、またクラスで浮いてしまった西村さん。
学業もスポーツも優秀なブンとモトの内に秘めた嫉妬心。
後輩の前で偉そうにすることしかできないどこまでも駄目な佐藤くん。

誰もが思い当たる格好悪くてみっともなくて弱々しい部分がみごとに描かれていて、わたしならもう少しうまくやれるなどと思いながら、どこか他人事とは思えない緊張感を味わってしまった。
いい年をして、学校時代を懐かしむ余裕なんてなかったのでした。

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