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中国にとって「金の卵」香港 - 貿易編。

 5.27稿.中国にとって「金の卵」香港。 では主に「お金」=金融の部分にフォーカスして書いたが、今度は「貿易」について少し調べてみた。専門ではないのでザックリになってしまう部分もあるが、どうかご容赦を。

 香港は「フリーポート」(Free Port)と言われるが、税制などをアジアで同じ位置づけに当たるシンガポールと比較してみよう。

 <香港>

 ・基本的に関税ゼロで通関できる(酒、タバコなど一部品目に物品税)

 ・所得税標準@15%。2~17%。相続税、贈与税は無税。

 ・法人税 @8.25%、@16.5%の2段階。

 ・言語 ー 1997年までは英国領だったため英語が使えると思われているが、主流は広東語或いは北京語。中国本土出身の市民は英語が使えないことも多く、タクシーや買い物など英語が通じないことがしばしば。

 ・豊富な資金量。 e.g. 株式時価総額 - 501兆円(2020.2)

株式市場時価総額(アジア)2020.2

 

 <シンガポール>

 ・関税ゼロの「フリーポート」の機能は香港とほぼ同じ。

 ・所得税最高税率@20%。相続税、贈与税は無税。

 ・法人税 @17%

 ・言語 - 英語が「公用語」。 

 ・資金力は余りない。e.g. 株式時価総額- 73兆円(2020.2)。

 

 <東京>(参考)

 ・関税はFTA(Free Trade Agreement)、EPA(Economic Partnership Agreement)、TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement)、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)等による。

 ・所得税最高税率@55%(含.住民税)、相続税10~55%。

 ・法人税 @23.4%(2019.4時点)← @40%(1989年)

 ・株式時価総額 - 572兆円(2020.4)


 中国はいわゆる主要国とのFTAEPAは継続協議中のものも多く、そういう中でのフリーポート「香港」の果たす役割は大きかったと言って良い。特に主要輸出国アメリカに対しては香港を入れた「三角貿易」を利用してきた。1999~2001年の資料では、輸出、輸入ともほぼ半分が香港経由だ。当時は「アメリカの対中国輸出入額」「中国の対米輸出入額」の金額が食い違っており、その分が香港経由であると想定されていた。

香港←アメリカ輸入(2002)

香港→アメリカ輸出(2002)

 それでは現在香港の輸出入はどうなっているのか。

香港輸出(2016)

香港輸出品目(2018)

香港輸入(2016)

香港輸入品目(2018)

中国貿易

 現在の香港の輸出入額のダントツ1位は中国だが、貿易の要衝として見事トンネル化していることがわかる。中国と地続きで輸送コストが低いこともあり、関税のメリットを十二分に利用していた。

 だがその後「米中関税合戦」が始まると様相が変わってくる。2019年の調べでは、香港を経由した米国向輸出の77%が既に「関税引上」の対象になっているという。

香港・アメリカ貿易(2018)

 つまり今回アメリカが「香港の優遇措置」を撤廃しても、関税上のダメージは3,040香港ドル=395億ドルx23%=91億ドル分ということになる。

 この点、*経済的ダメージは大騒ぎするレベルではないのかもしれない。ただ、企業は少しでも自分達の利益が減るのを嫌がる傾向にあり、特に「反トランプ」のメディアが「切り取って」煽っている部分もあるだろう。

 実際「コロナ前」から人件費の高騰などを理由に中国からベトナムなど東南アジアへの「工場脱出」の動きは加速しており、中国の景気減速は既に趨勢として始まっていた。特に3,000億ドルもの貿易黒字を生み出して「富」の源泉となっていた対米輸出には陰りが出ており、「コロナ危機」はこれを駄目押しする格好になっている。

 おそらく問題は1,300社もあるといわれる香港進出済み米企業の「インフラ」だろう。撤退には膨大なコストがかかる。ただ、この10年で香港の不動産価格や人件費は急騰しており、企業にとっても税制面のメリットを相殺するような流れになっていた。**実際欧米の金融機関などでは香港から人員をデフレ状態だった東京などに戻す動きも出ている。

 **「損切丸」はイギリスの金融機関にいたが、辞めた2016前の時点で既に香港拠点の縮小は本格化していた。特に何億も貰っていた幹部クラスにとって所得税率の低さは魅力的で、みんなミッドレベルと言われる山の上の邸宅を社宅で借りて住んでいた。それも今は様変わりで、投資銀行の衰退で高額報酬の幹部は続々退職しており「節税」の意味も余りなくなってきている。むしろ高騰するオフィス賃料が重荷になっており、香港で日本株のオペレーションをしていた米系証券などもどんどん人を東京に戻している

 ちなみに中国にガンガン車を売っているドイツはどうか。香港を絡めた「三角貿易」スキームは用いていないので、実は香港問題に対しては冷淡。ダイムラー、BMW、VW(フォルクスワーゲン)などはドイツ本国の倍以上の車を中国に輸出しており、これでは下手に口を出せないのが実情だ。

ダイムラー2019

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 ただし中国が対米輸出でドイツ車を買うための「富」を生み出しているのも事実で、「コロナ前」からの中国の景気減速がドイツの足を引っ張っていた。今回の「香港問題」も含め、***今後の対応はかなり難しい。

 ***「メルケル首相G7欠席」→「G7開催を9月に延期」、「欧州が米国のWHO脱退を批判」などというニュースをこの自動車貿易の「数値」から読み解くと、「理念」「綺麗事」からの米国批判というより、ドイツの「都合」に過ぎないことがよくわかる。いわゆる「切り取り」記事。裏付けになる「数値」「事実」に欠け「複数の関係者」「各方面」などが登場する記事は、まず誰かの「都合」「宣伝」だ。まあ最も「都合」を前面に押し出しているのはトランプ大統領自身ではあるが(笑)。

 ここまで総括してくると「香港の優遇措置撤廃」そのものの経済的ダメージは限定的で、むしろこの数年進んできた「サプライチェーン見直し」の一環に過ぎない、と捉えられる。今回中国にとって重大なのは貿易面よりもやはりドルを稼ぐ「金の卵」としての香港の喪失の方だろう。****「ドルペッグ制」に手を入れられるとかなりヤバイ

ドル・ペッグ制度

 ****香港ドルは米ドルに連動する「ドルペッグ制」を採用しており、香港ドルと米ドルの交換を無制限に行い、1ドル=@7.75~7.85香港ドルに実質固定している。香港は中国にとっていわば「ドルのトンネル」。ドル(ゼロ%)と香港ドル(1%)の金利差の影響で為替市場では香港ドルは対ドルで強含んでいるが、逆に街中の両替所では大量に香港ドルを米ドルに替える動きが出てドルがなくなっている、という。さて、最後はどうなるか。

 

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