朝を邪魔する船の音
「はい、ぱぱおならした。げーむおーばー」
夫が平気でおならをするようになったのは、いつからだろう。よりによって朝ごはんを食べながら、彼は当たり前のようにおならで返事をする。
付き合った当初は「おならを我慢して腹痛になるかわいいボーイ」だったのに。お腹が痛いとうずくまる彼に、水をたくさん飲ませて、その羞恥心を愛おしく思ったこともあったのに。
一体いつからこうなってしまったんだろう。
「ボッ」「ボー」「ボウッ」
そんな音、ふつう人間の体内から出る?
息子のおならなんて「ぷぅ」だ。しかもした後の照れ方が可愛いから、不快どころかプラマイゼロ、むしろプラスで着地する。
夫のそれは本当に不快だから、止めて欲しいと何度も言っている。珈琲をすすりながら、思わず眉間に力が入る。子ども達も「さいあく」と言っている。それでも止めない。「えっパパじゃないよ」と嘘つくことさえある。
そういえばうちの父親だってそうだ。御年70歳を越えても治らないのだから、父親に共通する奇病なのかもしれない。完全に嫌われるのに、どうしてそんなことをするのだろう。しかもちょっと嬉しそうに。
今朝、いいかげん堪忍袋の緒が切れた私を遮る速さで、息子が夫に言い放ったのが冒頭の言葉だ。
ちなみに「げーむおーばー」は、まあまあ見放されている。これがもっと進むと「たいほする」になる。家庭内のイエローカードと言ってもいいだろう。
私はね、朝は爽やかに、気持ちよくはじめたいの。おいしい朝ごはんを食べて、熱い珈琲を大切にすすって。
今朝は娘がトーストを焼いてくれた。ていねいに1枚ずつ、小さなお花を咲かせてくれた。
それをあの、忌々しい「ボーッ」という船の汽笛のような音が、一瞬で壊すんだからたまらない。
朝食時父おなら多発病、治す方法はないのだろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?