人民元に付いていく韓国ウォン - 東アジアの情勢変化と富の移転。

 最近ではあまり大きな話題にならなくなったが、人民元の対ドルレートで1つの目処と言われた1ドル=@7.00人民元を軽く突破して@7.20の方に向かっている。これにピタリと追走している通貨がある-そう、韓国ウォンである。( ↓ はドル・人民元とドル・韓国ウォンの1年チャート)

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 トランプ大統領は「中国は元を意図的に安くしている!」と糾弾していたがこれは間違った認識市場というのは常に利益がゼロになる均衡点を求めて動くものであり、この人民元安は米国による追加関税により、輸出できる採算点まで人民元が安くなる、という極めて合理的な動きだ。

 現実に中国は人民元を対ドルで@7.00以上に保つため外貨準備を1兆ドルも使って人民元高にコントロールしてきたが、状況がここに至りドル売・人民元買介入を止めてしまったと考えられる。さすがにトランプ大統領もこのことに気付き始め(おそらく経済ブレーンがアドバイスしたのだろう)「為替操作国」のような指摘は陰をひそめつつある。

 一方、輸出立国である韓国。日本にとっての円安同様、本来ウォン安は韓国に利益が大きいはずであるが、中国への輸出に傾斜してきたため人民元安によってウォン安メリットは相殺されてしまっている。アメリカや日本とは今このような状況であるから、輸出が増えていくことは考えにくい。

 そうするとウォン安は資本流出の懸念だけを助長する結果になり、デメリットの方が大きくなる。韓国の外貨準備は、2019年6月末の公表値ではおよそ4,000億ドルらしいが、中国が1兆ドルもかけてドル売り介入しても人民元安を止められなかった事実を考慮すれば、4,000億ドルでも十分な金額とはいえない。それも全額介入に回せるかについては疑念がある。(8月13日投稿の 韓国「外貨準備高」の怪 もご興味があれば参考まで)

 詳しい分析は経済学者やエコノミストの方々にお任せするとして、マーケットの観点から単純にこれらが何をもたらすか、考えてみた。 ↓ 

通貨の安くなっている国の資産価値減少、購買力の低下。海外資本流出による経済、雇用の悪化 → 株価は下落、あるいは低迷。信用力の低下。  ②関税による価格押し上げ効果。輸入国の消費者が負担する事による実質所得の低下、消費の減退。→ 輸入国経済、株価にも下押し圧力。金利低下③関税収入増加による財政収支の好転=消費者から国庫への富の移転。→ 国債利回りの低下。

 どうだろう。マーケットは見事に合理的な結果を出している。( ↓ 上海、韓国の株価1年チャート、日米独の10年国債利回と実質金利)

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 トランプ大統領は様々な「ディール」によってもたらされる利益により、上記②の米経済下押し圧力を回避してきたわけだが、さすがに限界を迎えつつあるようだ。ここは米国民の金利所得を減らしてしまう利下げよりも、増えた関税の収入を財政出動や所得減税などに回すのが次の大統領選挙に向けての正しい処方箋だろう。

 中国に輸出の多いドイツも、もろに景気の下押し圧力を食らって第2四半期はマイナス成長に陥ってしまったが、財政出動に含みを持たせているのは正しい対処方だ。何しろ日独米では実質金利の低下がどんどん進んでおり、財政の余力は増しているとも解釈できる。

 ここで問題になるのが通貨安が進んでいて特にドル建の借金が多い国々。通貨安でドル建の負債自体が膨らんでしまう上に、景気悪化にも関わらず資本流出のため逆に国内の金利が上がってしまうケースがある。為替介入で通貨安を防ぎたくてもドルの外貨準備が十分でない場合がほとんどだ。

 現在ではベネズエラを筆頭に、アルゼンチン、トルコ、そしてユーロ圏ではイタリアなどがこの悪循環の中にある。これらの国々は景気悪化を防ぐには本来利下げが必要だが、通貨防衛のために反対に利上げを余儀なくされることが多々あり、最悪デフォルトに至るのが今までのパターン。

 アジアでは巨大な内需市場を抱える中国はともかく、1番微妙な立場なのが韓国。経済力、外貨準備もそこそこあるので、為替介入や株のPKOなど市場に揺れを起こしやすく、ファンドやトレーダーの格好の標的になる。国内は時期法務大臣の家族のスキャンダル一色のようだが、果たしてそんなことをしている場合だろうか?

 ただ、相場的にいうとウォン売りや韓国株ショートを手掛けている向きにとって最大のリスクは文在寅大統領の失脚だろう短期的には大幅な揺り戻しもあり得るので少し神経質になっているかもしれない。(中長期的には新政権が日米に歩み寄るとは限らず、むしろ状況が悪化する懸念さえある)

 改めて「米国覇権」の動向が大きく変わろうとしている令和の時代は大きな歴史の転換点なのは間違いない。仮想通貨の登場などで大規模な富の移転も起こるかもしれず、予断を許さない状況がこれからも続く。ご覚悟を。

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