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「コロナ後」の物価動向を考える。 ー 一度転換すると長期に渡る「トレンド」(ちょっと長文です...)。

 「あれっ、随分時給が高いな(働こうかな)?」

 「損切丸」が前職を退いたのが2016年10月。ハローワークに行ったりもしていたので求人チラシも良く見ていたが、時給@1,000円を超えるアルバイトの募集が増えていたのを覚えている。筆者の学生自体のアルバイトは、東京でもせいぜい@700円程度だったので随分高くなったものだ。

 それが2020年9月現在、全国平均が@1,051円、東京が@1,177円驚くべき事にこの不況下、まだ上がり続けているという。需要の震源地は宅配が急激に増えた流通業界で、@1,300~1,500円も出す職場もあるらしい。

 これはテレビ番組でリクルート社の担当者も述べていたが、日本は今構造的に人が足りない。やはり少子化に加え団塊▼800万人が抜けていく衝撃も大きい。外国人留学生を雇ったり「ワンオペ」を駆使する等何とか凌いできたが、パンデミックがそれを打ち壊してしまった。そろそろ限界。

 「5年前からインフレは既に始まっている」は「損切丸」の自説だが、その最も大きな根拠がこの「人件費の上昇」。O型の筆者が何となく肌感で感じていたことを奇しくもデータが証明する形となっている。↓ 「人件費」が上がる時はまず「物価」は下がらない。それだけ影響が大きい。

平均時給(3大都市圏)

 筆者が生きてきた56年は、半分「インフレ」、半分「デフレ」。元・金利マーケットの専門家としての意見:物価や金利の方向性、トレンドというものは一度転換すると長期に渡る。平成以降、政府・日銀がいくら政策を発動しても「デフレ」を20年以上止められなかった。極論すれば利下げも財政出動もしない方が良かったのかもしれない。

 毎度の ”歴史” シリーズで恐縮(笑)だが「インフレ時代」を振り返ってみる。そこには金利と「ドル円相場」 ↓ が大きく関わっている

ドル円(1971~2020)

 為替市場が「変動相場制」に移行したのが1973年4月@360円に固定されていた「ドル円」はその後一気に@200~250円に。当時の日銀の公定歩合@4~9%で推移。 e.g.  1973年12月と1980年3月に最高値@9%

公定歩合

 流れが大きく変わるのが1985年9月「プラザ合意」「レーガノミクス」で高インフレに悩むアメリカの金利が@20%近くに達し、ドル高になっていたことが背景にある。ここから更に急激に「円高」が進み、1995年4月には当時の高値@79.75をつけた。

 さて問題になるのはこの時の日銀の「利下げ」。当時日本は景気回復傾向にも関わらず「円高」対応のため公定歩合を@2.5%(1987年2月)まで引き下げた。これが「バブル」の誘因になったとされており、その後の「バブルの崩壊」→「デフレ」突入は皆さんの知るところである。

 「インフレ時代」のピークは公定歩合が@6%にまで引上げられた1990年頃だろう。「乾いた薪」論「介入で飴細工のように(為替)水準をどうこうすることはできない」で有名な三重野総裁の時代だが、その後の「バブル退治」の失敗によって**日本は長いトンネルに突入する。

 **その後いわゆる「ゼロ金利政策」まで突っ込むことになるが、当時先進国で金利がゼロになるというのは画期的であり、驚天動地の出来事だった。筆者は日本円責任者として呼ばれてECB、BoE、FRBの担当者等と話をしたりプレゼンを行ったりしたが、”ZIRP”(Zero  Interest Rate Policy)などという呼称までこさえて半分嘲り、興味本位に近い反応だった。それが今や自分達も同じ ”沼” にはまり込んでいるとは...。歴史の皮肉である。

 約25年続いた「デフレ時代」もようやく終止符を打ったが、「アベノミクス」「異次元緩和」のおかげではない、が筆者の意見。まずは銀行の不良債権処理があり、その終焉と共に「デフレ」が終了した。ゼロ金利や財政出動はむしろ問題を長期化させただけで、何もしなかった方がトンネルは短かったかもしれない。

 これは「ドル円」相場然りで、為替レートというのは行くところまで行けば反転するような調整メカニズムが必ず働く。確かに民主党政権が放置したため「円高」に突っ込み工場の海外移転などの ”痛み” は伴ったが「円高」抵抗力もかなりついた。「円高」が「円安」を促すメカニズムが働き、いずれにしろ「ドル円」@100円台に戻しただろう。

 そして団塊からの大きな「世代交代」物価や金利の周期が20~30年に及ぶのは、こうした大きな変化が訪れる周期があるからだ。誰が政権を運営していても、遅かれ早かれこの流れは訪れるべくして訪れたはず。「コロナ危機」のような大きな出来事でさえこの潮流を変えるのは難しい団塊を代表する「ハンコ」「脱・ハンコ」に向かっているのがいかにも象徴的だ。

 1,000兆円を超える預貯金が物語っているが、日本全体が「デフレ・パラノイア」に陥っている現在は危ない。タワマンや株価、果ては金(Gold)やビットコインまで値上がりしているのは偶然ではない「値段が高すぎる」と文句を言いたくなる気持ちはわかるが、ある意味政府・日銀の***「通貨価値毀損政策」が効果を上げているとも言える。

 ***多くの人の生活実感が苦しくなっているのがその証拠。これだけ預貯金があるのに何となく楽でないのは「デフレ」とは明らかに違う「インフレ」の影響だ。賃金の上昇が遅れているため「実質賃金」が低下し、それが生活苦につながっている。この現象が著しいのがベネズエラ、アルゼンチン、トルコ、レバノン等の「高インフレ国」である。

 想像してみて欲しい。公定歩合@9%の時にまさか金利がゼロになると思っていた人はほとんどいなかったはず逆も真なり。円は今のゼロ金利から(@8~9%は無理でも)@3~4%への上昇は十分に有り得る。敢えて50年も ”歴史” を振り返るのはそういう「大きなトレンド」を考えるためでもある。

 「無理は通っても無理」は筆者の座右の銘だが、今通している「一番の無理」は1,000兆円を超える国債金利を「ゼロ近辺に維持」している事「デフレ・パラノイア」による巨額の預貯金を「国債管理政策」に巧みに利用しているわけだが、そろそろ終わりも見えてきている。

 金利の無い状態に慣れきった市場にとっては@+1~2%の金利上昇でも一定のショックが予想され、状況次第だが株や為替、不動産も影響は避けられまい。「ハルマゲドン」を喧伝するつもりはないが、10年後、20年後に後悔しないために頭には入れて置いた方が良い。ピンチはチャンスにもなる

 


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