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仕事はカツ丼、育児はラーメン

「仕事と家庭の両立」なんて、軽々しく言うもんじゃない。

仕事と育児はどちらも炭水化物で、純増したら胃がもたない。若かりし自分に、そう伝えられたらどんなに良いか。

人生はいつだってシェア按分で、友達との時間が増えれば親は疎ましくなるし、恋人ができたら友達はおざなりになる。子どもができてもいままで通りの生活なんて、幻想もいいところ。

万事楽しげなママ雑誌なんかでは、想像などできるはずもない。朝の発熱で夫婦が諍い、予定をリスケして、翌日の目処も立たないとき、
「ただ今まで通りに働き続けることが、こんなにも難しいのか」と白目をむく。子どもが発熱して熱性痙攣でも起こした日には、パニックで自分を見失いそうになる。

自分の時間がない毎日に、自分で決められない毎日に、困惑するのだ。

独身時代は、がむしゃらに仕事をしていた。定時が何時かなんて知らなかったし、パソコンは24時間すぐ側にあった。 好きなだけ、好きなように、働いていた。辛くても、辛い道を自分で選んで生きているという実感に酔っていた。

四六時中働くというのは、長く働かなければ成果を出せないということでもあり、今思えばちょっと格好悪い気もするけれど。でもあの頃の自分を嫌いにはなれない。

やっぱり仕事と育児は、どちらも炭水化物だ。

私の場合、例えるならカツ丼大盛りを食べているところに、とんこつラーメンが運ばれてきた感じ。

結婚して妊娠して、「よしカツ丼は並盛にして、デザートも食ーべよ♡」なんて浮かれていたら、出て来たのはとんこつラーメンだった。なめていた。いや、とんこつラーメンは大好きだけど、カツ丼大盛と一緒に食べたらどっちもきつい。

世の中には、カツ丼をあっけなくやめてとんこつラーメンをさも美味しそうにすすっている人もいる。カツ丼は大盛食べたまま、ラーメンを誰かに食べてもらってる人もいる。子どもが4人もいる人なんて、私に言わせればとんこつわんこラーメン。まったくみんな、どうなってんの。

ママになったばかりの頃は、カツ丼もラーメンも食べきれず消化不良で、さめざめと泣いていた。「ぜんぶ100点取ろうとするからしんどいんや」と当時の上司は笑ってくれたけど、私は全然笑えなかった。100点がほしくて、悪あがきして、見事に両方とも崩壊した。


そうして、私は10年勤めた会社を辞めた。

次に選んだ生活は、さしずめ親子丼とうどんという感じ。仕事は近所の時短社員にして、親子丼くらいの重さに変更。家庭は子どもの成長とともに楽になったし、そんなに根を詰めて育てていないから、きつねうどんくらいの余裕ができた。

問題があるとすれば、私はその親子丼がそんなに好きじゃなかった。胃のサイズには合っているけど、ちっともおいしくない。

本当はカツ丼が食べられる自分が好きだ。うどんを食べるのは決定事項だけど、どうしてもカツ丼が食べたい。だから夫が食べているカツ丼に、私だって食べたかったのに!と時々文句を言う。あまりにもダサい。


今年、私はまた仕事を辞めた。親子丼とは3年もたなかった。自分が何をやりたいのかを優先し、在宅フルタイムで働くことにしたのだ。

私の住む街は、まだまだ終身雇用の世界だから、勿体ない!と周りから繰り返し言われる。子ども達が小さいうちは自分は二の次でいいじゃない、という意見もある。そうかもしれない。無いものねだりのバカだと、わかってはいる。

それでも、私は自分で決めたい。しんどいけど気合いで頑張らなくてはという諦めも、今はこんなもんでいいやという諦めも、到底私らしくない。正解では無いかもしれないけど、ジタバタしていたい。自分にとっての働く面白さを、まだ諦めたくない。

幸い、社会は追い風だ。自分だけの「はたらく」を取り戻し、私はおいしいカツ丼を食べるよ。

#はたらくを自由に
#仕事 #育児

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